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妙に元気なエドウィン司祭に連れられて、神官騎士達がいる所へ案内してもらった場所は、部屋ではなく教会の中庭だった。
そこには屈強な男達が剣の稽古や体力作りの筋トレに励み、何とも暑苦しい光景が広がっている。
そんな中をエドウィン司祭は平然と歩いていき、一人の背が高い男性に声を掛けて此方へ戻ってくる。司祭の後に歩いてくる男性は、白を基調とし青いラインが引かれた清楚な騎士鎧に身を包み、腰にはロングソード、背中にはその巨体の半分は隠せる程の大きな盾を背負っている。歳もそれなりにいっているような顔付きだし、この人があの神官騎士達の代表的な立場なのかな?
「お待たせ致しました。彼がここにいる神官騎士の隊長であるオルトンです」
「此度騎士達の指揮を承りましたオルトンと申します。神官騎士総勢四十名、貴方様にお会いする時を心よりお待ちしておりました。我等一同、ライル様の盾となるべくこの身を捧げる所存であります! 」
お、おぉ…… 熱いねぇ、まるで誰かさんみたいだよ。なんて思っていると、その誰かさんがオルトンに向かって一歩踏み出した。
「うむ! その心意気、実に見事!! やはり騎士の本分は守る事にあり。国、強いては君主の盾になる事こそが私達の誉れ! 申し遅れたが、私はレイシア・アイズハートと申す。貴殿のような騎士と肩を並べられる事を嬉しく思う」
ほら、同属を見つけたからかレイシアのテンションが上がっちゃってるよ。
「おぉ! リラグンド王国で有名なアイズハート家の御令嬢でありましたか! であれば王国の騎士である貴殿が何故この国に? 」
「いや、私はまだ正式な騎士ではなくてな。今は見聞を広める為、冒険者となり各地を回っているのだ」
「成る程。しかし、アイズハート家の方と会えて光栄です。共にライル様をお守りしようではありませんか! 」
「ライル殿だけでなく仲間達を守る為、力を合わせようぞ!! 」
ガッチリと固い握手を交わすレイシアとオルトン。
何これ? 様子を窺っていた神官騎士達も何故か嬉しそうに頷いているし、どういう状況ですか?
「えっと…… 取り合えずよろしくお願いしますね」
引きつる顔をなんとか笑顔にして、魔力で操る木腕を差し出し握手を求めればオルトンは感激して握手に応え、握られた木腕からミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
エルフが作ってくれた特別製の木腕で強度も高い筈なのに、どんだけ握力が強いんだよこの人は。
「それで、何時出立致しますか? 我等は既に準備は出来ております。ライル様が命じて頂ければ何時でも問題ありません! 」
「それは頼もしいです。でも、せっかくの士気を削いでしまい申し訳ありませんが、まだ町に到着したばかりですのでもう少し待って貰えますか? 」
「いえ、此方こそ気が急いてしまって配慮を怠ってしまい申し訳ありませんでした。我等の事は気にせず、どうかゆっくりと旅の疲れを癒して頂きたい」
その後、オルトンと神官騎士達から一旦別れ、再びエドウィン司祭自らこれから世話になる部屋に案内されようとした時、徐にクレスが立ち止まって口を開く。
「ライル君、僕達は町の宿に泊まる事にするよ。流石にただの冒険者が教会に泊まるのは気が引けてね。それに、ここの冒険者ギルドでインセクトキングや巣がある森についての情報も集めておきたい」
「分かりました。冒険者ギルドでの情報収集はクレスさん達にお任せします。諸々の準備を考えて、二日後には森へ向けて出発したいので、それを目安にお願いします」
エドウィン司祭は別に構わないと言ってくれたが、周囲の反応を警戒して宿を取る事にしたクレス、レイシア、リリィの三人と別れる。
案内されたのは三階にある客室で、思ったより広い部屋だった。
「何分部屋数に限りが御座いまして、三人一部屋しかご用意出来ずに申し訳ありません」
「いえいえ、充分ですよ。こんな立派な部屋を貸して頂き、感謝致します」
俺が一欠片も不満に感じていないのが伝わり、エドウィン司祭はホッと顔を緩めた。
「教会の出入りは自由、外に出る際の報告も要りませんのでお好きなように動いて貰って結構です。何かご用が御座いましたら近くの神官にお伝え下さい。それでは、ここで失礼致します」
九十度を越えるぐらい深く頭を下げて退出していくエドウィン司祭を見送り、俺はベッドの上にダイブする。
はぁ~…… なんかドッと疲れが出てきたな。このまま寝てしまいたい気分だよ。
「どうする? このまま寝るんだったら、私は一人で町を回ってみるけど? 」
「私は少しエドウィン司祭と話してきます。少し聞きたい事がありまして」
二人とも元気だね。でもまぁ、のんびりと休んでいる時間も無いし、俺も町に繰り出すとしますか。
アグネーゼはエドウィン司祭の所へ向かい、俺とエレミアの二人は外に出る為に中庭を通った時、まだ鍛練に励んでいる神官騎士達の中からオルトンが此方を見付けて近づいてくる。
「ライル様、町へお出掛けで? それでしたら、我等が護衛としてご一緒致します! 」
オルトンがそう言うと、二人の神官騎士が前に出る。
え? いや、流石に町中で三人の神官騎士を引き連れて歩いたら目立って情報を集めるどころではなくなるよ。なので丁寧に遠慮したつもりだったのだが、せめて自分だけでもとオルトンが食い下がってきたので、目立つ鎧を脱ぐ事で了承する。
騎士が鎧を脱ぐのに抵抗があったオルトンでも、俺を守るという職務を優先し、その条件を飲んでくれた。
まぁ、巨漢であるオルトンは否が応でも目立ってしまう。せめて鎧だけでも脱いでもらえば何とかなると思ったんだけど…… やっぱり存在感が半端ないねこの人。
多少時間を取られたが、オルトンが加わった三人で今度こそ俺達は町へと繰り出した。