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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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15

 

「では、蜂蜜が欲しい時は手紙を出すからな。出来るだけ早く届けてくれ」


「名残惜しいけど、今日は帰るね…… 」


 用事は済んだと帰ろうとするアランに引っ張られながら、最後まで愚図っていたレイチェルも店から出ていった。


 ふぅ…… 彼等が店にいた時間は長くなかったが、結構疲れたな。


「大丈夫? まさかあの子達も一緒に来ているとは思わなかったわ」


「母さん、あの二人は俺の弟と妹なんだよね? 」


「えぇそうよ。貴方が王都で行方不明になって暫くした後、私があの子達の礼儀作法等の教育を任せられたの」


 それであの二人はクラリスの事を知っていたのか。俺のせいで母さんが肩身の狭い思いをしていないようで良かったよ。


「むしろ貴方のお陰で二人の教育係りになれたのよ? ほら、初めて伯爵様と会って一緒に王都へ向かった時、思いの外礼儀正しかったのを評価して貰ったの。ふふ、貴方は最初から大人しくてちゃんとしてたから、殆ど教える事なんて無かったのにね。そう思うと何だか複雑な気分だったわ」


 まぁ、前世で普通に会社員やってましたから。


「あのお二人がライル様の弟と妹なのですね」


「アランとレイチェルってどんな子なの? 」


 側で話を聞いていたアグネーゼとエレミアも興味があるようだ。


「そうね…… アラン様は見ての通り活発な子で、あの偉ぶった態度も貴族としての教育を受けたからなの。他の者達に侮られてはいけないという伯爵様の教えよ。でも、根は優しい子なの。魔法スキルも、炎、水、風、土の四属性も授かっていて、時期当主として相応しいと伯爵様も喜んでいたわ。レイチェル様は、魔法スキルは一つだけど、珍しい闇属性を授かっているわ。伯爵様と同じで頭は切れるのだけれど、どこをどう育てばあんな趣味になるのか…… あれには他の使用人共々、頭を抱えたわ。アラン様より優秀で闇魔法の使い手だから伯爵様は何も言わないけど」


 おぅ…… 何気に凄いなあの二人。アランは四属性もの魔法が使えて、レイチェルは一つだけど闇魔法が使えるのか。それならあの伯爵も文句は言わないだろう。ハロトライン家は将来安泰そうで何よりだよ。


 今日の事をあの子達から聞いたハロトライン伯爵がどう動くかという不安もあるが、この出会いは俺にとってとても喜ばしいものだった。


 弟と妹が俺のような理不尽な目にあってなくて安心したよ。伯爵の教育は厳しそうだけど、アランのあの様子では大事にされていると窺える。レイチェルは…… あの性格だから扱いに困っている感じではあるが、蔑ろにはされていないようだ。もう会える機会はそうないかも知れないけど、健やかに育っていって欲しい。特にレイチェル、大人になってもそのままでは嫁の貰い手がなくなるぞ? 兄としてそれだけが心配だよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「生魚が食べたい」


 思いがけない弟と妹の出会いから二日後。突然グラトニス公爵が来店してきたと思ったら、開口一番そんな事を言う。


「はぁ…… ? 生魚、ですか? 」


 勝手に食べれば良いじゃないかと心の中で呟くが口には出さない。あ、そう言えば前に公爵は生魚にあたった事があると言っていたな。


「そこでだ、ライル君。生魚を食べ慣れている人魚なら、きっと私でも腹を下さずに美味しくいただけるのではと思い至ったのだ。しかし、生憎と私には人魚の知り合いがおらん。なので君に人魚達との繋ぎをお願いしたい」


 生魚って刺身の事だよな? 確かに、人魚達ならそれも可能だろうけど、警戒心の高い人魚にいきなり生の魚を食わせてくれとは言えない。警戒されて距離を置かれるのが目に見えている。


「失礼を承知で伺いますが、本当に魚を食べるだけですか? 人魚達を政治に利用するとかは考えておりませんか? 」


「ライル君の懸念も当然だ。だからこそ断言しよう。私は純粋に食を楽しみたいだけで、そこに打算も政治も一切持ち込まない。神達に誓って良いぞ」


 う~ん…… 公爵の食に対する想いは本物だと、領主の館で対談した時に感じたのでその言葉は信用出来る。信用は出来るんだけども、流石に公爵を人魚の島まで連れてはいけない。


 さて、どうするか。早朝に魚を売りに来る人魚に話を通すか? いや、公爵のこの目は今すぐにでも食べさせろという目だ。大人しく待って貰えるような理由が必要になる。


 はぁ、仕方ない。ここは公爵よりも偉い立場の者に頼るとするか。


「分かりました。人魚と私とで独自の連絡手段が御座いますので、直ぐに頼んでみます」


「ほぉ? 通信魔道具のようなものかな? どんな物か見せてはくれないのか? 」


「申し訳ありませんが、いくら公爵様でもそれは…… 」


「ハハハ、言ってみただけだ。それより、早速人魚達への連絡を頼む。私はここで待っているのでな」


 公爵は店の隅に設置してあるテーブルへと向かい、既に席について成り行きを見守っていたデイジー達の隣へと座る。そこへキッカが恐る恐る紅茶を置くと、優しく頬笑みお礼を言った。


「どうも、お嬢さん方。少しお邪魔させて貰うよ」


「あ、あらぁ? 公爵様と同じ席につけるなんて光栄だわぁ」


「うわっ、公爵って貴族の中で一番偉いんだよね? そ、そんな人と私今一緒にいるの? 」


 リタはガチガチになり、デイジーでさえも緊張を隠せない様子。そりゃ公爵なんて俺達一般人からしたら雲の上の存在だからそれもしょうがない。二人には気の毒だけど、暫くお相手をお願いするよ。


 だからそんな助けを請うような顔を向けられても、何も出来ないからね?



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