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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 森の中は不自然なくらいに静かで、鳥の鳴き声一つ聞こえやしない。


「こんな不気味な森は初めてよ。動物がいる気配がまるで感じない」


「…… インセクトキングの配下達が狩り尽くしたか逃げたかで、恐らく一匹もいないと思う。…… これが奴等の恐ろしいところ。他の生物は例外なく全て食料となる」


 異様な森の雰囲気にエレミアが顔を顰めてる横で、リリィは淡々とした口調で見解を述べる。なんとも怖い話だ、レイチェルが今のオークキングと同じ程の驚異だと危惧しているだけはある。もし、インセクトキングが魔王となってしまったら、すべからく人間達は奴等の食料となり、そこに慈悲などありはしない。最悪の未来が頭に浮かび言葉を失う。


「だからこそ、私達はインセクトキングを討たねばならん! そしてオークキングも来るのなら、共に倒してしまえば良いだけだ! 」


「レイシア殿の言う通りです! 此方にはライル様を初め、支配スキルを持つアンネリッテ様とギルディエンテ様。そして我等神官騎士とクレス殿達がいるのです。必ずや敵を討ち滅ぼせる事でしょう! 」


 レイシアとオルトン、似た者同士の二人は自分達の勝利を信じて疑わない。前向きなのは良いことだけど、慢心はしないでくれよ? でも、そんな二人を見て少しだけ心が軽くなった気がする。


 それは俺だけではなかったみたいで、周りの神官騎士達とクレス、エレミアにアグネーゼも、見るからに先程よりかは顔が明るくなっている。


 ふぅ、危うくインセクトキングと対峙する前から気持ちで負けてしまうところだった。この二人、意図的に俺達を元気付けようしている訳ではなく、素で言ってるんだよな。だからこそ、その言葉がすっと心に入ってくるのかも。大勢の人の前に立つ者と言うのは、きっとあの二人を指すのだろう。


「それにしても、動物がいないのは分かったけど魔物の気配もないような? 」


 そう、クレスが言ったように森に入ってから周囲に魔物も含めた生き物の魔力が視えないのは何故だ?


「冒険者達も森に入っては魔物を狩っているそうですから、それが原因では? 」


 そんなアグネーゼの言葉に、クレスはそれも要因の一つなのかも知れないと頷いていた。



 しかし、巣に近付くにつれ、周囲にはポツポツと魔力が見えてくる。きっと虫の魔物だろうと思った理由は、あきらかに此方の存在に気が付いている筈なのに、近付こうとしてこない。それどころか一定の距離を保ち様子を窺っている節があるからだ。


 魔力念話でその事をオルトンやクレス達に伝えれば、此方から先に仕掛けようと言うオルトンとレイシア、巣穴に入るまで体力を消耗するのは避けたいクレスとリリィとで意見が割れる。


「ライル君達の意見はどうだい? 」


「ライル殿! 危険要素は早めに潰しておくに越したことはないぞ! 」


 えぇ? そんなこと言われてもなぁ…… どうしよ? チラッとエレミアを見れば、「私はどっちでも良いわ」と言葉を返され、アグネーゼに目を移せば、「ライル様のご判断にお任せします」だよ。


 俺としては無視できるんならしたいけど、向こうの狙いも分からずに放っておくよりかは倒してしまった方が後の憂いは無くなるよな。あぁ、優柔不断な自分が出てきてしまった。自覚はしているんだけど、そう簡単にこの性格は変えられない。


『今は相手にしなくても良いと思うわ…… 追ってこようとしてもしなくても、どのみち巣穴に入ってしまえば戦いは避けられない…… 例え巣の入り口でわたし達が出てくるのを待ち伏せするつもりでも、アンネの精霊魔法で野営地まで戻るから無意味よ…… 』


 レイチェルの意見が決め手となり、俺はクレス側に賛同した。それでも警戒は怠らず、少しでも動きに変化が見えれば迎え撃つようにする。


 そうして地図を頼りに、冒険者達によって踏み固まったかのような道を暫く進むと、向かう先から此方に歩いてくる魔力を捉えた。この魔力は人間のものだな。


 姿を見せたのは男性が四人、手入れされている革鎧や剣を装備しているのを見るに冒険者かな? 盗賊の可能性も捨てきれないので、ギルドカードを見せて貰い彼等の身許を証明してもらった。代わりに俺達もとギルドカードを見せようとしたのだが、不要だと言われる。疑問に思って首を傾げていたら、冒険者の一人が呆れた顔を浮かべながらも理由を話す。


「いや、神官騎士をそれだけ連れていれば怪しいなんて思わんよ」


 荘厳な鎧に身を包んだ神官騎士達に、端から見ても警護していると分かる程に囲まれているのを見て、疑う気持ちは湧いてこないのだと言う。


 話を聞くに、これから町へ戻るつもりらしい。なので、さっきからずっと魔物に監視されているのを伝え、注意を促そうとしたのだが、それを聞いた冒険者の四人が目の色を変えた。


「大体の位置は分かるのか? 森へ入ったは良いが空振りでね。あんたらを監視しているっていう魔物は俺達が仕留めておいてやるよ。だからその素材は俺達が貰っても良いよな? 」


 へぇ…… そちらが始末してくれるんなら、願ったり叶ったりだよ。素材は興味あるけど、どうせ巣穴に入ったら手に入れる機会は沢山ある。なので詳しい位置を彼等に教えた。


「でも、この近くに巣穴の入り口があるんですよね? そこへは行かないのですか? 」


「そうしたいんだが、先に進めば進むほど守りが強固になって、先に進むのが困難だって話だ。俺達より等級の高い冒険者がそう言ってるんだから、巣穴に潜るのも躊躇してしまうってもんだろ? なら、周りの虫共を仕留めて稼ぐ事にしたのさ」


 自分達の実力をよく分かっているからこその判断か。


「そうですか。では、よろしくお願いします。もし怪我を負ってしまいましたら、森を出たところに私達の野営地がありますので寄っていって下さい。神官騎士達が回復魔法で治療してくれると思いますよ」


 そいつは助かる、と冒険者の四人は気配を隠して魔物がいる方向へと姿を消した。



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