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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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37

 

「やっと着いた。ここがウォーゼルの町か…… それと彼処に見えるのが例のインセクトキングの巣が発見されたっていう森だな? 」


 町から肉眼で確認できる距離に鬱蒼と生い茂る木々が小さく見える。馬車で数時間といった距離か。


 取り合えず町に入って、教会でカルネラ司教が派遣してくれた神官騎士達と落ち合おう。


 ギルドカードを兵士に見せてからの執拗な取り調べに割高の税を支払わされるお決まりのコンボをくらい、町へと入る。


 ここでの商売はあまり考えない方がいいな。まぁそんな時間もないし、情報だけ集めたら町から出て森に向かうとするか。確か、アグネーゼが言うには教会はあっちだったな?


 アグネーゼの案内の下、ゲイリッヒが馬車を教会へと走らせる。窓から外の様子を窺うが、まだお昼時だというのに外に出ている人は少ない。元々人数が少ないのか、家に引き込もっているのか分からないが、どうにも物静かで落ち着かないな。


 暫く町中を進むと、教会らしき大きな建物が見えてくる。王都の教会で見た属性神が描かれたステンドグラスを確認できたので、彼処で間違いないだろう。


 すると、馭者台と馬車の中とで繋がる小窓からゲイリッヒが話し掛けてきた。


「エレミアさん、申し訳ありませんが馭者を代わって頂けませんか? いくらライル様に仕えているとはいえ、ヴァンパイアが教会に入るのを彼等は許さないでしょうから」


 あ、言われてみればそうだよな。アンデッドに分類にされているゲイリッヒが教会に入るのを容認してしまえば、権威を大きく損なう恐れがある。アグネーゼも全くその通りだとしきりに頷いているし、これは配慮が足りなかったと反省する。


 適当な場所で一旦馬車を止め、エレミアと馭者を代わったゲイリッヒは、魔力収納へと入っていった。


「あのさ、自由に魔力収納から出られる訳だけど、これでいいの? 」


「そこはライル様を信じておりますので」


 さいですか…… なんとも返答に困る言い方をしてくれる。ゲイリッヒ、本当に頼むよ?


『我が主の信頼と名誉に掛けて、私はここから一歩も外に出ないと誓いましょう』


 魔力収納内にある家のリビングでワインを飲みながら誓われてもねぇ? ただ単にそっちの方が快適だから外に出たくないだけでは?



 エレミアが馭者を勤める馬車は教会の敷地内へと入り、案内に従って馬車を駐める。


 神官に馬車とルーサを預け、教会の中へ。一階は礼拝堂になっていて、祈りを捧げる人達がちらほらと見える。神官に連れられ、その脇を通り二階へと上がり、とある部屋の前までくると神官は深々と頭を下げてその場を離れていった。


「この中へ入れって事よね? 」


「では、私が…… 」


 アグネーゼが扉をノックすると、どうぞ―― と中から男性の声が聞こえてくる。


 部屋の中に待っていたのは老齢の男性が一人。多くの皺が刻まれた顔は、喜びに満ちていた。


「ようこそ、ライル様。私はこの教会で司祭を務めております、エドウィンと言います。貴方様が訪れるのを教会一同心待ちにしておりました」


 お、おぉぅ…… かなりの歓迎っ振りだね。俺、なんか喜ばれるような事した?


「神に選ばれ、特別な力を授かったライル様の来訪を喜ばない者は教会におりません。エドウィン司祭の反応は至極当然かと」


 戸惑う俺を見て、自信たっぷりとアグネーゼは言う。はぁ、そういうもんなんですかね?


「ここへ来た目的はカルネラ司教から伺っております。既に神官騎士達は到着し、準備万全で待機しております。ライル様が望めば何時でも出立できますぞ」


「何から何までありがとうございます」


「いえいえ、それが私達の務めで御座いますので」


 彼等にとって、支配系スキルを授かるというのはこれ程までに特別な事なのだと改めて実感する。まるで俺のする事なす事全部が神の御意志だと言わんばかりだ。少し心配ではあるな。信仰心があついのは良いけど、盲信はいけない。そういう奴は大抵トラブルの種になると相場が決まっている。


 エドウィン司祭はどうだろうか? 会ったばかりだからまだ何とも言えないが、第一印象は笑顔が似合う好々爺って感じだ。


『そう見えても腹の中で黒い感情を抱えているのが人間で御座います、我が主よ。それに高齢者には己の考えに固執してしまう者が多いものです』


『人間に限らず、長く生きた者は独自の信念や思考が固まる傾向がある。例えそれが他者から見て間違っていたとしても、そう容易には変えられぬ』


 長く生きれば、その分色んな事がある。その経験則に基づいているからこそ、正しいと確信を持てる。自分の中である程度答えが出てしまっているので、他者の言葉はあまり耳に入ってこない。状況や環境によって物事の正誤は変わっていくのに…… 。そういう者達が激しく移り変わる時代に取り残されてしまうのだと、ゲイリッヒとギルが口を揃えて言う。


『その点で言えばあたし達妖精は全く問題ないわね! 常に新しいものを取り入れようとする寛容さがあるよ! 』


 うん? それは単にミーハーなだけなのでは?


「―― それで、どう致しますか? お疲れなら先に部屋へと案内しますが? 」


 え? しまった、ギル達と話していたから何の事か全く聞いていなかったよ。


「ライル様。エドウィン司祭のご厚意により、この教会で休めるように部屋を貸してくれるそうです。それで、疲れているのならすぐにお休みになられるか、それとも集まっている神官騎士達とお会いになられるか、どちらになさいます? 」


 ふぅ、アグネーゼのフォローがあって助かった。ちゃんと聞いてなくて申し訳ない。失礼な態度だったとエドウィン司祭に謝るが、逆に恐縮されてしまった。いや、度々すみません。


 さて、どうするか? まだ時間もあるし、ずっと馬車に乗っていたからそんなに疲れてもない。それに、態々来てくれたのに後回しにするのは彼等の気持ちを無下にする行為だ。


「では、今から神官騎士達とお会いになられると? 彼等も喜ぶ事でしょう。早速、案内致します」


 そう言ってエドウィン司祭は率先して扉を開ける。


「あの、司祭自ら案内をしてくれるのですか? 流石にそれは申し訳ないですよ」


「いや、ライル様とお会いして年甲斐もなく浮かれてしまいまして、お恥ずかしい。ですが、今日はもう特に用事もありませんので、是非案内をさせて頂きたい」


「そうですか? それでしたら、お願いします」


 なかなか潑剌(はつらつ)とした司祭様だね。

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