表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
501/812

39

 

 レンガ作りの建物が並ぶごく普通の町の風景なのだが、馬車の中で見たように外に出ている人が少ないように思える。インファネースと比べているからそう感じるのかね?


「ライル様が思われたように、町の住人達はあまり外に出ません。皆恐れているのです」


「それは、インセクトキングと虫の魔物達にですか? 」


「はい。まだ町や人に被害が出てないとは言え、日夜何処かの農場から家畜を拐っていく魔物共が上空を通って森へと入っていくのを見れば、怖がって家に閉じ籠るのも無理はありません。人々の安寧を思えば、インセクトキングを倒してしまいたい気持ちではありますが、世界の仕組みと神の御意志を思えば、我等の独断で戦う訳にはいかないのです」


 そうか、教会に所属している者達は不必要な殺生は極力禁じられている。それは人間だけではなく魔物も含まれているので、おいそれと手は出せない訳か。


「うん? それなら今回の場合はどうなんです? 俺と一緒にインセクトキングの巣へと向かうのは良いんですか? 」


「本来ならキング種に関わるのは教会ではご法度ですが、ライル様がそれを望まれるなら別だという上からの判断です。他の支配スキルを持つお二方もライル様に同意して協力されているとの事。ならば我等もライル様にこの身と力を捧げるのは当然で御座います」


 カルネラ司教から俺のスキルやアンネとギルの事も聞いているようだ。だから初対面なのにこれ程の忠誠心を溢れさせているのか。


「でも困ったわね。これじゃ町の人達に話しも聞けやしないわ」


 確かに、道行く人が見当たらなければ話し掛けることも出来ない。ここは商工ギルドか何処か適当な店にでも入るしかないか?


 俺達は薬屋、雑貨屋、鍛冶屋、小腹が空いたのでパン屋と色んな店を回り話を聞いた。店主達は虫の魔物のせいで余所からも客が来なくなり商売上がったりだと口を揃えて愚痴っていたな。

 町に被害がないのは、噂を聞きつけた冒険者達が町の外まで巡回したり、森まで行って魔物を倒したりしているお陰だと言う。


 総じて虫の魔物というのは鎧や薬の材料になりやすく、値崩れしにくいので堅実に稼げて冒険者にとって損な話ではないらしい。


 それに薬草などの採取に森へといけなくなった薬屋の店主も、冒険者に依頼して採って来て貰えているので、在庫切れをおこさなくて済み助かっていると感謝していた。


 ただ、町自体に被害は無いのだが、畑が荒らされるわ家畜は奪われるわで、このままでは確実に食糧難になってしまうと危惧している様子だった。


 パン屋の店主から商人なら商工ギルドに食料を卸してくれないかと頼まれる。何故直接俺から買わないかと質問したら、


「そんな事したら俺が周りに反感を買ってしまう。ここはギルドで公平に食料が行き渡るようにしないと暮らしにくくなるんだよ」


 困り顔で言う店主に持ってきた食料を商工ギルドに卸す事を約束したら、パンを一つおまけしてくれた。



「しかし、冒険者達が定期的に町を巡回し、森で魔物を倒しているといっても、一度も襲撃に遭わなかったと言うのは疑問だな。俺達の馬車も素通りしてたし、まるで人間を避けているような? 」


 だとしたらそこに何の意味が? それとも偶然なのか?


『理由は分からないけど、今までの事と話を聞く限り、人間を避けていると考えられるわ…… 誘導か、それとも別の目的があるのか…… どちらにせよ、わたしが思っている以上にインセクトキングの知能は高いようね…… 』


『って言っても、所詮は虫でしょ? あたしの頭脳と比べりゃ大した事ないって! 』


『何故そんなに自信があるのか疑問だな。羽虫も似たようなものではないか』


『あんだと、このトカゲやろー! 可愛くて賢いあたしとあんなのを一緒にすんじゃねぇやい!! 』


 ギャーギャー騒ぎギルに噛み付くアンネからそっと意識を逸らし、レイチェルの言葉を反芻する。


 誘導、ね。もしそんな目的だったのなら一体誰を? いや、人間全般を森へと誘い込んでいる? しかし冒険者が多数被害に遭っているとは店主達は言っていなかった。


 ただ確実なのは、インセクトキング率いる虫の魔物達には何かしらの明確な目的があって行動しているという事だ。闇雲に食料をかき集めている訳ではないって言うのがレイチェルの見解だ。


 考えれば考えるほど不安が募っていく。ふぅ…… 毎回思うけど、キング種は一筋縄じゃいかなくて本当に厄介な相手だよ。


「ご安心下さい、ライル様。このオルトンが貴方様の盾になり、傷一つ負わせる事なく守り抜いてみせましょう! 」


 ドンッ! と音を鳴らして胸を叩くオルトン。どうやら不安が顔に出てしまい、それを見たオルトンが気を使って元気付けようとしたみたいだ。


「ありがとうございます、オルトンさん。すみませんが、頼りにさせて貰いますね」


「なんの! 当然の事です。それと、じぶんの事はオルトンとお呼び下さい。じぶんなんかに畏まる必要はありません。我等はライル様の盾なのですから! 」


 いやいや、流石に人を物扱いなんて出来ないって。それに会ったばかりの年上を呼び捨てにするなんて、俺はそんなに礼儀知らずではないよ?


「成る程…… まだそこまでライル様の信頼を得ていないということですね? 分かりました。一日でも早く、ライル様の信頼を得られるようお側で精進致します! 」


 うん、悪い人ではないんだよ。でもね、どうにもそのテンションについていけなくなる。いや、嫌いとかじゃなくてさ。なんて言うか、ちょっと面倒…… かな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ