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教会の人達が用意してくれた夕食を頂き、部屋で今後どうするかを話し合っていた時、クレスからマナフォンで連絡が来た。
「それでは、冒険者の方達にも大した被害はないと? 」
「あぁ、話を聞く限りそうらしい。巣穴には何度も潜ってるが、魔物達の守りが堅くて思うように進めずにいるみたいだね。でも、ギルド職員が冒険者を伴いまだ全部ではないけど巣穴の地図を作成していて、他の冒険者に売っていたから僕達も購入したよ。この地図によると、かなり複雑に入り組んでいるみたいだ。それと巣穴に入った冒険者の話では、そんなに狭くはないようだよ? 道幅は大人四人は余裕で横に並べるくらいだと言ってたね」
それは広いと言えるのか? いや、虫の巣と思えば広い方なのかな?
「報告ありがとうございます。早速明日に神官騎士のオルトンさんを交えてどう動くかを話し合いましょう」
「そうだね。じゃあ、明日教会に行くよ」
クレスとの会話を終わらせマナフォンを切る。
「ねぇ、ライル。神官騎士って全員で四十人だと言ってたわよね? そんな大人数で行って大丈夫なの? 」
「う~ん、大人四人分程の横幅でその人数を投入するのは少し厳しいかな? かといってあまり人数を減らすとそれはそれで危険だし、どのくらいが調度良いのかな? 」
『理想としては兄様達の前と後ろに神官騎士を配置して守りを堅め、魔法と魔術で敵を倒していく形にしたいわ…… 』
まぁ、そうなるよな。でもその場合、神官騎士の適切な人数はどのくらいになるんだ?
『大体十人もいれば十分だと思う…… 』
「では、残りの神官騎士達はどうするのですか? 」
残りの神官騎士達を案じて、アグネーゼが顔を曇らせる。せっかくこうして来てくれたのに待機では彼等も納得しないだろう。
『それについては考えてあるわ…… 残りの神官騎士達には、野営地の安全確保と周辺の調査をしてもらうつもり…… 今まで大丈夫だからといっても安心なんて出来ないし、わたし達が安全に休むには襲われる危険性を無くす必要がある…… 』
野営地の安全と森を調査するという口実で神官騎士達を分ける訳か。それなら彼等も納得してくれるのかな?
取り合えず明日、オルトンにそう話してみよう。それで了承出来ないと言われたら、また別の案を考えればいい。
明日に備えて今日は早めにベッドに潜る。自分が思っている以上に疲れが溜まっていたようで、すぐに眠気が襲いそのまま夢の世界へと旅立つ。
翌日。教会の人達と一緒に朝食を頂いた後、俺達がいる部屋にオルトンとクレス達が集り、今後についての話し合いを行う。
「むぅ…… 確かに、その狭さでは人数が多いと逆に邪魔となるかも知れません。しかし、彼等の気持ちを思うと素直に首を縦に振りづらくもあります」
昨日、レイチェルが提案した内容をオルトンに伝えたが、案の定渋い顔を浮かべて悩んでいた。
「オルトンさんの気持ちはお察ししますが、それで無理矢理巣穴に入ったとしても十分に実力を発揮出来ますか? それなら別々に行動し、各々役割をしっかりとこなしてくれた方が皆の為になると思います」
「ライル様がそうお望みとあらば、それに従うのも吝かではありませんが、そうなると誰がライル様と一緒に巣穴へと潜るかで口論になりますね。他の者達も貴方様と共に世界の為に戦えると意気込んでおりますので」
それは…… 返答に困るね。悪いけどそこはオルトンに任せるしかないかな?
しっかし、クレスが購入した巣穴の地図には結構複雑な道が描かれていて、吃驚したやらうんざりするやらで見てるだけで疲れてくるよ。
「分かれ道に、行き止まりが多いな。クレスさん、この矢印は何ですか? 」
「それは外に通じてるという意味だよ。どうやら出入り口は一つではないらしいね」
よく見れば他にも二つ同じような矢印が書かれている。
「この場合我等は何処から入るのですか? 」
「えっと、それは町から近い所で良いかと。地図を見た通りかなりの広範囲に巣が伸びているようですので、一日でインセクトキングの所まで行けるとは思えません。今判明している出入り口から入り、まだ冒険者達が進めていない所を目指します。巣の中では気軽に休めないと思いますので、その都度アンネの精霊魔法で野営地まで戻ります。なのでその周辺の安全確保と野営の用意をして貰いたいのです」
「成る程、ライル様が安らかに休める場所を用意し、守るという役目ですね? それなら納得してくれるかも知れません。なら、安全を確保する者、周囲を調査する者、ライル様と共に巣穴へと潜る者とで分け、ライル様がお戻りになった時に交代するという形にするのは如何ですか? 」
神官騎士達でローテーションを組む訳だな。長丁場になりそうだし、魔物の巣穴で俺達の盾になろうとずっと気を張ってなんていたら、その内過労で倒れてしまいかねない。適度な休息が必要だ。
「む? アンネの精霊魔法なら町まで戻ってこれるのに、何故野営をする必要があるのだ? 」
「レイシアさん。確かにその通りなんですが、その場合町の何処を拠点とするかが問題なんです。教会で世話になるのも、宿を取るにしてもお金が掛かります。ならいっその事町から出てしまえばいい。食料は魔力収納にまだ備蓄が沢山あるので問題はありません。マジックテントも商品としてそれなりの数を持ってきていますし、結界の魔道具もある。ほら、こうすれば誰にも迷惑をかけず財布にも優しい」
こんな大勢の神官騎士達を何時までも養う余裕なんてあの教会にはないだろうし、そこまで迷惑は掛けられない。宿だって決して安くもなく。毎日ウン千リランも取られてたんじゃ、すっからかんになってしまうよ。
そうか、と一応は納得してくれた素振りを見せ、レイシアは静かに腰を下ろした。
大体の方針が決まったら、後は細かいことを決めていき、森へと出発する予定だ。
でも、これは長いなぁ…… ギルドから購入したという巣穴の地図を見て、余りの長さと迷路のような作りに思わず溜め息が溢れてしまう。