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遂に残り二体のキング種の居場所が判明した。リザードマンキングはヴェルーシ公国と俺達が住んでいるリラグンド王国の間に広がるカルカス湿原にいるとの事。公国側と王国側から冒険者達で挟み撃ちにする形でリザードマン達を討伐する予定だとガストールが言っていた。
そしてインセクトキングなのだが、確認された巣の入り口と思わしき穴は、なんとヴェルーシ公国近くの森の中にあると言う。偶々近くにキング種がいるなんてのは考えにくい、何か意図的なものを感じる。
「これもカーミラ達の仕業なの? 」
俺と一緒にアグネーゼの話を聞いていたエレミアが疑問を口にする。なんでもかんでもカーミラのせいだと考えるのはどうかと思うが、この不自然さでは仕方ない。
「インセクトキングとリザードマンキングが近くにいるの…… ? 話を聞くかぎり、まるで戦争の準備をしているみたい…… 」
おわっ!? レイチェル、何時からそこに?
「むぅ、ずっと一緒にいたのに…… 」
そうだったか? もうレイチェルが店にいるのが普通になってきたからか全然気にしてなかったよ。慣れって恐ろしいね。
「レイチェルさん。戦争の準備とはどういう意味ですか? もしや、インセクトキングとリザードマンキングが公国と戦争を? 」
アグネーゼの疑問にレイチェルは答える。
「これまでの話を纏めると、大量の虫型魔物が公国の近くに巣を作り、世界中のリザードマンが公国と王国の間にあるカルカス湿原に集まっている。それはなんの為に集まっているかと考えれば、何処かを攻め落とすと見るのが自然だと思うの…… 」
「何処かって? 」
「公国か、それともキング種同士の対立か…… わたしの掴んでいる情報と今聞いた話だけではこれしか言えないけど…… 」
そうだよな。戦力を集めているということは、それをぶつける相手がいるということ。インセクトキングやリザードマンキングについてはそれほど情報が出回っていないというのに…… 流石はあの伯爵の娘だよ。
「ねぇ、ライル。どうせ魔王の誕生は確定しているんだから、レイチェルに話してみたらどう? 」
エレミアの言うように、遅かれ早かれ魔王は誕生するんだ。その仕組みをレイチェルに教えても問題はないだろう。俺はレイチェルにどうやって魔王が生まれるのかを、そしてカーミラがキング種を集めて意図的に魔王を誕生させようとしている事を説明した。
「成る程…… 選ばれた七体のキング種から魔王が誕生するのね? 全ては予定調和だったと…… だとすると、キング種同士の争いの可能性が高くなるわ…… 」
「どうしてそう考えるの? 」
俺の話を聞いて、レイチェルは何か確信めいたものを感じたのか、自信あり気な視線をエレミアに向ける。
「魔王候補となるキング種は残り三体…… 自分が魔王となるには他の二体を消す必要がある。謂わばこの三体は敵同士とも言えるわ…… その内の一体はカーミラとかいう奴の下に安全な位置にいるので、必然とインセクトキングとリザードマンキングの争いへともつれ込む。そしてどちらか勝ち残った方をカーミラの所にいるオークキングが倒せば、魔王は決まる…… 」
まさか、それがカーミラの狙い? キング種の残りが少なくなれば、魔王へとなる為に他のキング種を殺した方が早い。だからあんなに目立つ行動をしてでも戦力を素早く集める必要があったのか。
「もしくはわざと目立つ行動をして、隠れて出てこないオークキングを誘きだそうとしているのかも…… どっちにしても、この戦いで魔王が誕生してしまう…… 」
「それを防ぐ手立ては無いのか? 」
「無い…… 兄様達の話では、カーミラはキング種を集めてオークキングを強化しているのよね……? もう向こうはオーガキングとコボルトキングを手に入れているから、少なくもインセクトキングやリザードマンキングよりも強くなっていると予測出来るわ…… だとすれば、今の実力を測る為にどちらかのキング種の下に現れるかも…… 」
ここでオークキングを投入するとレイチェルは考えているようだ。確かに、二体のキング種を取り入れたオークキングはさぞかし強くなっていることだろう。それが魔王となり更に強大になると思うだけで身が震えてしまうよ。
「そして、オーガキングの死体を回収したのを聞くと、キング種は必ずしも生きていなければならないという訳でもない…… 兄様、前にこの領地に攻めてきたゴブリンキングの死体はどうなったの? 」
「え? それは、冒険者ギルドに渡したけど? 」
それを聞いたレイチェルは顔を顰めた。
「ずっと前から計画して準備してきたカーミラが、ゴブリンキングだけを見逃すとは考えにくいわ…… 後で冒険者ギルドに問い合わせた方がよさそうね…… 最悪、三体のキング種を取り入んだオークキングを相手にしなければならないかも…… 」
言われて初めて気付く。そうだよ、何故ゴブリンキングだけカーミラの介入が無かった? その不自然さにどうして疑問に思わなかったのだろうか? オークキングの強化にはムウナの細胞が必要で、まだ手に入れていないにしても、死体は前以て回収しようとする筈だ。
「兄様達が考えているのとは違って、肉体だけが目的ではないのかも…… 死んで肉体が腐っても、解体されても残っている物…… 」
「―― 魔核」
俺がそう呟くと、レイチェルは肯定の意を込めてこくりと頷いた。