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四人の冒険者と別れ先に進むと、遠くの方にちらほらと人らしき魔力が視えてくる。
思ったより冒険者達が来ているようだ。彼等が魔物狩りをしているお陰で森の中でも魔物と遭遇せずにここまで進めたのか。
「それもあるかと思いますが、魔物もかなり慎重に動いているのもあるかと。これもインセクトキングの影響によるものでしょうか? 」
「たぶんね。集めた情報で判断するなら、あの魔物達は不必要に人間を襲わないようだし、先ずは此方の様子見をしているんじゃないかな? 」
アグネーゼと俺がそんな話をしていると、それを聞いていたオルトンが周りを警戒しながらも口を開いた。
「しぶんには何か、誰かを探しているようにも感じました」
探している、ね。それはオークキングか、はたまた別のものか。今ある手持ちの情報だけでは確信には至らない。しかしこれ以上時間も掛けてられない。カルカス湿原でのリザードマン大規模討伐がもうすぐ行われるそうだと、ガストールからマナフォンで聞いたからな。
出来ればリザードマンキングが倒される前にインセクトキングとオークキングを仕留めるのがベストなんだけど、そう簡単には行かないか。
もしインセクトキングがオークキングを倒せるのなら、それを待ってからインセクトキングを後で倒し、リザードマンキングを魔王にするっていう選択もある。大規模討伐で魔王軍の戦力を予め大幅に減らせるうえに、あわよくばそのまま魔王となったリザードマンキングを討つなんてことも?
『兄様…… それは希望的観測であり、そこに現実性がないわ…… 順当に行けばオークキングが魔王となるのは明白なの…… わたし達がするべきことは、そのオークキングをこれ以上強くさせないことだけ…… 』
レイチェルに現実を見ろと叱られつつ、巣の入り口まで辿り着いた俺は目を見張った。巣穴の地図を見て、洞窟のようなイメージを持っていたから、てっきり入り口も洞穴みたいなものだと考えていたけど…… これは、“穴” だ。
全長大人二人分程の大きな穴が地面にポッカリ空いてるだけ。これが入り口? よく見れば冒険者が設置してくれたのか、縄梯子が穴の奥に向かって垂れ下がっている。
えぇ…… もしかしなくてもこれを伝って降りるってこと? 大丈夫かな、途中で縄が切れたりしないよね?
「ライル様、ここは我等が先に降りて安全を確認致しますので、少々お待ち下さい」
「ありがとうございます、オルトンさん。他の方々もお気をつけて」
オルトンを先頭に、五名の神官騎士達が縄梯子を降りていった。残りの神官騎士は入り口近くを警戒してくれている。
『オルトンさん、どうですか? 』
『今梯子を降り終わったところです。周囲を見た限りでは、魔物はいないようです』
森への移動中に魔力念話をオルトンに教えたのだが、心に直接伝わる思念にいたく感動していたのは言うまでもない。あのオーバーリアクションはある意味一芸だな。
オルトン達によって安全が確認されたので、俺達も穴の奥へと降りていく。両腕がない俺がどうやって降りたかと言うと、魔力飛行でゆっくりと降下するだけ。縄梯子を使うよりずっと楽だ。
巣穴の中は暗闇に包まれていた。外部から光が入ってくる窓もないので当たり前か。入り口から差し込む光だけが俺達を照らしている。
「ここは僕の出番だね」
クレスは魔法で光球を四つ発現させ、俺達の周囲に浮かべた。
おぉ! 凄く見通しが良くなったよ。改めて見ても、巣と言うより洞窟だね。幅は聞いた通り大人四人分、少し無理をすれば五人並べるくらい。
「ねぇライル。この壁、変にツルツルしてない? 」
エレミアが不思議そうに壁を擦っていたので、俺も近付いてよく観察する。
確かに滑らかそうな見た目だ。クレスが光球の一つで照らしてみると、ツヤツヤとしている様子が良く見える。
「…… これはワーカーアントが作る巣と良く似ている。壁や天井が崩れないように、体内で作った特殊な体液を振り掛けて補強すると前に本で読んだけど、実物を見るのは初めて」
げっ!? じゃあ、この艶々したのって、魔物の体液? リリィさん、それもうちょっと早く言ってくれませんかね? エレミアが、うわぁ触っちゃったよ、みたいな顔して壁から手を離していた。
「と、とにかく先に進もうか。神官騎士達が僕らの周りを囲む形で進むんだよね? 」
「クレス、私も前に出るぞ! 」
俺とエレミア、アグネーゼ、リリィを挟んで、先頭にはオルトンとレイシア、そして神官騎士が二人。そのすぐ後ろにクレスと神官騎士一人。俺達のすぐ後ろに神官騎士二人と一番後方に残りの神官騎士四人という陣形で地図を頼りに歩いていく。
後ろからくる魔物は神官騎士の六人が対処し、前方からくる魔物はオルトンとレイシア達が迎え撃つ。もし突破されたとしても、すぐ後に控えているクレスと他の神官騎士がいるのでそう容易に俺達の所までは来られない。
と、そこまでは良かったんだけど、思ったより天井が高いのが不安だ。虫と言えば壁や天井を這うイメージがあるからな。上から攻められたら危ないかも?
「ご安心下さい。その時は我々が結界魔法でお守り致します」
俺達のすぐ後ろにいる神官騎士の一人が使命に燃えた瞳を向けて話す。フルフェイスの兜で目しか見えないが、声からして結構若い? 聞けばこの前二十歳を迎えたそうだ。
その歳で神官騎士に抜擢され、将来有望だとオルトンに言われた若き神官騎士は、顔が見えなくても分かるぐらい照れくさそうにしていた。