表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
495/812

33

 

「昨夜は随分と楽しそうだったね。ここまで声が届いていたよ」


 翌朝。朝食を食べてる時に、クレスがにこやかに聞いてくる。


「聞こえてたんですか? 騒がしくてすいませんでした」


「いや、別に迷惑じゃなかったから良いよ。ただ、楽しそうな声だったんで、少し羨ましかっただけさ」


「うむ。夜営中にあれほど騒ぐ者はいなかったからな。私も思わず気が緩みそうになってしまったぞ」


 主に騒いでいたのはアンネとテオドアだけど、何とも居たたまれない気持ちになる。


「私のところには聞こえてはこなかったけど…… ふ~ん、皆で遊んでたんだ」


 あ、やべ…… ハブられたと思ったのか、若干エレミアがご機嫌斜めになっていく。


「エレミアさん。女性と男性とでテントを分けておりますので、仕方ありませんよ。寂しいのは理解しますが、機嫌を直して下さい」


 むくれるエレミアをアグネーゼが宥める様子を見たクレスが目を細める。


「不思議だね。ライル君の周りだけ穏やかな空気が流れてる感じがして、心が和やかなになるような気がするよ」


「私もクレスと同じ感じを抱いているぞ。その空気がライル殿の周囲だけでなく、世界中に流れれば良いのだがな。きっとそれこそが平和と呼べるものなのだろう」


 あの、二人とも…… しみじみとしているところ悪いけど、そろそろ出発するよ?





「…… 暇だな」


「そうね。ゲイリッヒが馭者をしてくれてるから、私達は何もしなくても良くなったけど、途端に暇になるわね」


 景色も代わり映えしない草原やたまに岩肌が剥き出しになっている山路、これでは飽きてしまうよ。たまには馭者台にと思っても、危険だとゲイリッヒに言われて中に戻される。


「ゲイリッヒの危惧しているところは分かるわ。遠回りしているとは言っても、湿原の周りを移動しているだけ。何時何処からリザードマンが襲ってくるか分からないのに、ライルを馭者台に乗せていれば、どうぞ狙って下さいと言っているようなものだわ」


 むぅ…… 危険なのは分かるが、窓から見える景色だけでは飽きが早くなる。もっと開けた所で気色を見回したい。それには馭者台が一番なんだよね。


 そんな事を思っていると、此方に向かってくる複数の魔力が視える。形は二足歩行の生き物のようだが、人間ではない。かといってゴブリンやオーク、オーガでもなさそうだ。つまり初めて視る魔力反応である。


「どうしたの? 」


 俺の様子の変化にいち早く気付いたエレミアが既に臨戦態勢で聞いてくる。


「初めて視る魔力が複数、この馬車に向かってきている。たぶん、リザードマンだと思う」


「では、外にいるクレスさん達にも伝えませんと」


 そうだな、アグネーゼの言う通りに魔力念話でクレスにその事を伝える。


『リザードマンらしき魔力がこっち来ているんだね? 僕達に任せてくれ。大丈夫だとは思うけど、念のためライル君は馬車から出ないように』


『分かりました。お気を付けて』


 ルーサの脚力であればこのまま馬車で逃げ切るのも可能だが、一匹でも多く湿原に向かうリザードマンを減らしたいとクレスとレイシアが言うので、馬車を止めてリザードマンを迎え撃つ事にした。


 ハニービィを飛ばして外を確認すると、遠くに此方へと向かってくる影を捉える。それは段々と近付くにつれ形をハッキリとさせ、ついにその姿を現した。


 全身緑色の鱗に包まれた正に二足歩行の蜥蜴が走ってくる。服は着てなく、武器の類いも持ってない。ゲームや漫画では知能が高く剣や盾、鎧等を装備しているイメージだけど、なんか思ってたより野性的?


『知能はゴブリンよりも高いが、武器防具を作る程ではないぞ? 精々殺した冒険者から奪った物を身に付けるだけだ』


 まぁそりゃそうだよな。蜥蜴が火を起こして鍛冶している姿なんて想像も出来ない。ギルの言うように他から奪い取るのが関の山か。


 それに、あの頑丈そうな鱗と手足の鋭い爪を見てると、武器と防具は却って邪魔になってしまうだろうな。遠目からでも凶悪なのが窺えるのに、カルカス湿原には大量に集まっているんだろ? ギルドと国が協力して討伐しようとする気持ちが今なら分かるよ。あんなのが近くに集まっているなんて聞いたら危機感を覚えずにはいられない。


 肉眼でも捉えられる距離にまでリザードマンが近付き、その姿を確認したクレスとレイシアが馬から降りてリザードマンと馬車の間に陣を取る。それとクレス達の馬はリザードマンの餌にならないよう、俺が魔力収納の中へと入れた。


『…… 私も出る』


『じゃあ、わたしも…… 』


 と、そこへリリィとレイチェルが魔力収納から出てきてはクレス達の方へ歩いていく。リリィは良いけど、レイチェルは大丈夫なのか?


『…… 心配無用。ちゃんと私が守るから』


『わたしの闇魔法を兄様に見せてあげる…… 』


 魔力念話からレイチェルの自信が伝わってくる。リザードマンとは初めてだから、どれ程の強さかまだ把握しきれていない。しかし、カルカス湿原でリザードマン達を相手にしていたリリィが大丈夫だと言うので、今はそれを信じてみるか。


 そして遂にレイチェルが加わったクレス達とリザードマン達との戦いの火蓋が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ