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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 結界内で暴れ回る炎が収まり、神官騎士達が結界を解除すると、閉じ込められた熱気と焦げた匂いが辺りに充満し思わず顔をしかめる。


 ひどく臭い。そう感じているのは俺だけではなく、エレミアとアグネーゼ、それと冒険者六人も揃って手を口に当てて眉を寄せていた。


「ライル様! ソルジャーアントの掃討、完了致しました。念のため、他の者達がまだ息があるものがいないか確認しておりますので、もう暫くお待ち下さい」


 オルトンが足取り軽く歩いて来ては、晴れやかな声で報告してくる。


「お疲れ様です。それにしても、見事な結界魔法でした。まさかリリィの魔術を抑える程のものだとは思いませんでしたよ」


「いえ、あれはライル様がいたからこそ出来たのです。ライル様の魔力補充がなければ、とっくに我等の魔力は底を突いていた事でしょう。ライル様の底知れぬ魔力量を直に体験し、感激にうち震えております! 」


 だからそんなにテンションが高いの? まだ会って間もないけど、大体オルトンの性格が分かってきた気がするよ。


「ライル君、冒険者達は皆無事だったのかい? 」


 と、そこにクレス、レイシア、リリィの三人も冒険者達の安否を心配してやって来た。


「はい、この通り皆さん無事です。怪我も治しましたし、命に別状はありません」


 冒険者達の安否報告をしている近くで当の本人達は、ばつの悪そうな表情を浮かべている。


「あんたらのお陰で助かったよ、ありがとな。それとすまなかった。俺の判断ミスで仲間だけでなく、あんたらにまで迷惑をかけてしまった」


「いや、困っている人がいたら助けるのは当たり前だよ」


「うむ! クレスの言う通りだ。騎士として、命を見捨てる事など出来んからな! 貴殿らも、よく諦めずに戦い抜いた! 」



 レイシアが冒険者の健闘を称えているとこに、神官騎士から生き残りはいないとの報告があり、この大量にあるソルジャーアントの素材をどうするかで悩まされる。


「僕達はもっと奥まで行く予定だから持ってはいけない。君らの好きにして良いんじゃないかな? 」


「助けて貰ったうえにそれは悪い。素材はあの炎で殆どが焦げてしまって売れないが、魔核だけでも結構な額になる。それを俺達だけで持っていくなんて恩知らずな行いは流石に出来ないな」


 う~ん、困った。俺の魔力収納でソルジャーアントごと仕舞えば良いのだが…… 普通、空間収納スキルは魔道具や魔核といった魔力が籠っている物は入れられない仕組みになっている。なのでこの人達の前で魔力収納を見せるのは控えた方が良い。

 内緒にしてくれと頼めばしてくれるとは思うが、酒の席でポロッと漏らす可能性もある。商工ギルドではやらかしてしまったから、ここは少し慎重に行こう。



「では、山分けにしましょう。見たところ、マジックバッグをお持ちのようですので、一旦あなた方が全ての魔核を預かって貰い、後で分け合うのはどうです? 」


「俺達はそれでも良いが…… ここから無事に戻れるかが心配だ。武器も防具もあの戦闘でボロボロになってしまったからな」


 このままじゃ彼等が町まで戻るには厳しそうだな。新しい武器を売るのもいいけど、ここは安全に送り届けた方が確実かな? となると――


「―― あたしの出番ってわけね!! 」


 うへっ!? いきなり魔力収納からアンネが飛び出して来たからビックリして変な声が出てしまったじゃないか。


「あんたらラッキーだよぉ? このあたしの力で、町までパッと送ってやろうじゃないのさ! 」


 突然現れた妖精に、冒険者達は目を丸くして事態を飲み込めずにいた。


「よ、妖精? いったい何処から…… いや、妖精は神出鬼没だと言うからそれは良いんだが、本当に俺達を町まで戻す事が出来るのか? 」


「当ったり前じゃん! そんなの朝飯前ってもんよ!! 」


 帰る目処がついた冒険者達の顔が明るくなる。


 それから俺達はソルジャーアントから魔核を取り出して、冒険者のマジックバッグに詰めていく。一通り詰め終わった所で、アンネが精霊魔法で此処と予め覚えておいて貰った町の裏路地との空間を繋いだ。


 丸い歪みの奥に見える裏路地の風景に、冒険者達はまたしても声を失う。


「ありがとう。君が治してくれた右手、もう二度と失わないようにするよ。君達が町に戻るまで俺達はずっと待っている。魔核の配分が終わったら、酒でも奢らせてくれ」


「はい、楽しみにしてます」


 其々にお礼を言い、彼等は空間の歪みを通って町まで帰って行った。


 さて、このソルジャーアントの死骸はどうするかな?


『ライル! それ、たべたい! 』


 ムウナもそう言ってる事だし、纏めて魔力収納に仕舞うか。


 しかし、これでもまだ緩い方で、奥に行けば行くほど過激になっていくんだろ? この先もあの戦法で纏めて焼いてしまえば楽に進めるかな?


「申し訳ありません、ライル様。魔力は十分でも、我々の疲労が溜まり集中が切れてしまいますので、そう日に何度も出来るものでは…… 」


 腑甲斐ありませんと、言葉が尻すぼみになり反省の意を示すオルトン。さっきまであれほど元気だったのが嘘のようだ。感情の起伏が激しいな。


 先程のはそう何度も出来ないのか…… 魔法を使うとそれなりに疲れるって言うのはエレミアや他の人達から聞いたけど、使えない身ではどれ程のものか想像に難しい。


「…… 自身に刻んだ魔術も、使用すれば同じように疲労が蓄積していく。強い魔術になる程、蓄積していく疲労は大きい」


 ごめん、それも俺には分からないや。はぁ…… 魔道具は普通に使えるのに、自分には魔術を刻めない―― というか刻める余裕が俺にはないと前に家庭教師をして貰っていたアルクス先生が教えてくれたっけ。


 懐かしいな。ひたすら魔力操作の練習と魔術言語の修得、そして効率の良い術式の組み方など、三年間みっちり鍛えられたのは良い思い出だ。


 おっと、今は過去に浸っている場合ではないな。あの戦法が何度も使えないとなれば……


『ライル、ムウナがでる、いってなかったか? 』


 ん? あぁ、そう言えばムウナを出して虫達を食べて貰おうなんて考えていたな。しかし、ゲイリッヒが気を使って自粛しているいうのに、世界を滅ぼしかけたムウナが出ては、ヴァンパイア以上の問題にはならないのかね?


『千年も前の事ですから、姿形は覚えていないのではありませんか? 例え伝わっていたとしても、今の男の子姿のムウナ君では似ても似つかないので気付く者はいないと思いますが? 』


 ゲイリッヒが言うように、今のムウナでは伝承に伝わっている姿とかけ離れているからバレないか? 取り合えず次に魔物が出たらムウナにも参戦してもらおう。


『やった! むし、たくさん、たべまくり! 』


 そんなに虫が食べたかったのか、ムウナは魔力収納内で喜び踊っている。まぁ、あんまりはしゃがないように頼むよ。

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