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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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21

 

 アンネの闇魔法講座を受けたレイチェルは常識に凝り固まっていた頭がほぐされ、闇について理解を深めることに努めてメキメキと腕を上げていった。


「今日は開店前に来なかったね? 」


 何時ものように店番をしている横で、この一週間毎朝来ていたレイチェルが来なかったのをエレミアは気にしていた。


「別に毎朝来ると約束している訳でもないし、そういう時もあるさ」


 とは言ったものの、俺も少し心配だ。昼休憩のついでに様子でも伺おうか?


 そう思案している中、視界の端に小さな蠢く物を捉えた。この魔力には視覚えがある。その小さな黒い物をよく見てみると、どうやら鼠のようだった。


 まるで全身に墨を塗りたくられたかのように真っ黒な鼠が、俺に気付かれた事を察し、ちょこちょこと走り寄って来てはカウンターによじ登ってくる。


『気付かれちゃった…… 』


 鼠から魔力が伸びて俺と繋がると、魔力念話で話し掛けてきた。


『やっぱりレイチェルだったか。その鼠は闇魔法で作ったんだな? 』


 アンネが闇で自分の分身を作ったのを見て、レイチェルも真似しようと挑戦してみたが、魔力操作と自身の魔力が足りなくて失敗に終わった。


『先ずは小さな生き物から作ろうと思って…… 今は家からこの鼠だけを移動させて稼働範囲を調べているの…… 今のわたしの魔力ではここぐらいが限界みたい』


 いや、あの北にある貴族街から反対の南商店街まではかなりの距離があるのを考えれば大したものだと思うけど?


『全然足りない…… 父様の領地からインファネースまで持たせたいの…… わたしが帰った後も兄様に会いたいから…… 』


 妹にそこまで言って貰えるなんて、兄冥利に尽きるね。


『何時までもその素敵で歪な姿を見ていたいから…… あ、そろそろ魔力が限界みたい…… お店が閉まる頃にはある程度回復していると思うから、またその時に…… 』


 闇で出来た鼠が煙のように消えていく。


 個人の魔力総量はギリギリまで使用する事によって少しずつだけど増えていくのが研究で分かっている。なので魔力操作と闇魔法を練習するのと同時に総量も増やそうと、レイチェルは毎日魔力切れすれすれまで頑張っている。


 アンネやギルの話では、人体に影響はないという事なので安心なのだが、夜遅くまで練習しているせいか、会うたびに目の下の隈が濃くなっているような気がして、兄としてはちょっと心配だよ。


「僅か一週間足らずでここまで出来れば上出来よ。闇についても自分なりの解釈も交えて魔法に反映しているようだし、もう魔法士としては一人前じゃない? 」


「それでもまだ本人は納得していないみたいだね。エレミアやアンネの魔法の腕を見たからか、理想が高くなったのかな? 」


 エレミアもアンネも人間の魔法士と比べて、規格外な存在だからな。そこを目指すとなると、並大抵の努力じゃ済まないだろう。


 因みに、アンネが言っていたブラックホールを闇魔法で再現するのが最終的な目標だとレイチェルは意気込んでいたが、もし本当にそんなのが実現出来た日にはとんでもない事になりそうだ。


「で? レイチェルは閉店する頃に来んの? あの子は闇との相性が抜群に良いからね。闇の精霊からも好かれてるし、これからどんどん強くなるよ! 」


 へぇ、魔法にも相性ってのがあるんだな。アンネは嬉しそうに言うけど、俺はレイチェルの将来が不安だよ。魔法にばかりかまけて婚期を逃す事がないのを願うばかりだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 店にレイチェルがいるのが日常化し始めた頃、冒険者ギルドがリザードマンキングの出現を認めたと、店に来たガストールが教えてくれた。


「では、オークの時のように大規模討伐になるんですか? 」


「間違いなくそうなるだろうぜ。現地には調査に行ってるクレス達もいるし、俺達はどうすっかな。正直、面倒だから行きたくはないけど、こういうのは報酬が良いんだよ。生きて帰れりゃまた暫くは働かなくても暮らせるぜ」


 安全にコツコツと稼ぐか、危険はあるが一気に稼ぐかで、ガストールは悩んでいるようで、何時もより乱暴に髪の無い頭を掻いている。あ~、そんなに強く掻いて平気なのか? 頭が真っ赤になってるぞ?


 それよりも、リザードマンキングの存在が確認されたか。後はインセクトキングだけだな。アグネーゼの話では、もうそろそろ教会から調査結果報告があると言っていた。それ次第では、クレス達と合流してリザードマンキングを討つか、俺達がインセクトキングの所へ向かって同時討伐になるかが決まる。


 大規模討伐に参加するかまだ迷っているガストールは、焼酎を購入して店を出ていく。仲間のグリムとルベルトの三人で酒でも飲みながら話し合うのだろう。


 その後も普通に時間は過ぎていき、キッカとシャルルと一緒に店じまいをしていると、アグネーゼが神妙な面持ちで近付いてくる。


「ライル様、先程カルネラ司教様から連絡がありました。インセクトキングを確認したとの事です。それと、虫の魔物達を追跡して見失ってしまう場所の周辺を調べた結果、巣の入り口と思わしき穴を見つけたと聞きました」


 ほぼ同時にキングの存在が確認されるなんて、タイミングが良すぎる。偶然か、それとも仕組まれたか、どちらにせよカーミラ達が動き出しているのは確実だろうな。

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