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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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19

 

「いや、実に美味しく楽しい食事の席であった。これを用意してくれた人魚達とライル君に感謝する」


 出された刺身と寿司を綺麗に平らげた公爵は、満足した様子で食後の紅茶を楽しんでいた。


「いえ、喜んでもらえて何よりです。それにしても、箸の扱いがお上手ですね」


「ジパングの商人から買って練習したのだよ。慣れるとナイフやフォークよりも食べやすくて気に入っている」


 ほんとにこの人は食に関するものなら何でも取り入れようとするな。


「しかし、刺身や寿司をこの先何時食べられるか…… 人魚達が作る他の料理も気になる。どうかね? ここで人魚の料理店を開くというのは」


 公爵の思わぬ提案に、ヒュリピアと他の二人の人魚が顔を見合わせる。


「えっと…… 私達だけでは判断出来ないから、女王様に聞いてみるね。私としては、面白そうとは思うけど」


「うむ、前向きな検討をお願いするよ。もし店を出すと決まったなら、土地と店は私が用意しよう」


 人魚の料理店か…… 東商店街なら漁港とも近いし、何より人魚達が慣れている場所だから抵抗はない筈。代表であるヘバックも、こんなおいしい話に食い付かないとは考えにくい。ヒュリピア達も満更でもなさそうなので、女王の許可が下り次第すぐにでも店を開きそうだ。


 ヒュリピア達と別れ、公爵の馬車で自分の店まで送って貰う。


「今日は本当に楽しかった。私の突然の頼みを聞いてくれて、重ねて礼を言う。ありがとう、ライル君」


「いえ、此方こそ楽しかったですよ。しかし、本当に人魚達に店を? 」


「うむ、私は食に対して嘘はつかん。東商店街に人魚の店があれば、気軽にあの料理や他の料理も味わえるではないか」


 人魚が作る料理を何時でも食べらるようにしたいからの提案か。この人もぶれないね。


 それから数日後、本当に東商店街の一角に人魚達の料理店が開いた。刺身と寿司は勿論、煮つけや揚げ物、果ては定食まで、全て海産物の専門店だ。


 その珍しさが話題となり開店早々訪れる客は沢山で、一時期東商店街は混雑に見舞われた。公爵もインファネースにいる間は足しげく通うと喜んでいたし、俺の店より繁盛しそうな勢いだよ。


 何だかんだ言っても、自分達が創意工夫をした料理を喜んで食べて貰えるのがうれしいみたいで、人魚達は潑剌(はつらつ)としていた。


 因みに、俺と公爵とで寿司を食べた事を後で知ったシャロットはそれもう目に見えて悔しがり、人魚の料理店が開くと、いの一番に訪れて刺身と寿司を注文したそうだ。生の魚を美味しそうに食べる娘に、側にいた領主が引いてしまったのは言わずもがなである。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 …… 非常にやりにくい。


 まだ残りのキング種二体の情報が得られず、俺は今日も何時ものように店番をしているのだが…… さっきから熱心に注がれる視線がどうにも気になってしまう。


「やっぱり魔力の扱いが凄く上手…… あれで木腕を操ったり物自体を浮かしたりする訳ね…… それを日常的にこなす事が可能な魔力量も大したもの…… そして何より見た目が良い。やっぱりただ者ではないわ…… 」


 そう、俺の実の妹であるレイチェルが片手に蜂蜜クッキー、反対の手には紅茶を装備して、穴が空きそうなくらいに俺を観察している。かれこれ二時間は経っているな。流石にもう我慢出来そうもない。


「あのさ、伯爵様と一緒に帰ったんじゃなかったのか? どうしてまだこの街にいるんだ? 」


「言ってなかったかしら? 父様もこの街で別荘となる館を購入したのよ…… それに伴い、領地経営を学ぶと言う理由でわたしだけが残る事にしたの…… フフ、これで何時でも兄様に会いにこれる…… 」


 こわっ! 若干ストーカー気味な妹に、ぞわりと背筋が寒くなる。


「うん? 兄様って俺の事? 」


「そう。クラリスの子供ならわたしにとって兄妹も同じ…… だから兄様なの…… 嫌だった? 」


 なんだ、てっきり俺が伯爵の子供で実の兄だと気付いたかと思って焦ったよ。でも、これからも頻繁に来るのならその可能性もあるかもな。余計な事を言わないよう注意しないと。


「良ければわたしにその魔力操作を教えて欲しいの…… 駄目? 」


「魔力操作を? 別にそれは構わないけど、理由を聞いてもいいかな? 」


 レイチェルは一度紅茶で喉を潤してから話し出した。


「クラリスから聞いているとは思うけど、アランは稀に見る四属性の魔法スキルを授かっている…… それに加えて剣の腕も良いわ…… 比べてわたしは運動が苦手で、唯一使える闇魔法も中々上達しない…… 父様や母様は何も言わないけど、落胆しているのは目と態度で分かる…… せめて魔法だけでも上手くなって、次期当主となるアランの足を引っ張らないようにしたいの…… 自分の身は自分で守れるようになりたいのよ…… 」


 そうか、自分と比べて身体的に優秀なアランに引け目を感じてる訳だな。前世と合わせて初めてできた妹からの頼み、出来るなら協力してやりたい。


「兄様のように魔力を操作出来たなら、きっと魔法の腕も上がると思う…… 」


「魔法が使えない俺としては分からないけど、そういうものなの? 」


 コクりと首肯いたレイチェルは、父親譲りの鋭い目で俺を見詰めてくる。


 うっ…… 哀願しているつもりなのだろうけど、目付きが怖いから脅しているとしか見えない。せめて目の下の隈をどうにか出来ないかな? 寝不足なの?

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