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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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28

 

 レイチェルのマイペースさには少し困りものだな。もし大きな傷でも残るような事になれば、今度こそハロトライン伯爵に殺されそうだよ。


 マジックテント等を片付けて出発の準備をしている中、レイチェルは馬のルーサに興味を持ったのか、繁々と見つめてたり撫でたりしていた。


「大人しくて良い子だろ? 」


 俺が近づくとルーサが甘えるように鼻先を体に押し付けてくる。そんなルーサに俺は魔力で操る木腕で優しく頭を撫でる。


「この子、普通の馬より一回りも大きいわ…… それにこの不自然な程に発達した筋肉…… 図鑑で見たバトルホースという魔獣に酷似している」


 バトルホース? 確かに購入した頃に比べれば信じられないくらいに成長したけど、魔獣はないよ。


「買った時は普通の馬だったの? これはもしかすると、兄様の魔力収納に長くいた影響かも…… でも不思議、動物が魔獣に変化していく中で、性格も凶暴になると言われているのに、この子はここまでの変化を見せているのにも関わらず、こんなにも穏やか…… 」


 アルクス先生も高濃度の魔力やマナがある場所で長年いると、普通の動物が魔獣化してしまうと言っていたのを思い出した。でも、ルーサを買ったのは一年前だ。そんなに早く魔獣化の兆候が出るものなのか? 単なる成長期なのでは?


「それはない…… この体格と筋肉のつきかたはバトルホースそのもの…… 」


 まじか…… それじゃ、今飼っている鶏達もいずれは魔獣に?


「たぶん、ね。でも、性格が変わらずに肉体のみ魔獣になるなんて聞いた事がないわ…… きっと兄様の魔力収納という特別な環境があってこその変化ね…… 」


 レイチェルの言う通りだとすると、ルーサの性格はそのままでバトルホースという魔獣になるって事か? ルーサ、お前まだまだ強くなれるんだってさ。あんなに痩せ細っていたのに、良かったな。


 ポンポンとルーサの体を木腕で軽く叩いてやると、上機嫌に鼻を鳴らす。


 あの鶏達もどんな魔獣になるかは分からないけど、卵の質が上がってくれるのなら何も文句はないよ。



 半魔獣化していると判明したルーサが引く馬車は悪路も何のその。ゲイリッヒが馭者をしているのも相まって旅は順調だ。


 しかし平原を抜けて林に入る頃、ぽつぽつと降っていた雨がやがて大粒に変わり、豪雨となった。海の魔獣の皮で作った雨具をゲイリッヒとガストール達に渡してはあるが、この雨では視界が悪くて進むのは危険。雨脚が弱まるまで林の中にあった拓けた場所で馬車を止めて暫く待つ事にした。


 流石にこの大雨の中でガストール達を外にいさせる訳にはいかないので、多少狭くはなるが馬車の中に入ってもらい、馬はルーサと共に魔力収納で休ませている。


 友達が出来て嬉しいのか、珍しくルーサが魔力収納内ではしゃいでいた。今は他の馬と追いかけっこをして遊んでいる。


 何時までも一頭じゃ寂しいよな。今度新しい馬でも買ってみようか? 二頭引きの馬車なら今よりもっと広くなって快適な旅になる事間違いない。


 そんな考えを巡らせつつ時間を潰している横で、レイチェルはじっと窓から降り頻る雨を眺めている。


「雨が好きなのですか? 」


 アグネーゼの問に、雨から目をそらさずにレイチェルは答える。


「うん。降っている雨を眺めるのも嫌いじゃないけど、降り終わった時の澄んだ空気と匂いが好きなの…… 」


 あぁ、何となく分かる。雨の後ってなんかスッキリというか、爽やかというか、そんな感じがするよな。


「なぁ、ほんとに馬達は平気なのか? 」


 俺の魔力収納を知らないのガストールは、特殊な空間収納に入っていると思っている馬を心配していた。


「大丈夫ですよ。今もルーサと一緒に元気で走り回っています。何ならガストールさん達も入ってみますか? 」


「いや、止めとく。知らなくてもいい事まで知ってしまいそうだしな」


「オレッちも興味はあるっすけど、遠慮するっす。知りすぎて逆に都合が悪くなることもあるっすからね」


 分相応な人生が一番安全で長生きが出来るとガストールは言う。物事をわきまえた大人ってのはこういう人達を指すのだろうな。


「えぇ~、何それ、つまんない人生だね。もっと色んな事に挑戦して楽しもうよ! 」


「だけどよ、パッケ。この歳になるとそうも言ってられねぇんだよ」


「この大規模討伐が終わったら、もうデカイ仕事は控えてのんびりと暮らすのも悪くないっすよね。いっそのことインファネースに永住するってのはどうっすか? 」


 それって冒険者を引退するってことか? おいおい、これから激しい戦いが待っているってのに、そんな死亡フラグみたいな台詞は言わない方が良いぞ?


「それにしても、全然止む気配がないわね。どうする? いくら魔術で空間を拡張しているとはいえ、この人数じゃ寝る場所も無いわよ? 」


「わたしは兄様の中でも良いわ…… 」


 俺のスキルを知っているレイチェル達はそれでも良いんだろうけど、ガストール達はどうするかな?


「俺達の事は気にすんな。座れる所さえあれば眠れるからよ」


 いや、それでは質の良い睡眠は出来ない。よし、ここはあの手でいくか。


 この馬車には座席と商品を置くスペースがある。一応商人の馬車ということで、カモフラージュとして幾つか馬車に荷物を積んでいる状態なのだが、一旦全部魔力収納に仕舞って空いた所へマジックテントを設置する。


 マジックテントには骨組みの類いは一切使用してなく、魔獣の皮だけで作られている。テントに施されている空間拡張の魔術を発動させると、中に空気でも送られてるかのように膨らむ特性を利用してテントを立てる。そうすることによって、どんな狭い所でも入り口さえ確保出来ればテントは立てられるのだ。この場合は、商品置き場のスペースにテントを立てる訳だが、馬車の天井の高さなんてたかが知れている。マジックテントの上の部分が潰れてしまうが、寝るだけを思えばそんなに問題ではない。


 もし、この大雨が夜になっても続くようであれば、そうやって一夜を明かすしかないだろう。



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