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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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17

 

 テーブルに置かれた大皿には、赤身、白身、イカにタコ、それと貝の刺身が綺麗に並べられている。ヒュリピア達が自信を持って出してきたから食中毒は大丈夫な筈。


 そんな俺の心配を余所に、早速とばかりにグラトニス公爵が赤身の刺身へと箸を伸ばす。そして小皿に垂らした醤油に少しつけては口の中へ。


「…… これが本当の生の魚か。前に食べたのは一体何だったのか…… ちゃんと処理した生魚は臭みもなく、実に食べやすい。そして何よりも魚本来の味と、この醤油がよく合う。どれ、次はこれにするか」


 公爵は次に薄く切られたタコの刺身を食べる。


「んん? この歯応え、そして噛めば噛むほど味が染み出て、旨いな。イカと比べると此方の方が味が濃い。これはなんという魚なのかね? 」


「そいつはタコっていう生き物だよ! 見た目は気持ち悪いけど、旨いよね!! 」


 あっ! いつの間にかアンネが魔力収納から出て、公爵に説明している。見ているだけじゃ我慢出来なくなったな?


「おわっ!? アンネ君、何時からそこに? いや、それよりもタコとな? どんな見た目か気になる」


「そんじゃ、あたしが見せてあげっから、気を楽にしてみそ? 」


 疑問符を浮かべる公爵に、アンネは自分の魔力を繋げる。きっと魔力念話でタコの映像を送っているのだろう。その証拠にビクッ! と公爵の体が跳ねる。


「おぉ! こいつは知ってるぞ。漁師の網に掛かっても気持ちが悪いからという理由で海に戻していた生き物だ。成る程、これがタコか。こんなにも味わい深いものを、外見に怯えて食べようとしなかった己が恥ずかしい。しかし、頭の中に直接映像を送るとは、妖精の技は素晴らしいな」


 アンネの魔力念話を体験しても素晴らしいの一言で済ましている公爵は流石大物らしく取り乱す事はなかった。それにしても、そんな公爵でもタコの外見で食べようとは思わなかったようだ。


「あのぅ、イカはご存知ですよね? イカの見た目はどう思います? 」


「ん? 別にどうも思わんが? イカは昔から好きでな。乾物にして炙ったものを、何時も酒の当てにしていたものだよ」


 前にも思ったけど、敢えてもう一度心の中で叫ぼう。


 何でイカは良くてタコは駄目なんだよ!! 同じ触手があるし似たようなもんだろ? 基準がわからん!


「これはイカの胴体だな? こんなに細く切るとは、面白い…… む? もしやこれはヒュージマグロか? その体の大きさと凶暴性から捕るのが困難で、一匹で家が買える程の高級魚だ。なんと贅沢な」


 へぇ、その赤身の魚はそんなに珍しいものだったのか。


「おっちゃん、人間のくせによく切り身だけで見分けがつくね。こいつは私達でも捕まえるのが難しいんだよ」


 伯爵の見立ては間違っていなかったらしく、ヒュリピアが自慢気に話しながら次の料理の準備をしている。


「ねぇ、ライル。 お酒出してよ! こんないい肴があるのに飲まないなんて有り得ない!! 」


 はいはい、分かりましたよ。それで? 何をご所望ですか?


 言われるままに俺は魔力収納から蜂蜜酒を取り出して、アンネ専用のグラスを渡す。次いでに魔力収納で育てた米で造った純米酒とグラスを二つ出して、片方を伯爵に。


「ほぉ、ライル君は空間収納のスキルを持っておるのか? 流石は優秀な商人だ」


 いい感じに誤解してくれた伯爵のグラスに酒を注ぐ。


「ジパングの酒だな? 米の良い香りがする…… ふぅ、成る程、これは刺身と良く合う」


 米酒と刺身の組み合わせを気に入った伯爵は上機嫌に食べ続ける。


「へーい、グラっち! 乾杯しようよ!! 」


「おぉ、そうだな。旨い魚と、それを用意してくれた人魚達に乾杯だ! 」


 アンネの小さなグラスと伯爵のグラスが合わさり、チンッと控え目な音が鳴った。


 って、アンネ? その “グラっち” というのはグラトニス公爵の事か? 何で公爵様相手にそんなフランクなんだよ。


「ハハハ、何も問題はない。聞けばアンネ君は妖精の女王だと言うではないか。それなら、身分が下となる私の方がアンネ君と呼ばせて貰っておるのだ」


「そうそう。忘れがちだけど、あたしって女王様なんだぞ、偉いんだぞ! もっと敬え!! 」


 もう酔ったのか? 俺だって敬えるならそうしたいけど、日頃のアンネを見てるとね? 過去のアンネの振る舞いを振り返ると、思わず鼻で笑ってしまった。


「あぁー!? 今鼻で笑ったなぁ! 失礼だぞ、このやろー!! 」


「アンネ様、私は何時も敬っていますよ」


 俺に噛み付こうと迫るアンネを、エレミアが抑える。そんな様子を見た伯爵は大声で笑った。


「いやぁ、こんなに声を張り上げて笑ったのはどれくらい振りだろうか…… 実に楽しい食事だ! 」


 刺身も殆んど食べた所で、次の料理をヒュリピアが運んでくる。


 俺はその料理を見て驚いた。まさか、こんなものまで作れるようになっていたとは……


「これは、形を整えた米の上に刺身を乗せているのか…… ふむ、面白い発想だ。この料理に名前はあるのかね? 」


 公爵の質問にヒュリピアが元気に答える。


「これはね、お寿司って言うのよ」


 チラリとアンネに目を向けると、清々しい程のドヤ顔を披露していた。最近、魔力収納から米酢とワサビが無くなる事があったけど、やはりアンネの仕業だったか。


 まったく…… グッジョブだよ! 俺は魔力で操る木腕で、アンネにサムズアッブを送った。それを見たアンネも、にこやかに返してくる。

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