表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
482/812

20

 

 あれから妹のレイチェルは早朝店が開く前にやって来て、俺から魔力操作を教わっている。


 教え方は前にミカイルから教わった方法を参考にさせてもらい、魔力念話を通じて魔力を操作する感覚とイメージを伝える。後は魔力で物を浮かしたり、魔力念話で会話をしたりと、ひたすらに練習あるのみ。


『兄様、聞こえてる? あぁ、わたしと兄様、二人だけの秘密の会話…… フフフ…… 今日も素敵に歪だわ』


 心の声が駄々漏れですよ? レイチェルさん。それと今は仕事中だから自重してくれると有り難いのだけれど。


「へぇ、そうなの。クラリスさんが伯爵様の所で使用人をねぇ。それでライル君がお兄様なのね」


「わっ、やっぱり若いと髪の艶も違いますね! それにフワフワしてます。きっと高級シャンプーを使ってるんですよ」


「ちょっとリタちゃん、私と比べながら言わないでちょうだい」


 何時ものテーブル席でこれまた何時もいるデイジーとリタが、レイチェルを挟んで盛り上がっている。そんな二人を尻目にクッキーと紅茶を楽しむマイペースなレイチェル。意外と上手くいってる?




「アンネちゃんの、闇魔法講座~!! はい、拍手! 」


 閉店した店内で言われるまま俺とレイチェル、それとエレミアとアグネーゼがパチパチと拍手をする。


 魔法の使えない俺ではレイチェルに教える事が出来ないので、エレミアとアグネーゼに頼んだんだが―― それならあたしが教えてあげるよ! ―― と、アンネが名乗り出た。


「そんじゃ、闇魔法を使うにあたって闇とは何かを知る必要があるね。レイチェルは闇をどう捉えてんの? 」


「闇…… 暗くて、実体がなくて、何も見えないもの? 」


「あ~、その認識じゃ魔法も目眩まし程度しか使えないんじゃない? 」


 アンネの指摘が当たったのか、レイチェルは不機嫌そうに眉をひそめる。


「でも…… 闇でどうやって敵を倒すの? 」


「そだね、先ずは認識を改める事から始めよっか。レイチェルは宇宙って知ってる? 」


「…… ? 知ってる。今わたし達がいる世界は丸い大地で、宇宙という空間で浮かんでいる。そして太陽の周りを移動している」


 聞いて分かるように、此方の世界でも地動説が主流だ。きっと前の記憶持ちが広めた学説なのだろう。


「うん、そこまで知ってるなら十分ね。じゃあ、その宇宙が大きな闇だというのはどう? 」


「……! 確かに、太陽が沈むと暗くなる…… 宇宙は闇? でも、そうだとしても触れる事も出来ない闇で何が出来るの? 」


「フッフッフッ。宇宙にはね、重力も空気も何も無いのよ。そう考えれば、闇もまた同じだと思わない? それと、全てを飲み込むブラックホールっていう大穴もあるらしいのよ」


 おいおい、何を物騒な事を。もしかして闇魔法でそれを作れるっていうのか?


「良い? 何も無いからこそ出来るものもあるんだよ。全てを飲み込む闇を魔法で作れたら、どんな攻撃だってレイチェルに届く前に消えちゃう。謂わば最強の盾になるわ。人に直接使うのもいいけど、その場合相手の魔力次第では抵抗されちゃうから気を付けてね」


 いきなりそんな大技を教えてどうすんの? でも、宇宙を闇と捉えるのは良いね。それによって闇魔法の可能性が広がる。


「魔法ってのは想像力が大事なの。自分が使える属性の性質を深く知る事で様々な魔法が編み出せるのよ。でもそれだけじゃ魔法を完璧に使いこなしているとは言えないよね」


「闇を知る事だけじゃ足りないってこと…… ? 」


「そう、今度は魔法そのものについて知らなきゃね。そんじゃ魔法とはなんぞや? 」


「属性神から与えられた権限で、自身の魔力を消費して現象を引き起こすもの…… 」


 淀みなく答えるレイチェルに、アンネはやれやれと首を振る。


「それは魔法の仕組みであって、本質ではないわね。いい? 魔法とは…… 信じる思いを実現する力、不可能を可能にする力よ! 」


 不可能を可能に? それってどういう意味だ?


「そんなのあり得ないって思ってちゃ何も出来ないのよ。闇は実体を持たない? なら持たせれば良いじゃない! それが出来るから魔法なのよ!! 」


 力強く言い放ったアンネから魔力が放出され、黒い靄が発生した。その靄が集り、真っ黒なアンネを形作る。


「これは闇の精霊魔法で作ったあたしの分身よ。触ってごらん」


 レイチェルは目の前に浮かんでいる黒いアンネに触れようとするがすり抜けてしまう。


「今は闇で形作ってるだけだから触れないけど、あたしの魔力を使ってこれに実体を持たせるよ」


 アンネは自分の分身に魔力を送るが、別段見た目では何も変わっていない。そう思っていると、アンネの分身がレイチェルに手を伸ばしてその頬にそっと触れた。


「うそ…… 凄い、本当に触れる…… 」


 頬に触られたレイチェルは驚きで目を見開き、自身の手でアンネの分身を触り、また驚愕する。


「こうやって影のように自分そっくりの分身を造り、そこに実体を持たせれば十分な戦力になるわ。しかも視覚と聴覚を共有すれば遠距離で操作出来るし、体を小さくすれば潜入調査だって可能よ。いい? 魔法の前じゃ常識が邪魔になる事があるの。捨てろとは言わないけど、囚われちゃ駄目だかんね」


 そう言えば、帝国の黒騎士も闇魔法でオーガを縛ったり黒い刃を形成して切り裂いていたな。魔法の凄さを改めて思い知ったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ