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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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13

 

「そう、旦那様がその様な事を…… 」


 静かに俺の話を聞いていた母さんが、ポツリと呟く。昔の名残か、その口調は使用人をしていた頃に戻っていた。


「大丈夫だよ、母さん。今度は俺が守るから」


「ライル…… 私達が、でしょ? 」


 エレミアの声に振り向くと、そこにはアグネーゼとゲイリッヒ、アンネにギルとムウナ、それとタブリスにテオドアまで出てきていた。


 まったく、こんな大勢じゃリビングが狭くて仕方ないよ。でも、凄く嬉しくて心強い。


 思わず顔が綻ぶ俺を見て、母さんも頬笑む。


「ありがとう、ライル。それと皆さんも。こんなに安全な場所は世界中探してもきっと此処だけね」


 そうだね。この店にちょっかいを出そうものなら、エルフ、ドワーフ、人魚、天使、妖精達が黙っちゃいない。それに隣には堕天使達も控えているし、たぶん世界で一番安全なんじゃないかな?


「それで? 旦那さ―― いえ、ハロトライン伯爵様は自分の息子だと名乗らなければ、何もしないと約束して下さったのね? 」


「うん、口約束だから余り信用は出来ないけどね。それでも、前から俺の情報は掴んでいたみたいなのに、何もしてこなかったから平気だとは思うけど、注意だけはしておいてほしい」


「えぇ、でも心配はいらないわ。あの方は決して約束を違える真似はしない。それが例え口約束だけだったとしても。だから私は貴方を守り育てる事が出来たのよ」


 長年伯爵家の使用人をしてきたからか、ハッキリと断言する母さんに、此処にいる誰もが納得した。


 きっとハロトライン伯爵の中には、独自のルールがあるのだろう。それを逆手に取れば先手を打てそうなものだけど、余計は争いは生みたくないので大人しくしておこう。でも、念のために母さんから詳しく話を聞く必要があるな。




 その翌日。公爵のパーティに呼ばれていた貴族達が帰っていく中、店に思いがけない客が訪れた。


「なんだ? 外見もそうだが、中身は更に貧相だな。これで商売が成り立っているのか? 」


「この寂れた雰囲気が良いんじゃない…… わたしは気に入ったわ」


 おい、来店早々失礼な事を言う子供だな。


 短めだがサラサラの金髪で垂れ目の少年と、腰まで伸びた赤くウェーブが掛かっている髪の少女の二人組みだ。兄妹かな? 取り合えず客には変わりないので対応しなくては。


「いらっしゃませ」


「ん? …… うわっ! 何だお前、人間か? よくそんな体で今まで生きてこれたな」


 人の姿を見るなりなんて事を…… でもま、俺自身も良く生きてこられたなと思うよ。


「なぁ、ここにクラリスという者がいると聞いたんだが、本当か? 」


「私の母ですが…… お知り合いで? 」


「なに? ではお前がクラリスの子供か? 成る程、確かにこれでは色々と面倒をみなくてはならないので館を出ていく他ないな」


 一人で勝手に納得してウンウンと頷く少年。俺にはもう何が何だがさっぱりだよ。


 そこへ奥の部屋から母さんが何事かと顔を出した。


「どうしたの? 何か私の名前が聞こえて来たけど? 」


「おぉ! 久しぶりだな、クラリス! お前がこの街で店を開いていると聞いて少し覗いていこうと思ってな。しかし、館を出てまで店をやる必要があったのか? これならそこの息子を我が領地に呼んで、そのまま使用人を続けてた方が稼ぎは良いと思うのだかな」


 なんて言い草だ! そりゃ小さな店だけど、それなりに儲かっているし、生活には困っていない! って、領地? 使用人? もしかして、この子達……


「お久しぶりです。アラン様、レイチェル様。この一年で随分と成長なされましたね。態々ご足労頂きありがとうございます。しかしながら、私は館を出ていった事を後悔しておりません。息子との生活にとても満足しておりますので」


「…… ふん、そうか。まぁ、それなら良いんだがな。もし店が潰れるような事があれば、また館に戻ってくれば良いさ。父上にはおれから言ってやるからさ」


「お心使い、感謝します」


 幸せそうに頬笑むクラリスに、アランと呼ばれた少年は動揺したが、それを誤魔化すようにまた聞き捨てならないことを言う。俺の店は潰れないからな!


「あの、母さん? この人達は? 」


「あぁ、貴方は初めてだったわね。紹介するわ、男の子の方がアラン・ハロトライン。女の子の方がレイチェル・ハロトライン。ハロトライン伯爵様のご子息とご息女であらせられるわ」


 そう言えば俺が生まれた三年後に双子が生まれたって言っていたな。それじゃあ、この二人は今世の血を分けた俺の弟と妹になるのか?


 前世では兄しかいなかったから、初めての弟と妹だよ。そう思うと、今までの失礼は言葉と態度が急に可愛く感じてしまい、思わず顔が緩んでしまう。


「なに気持ちの悪い顔をしてるんだ? 何かの病気か? 」


 …… やっぱり可愛くない! それにしても、さっきからレイチェルは一言も喋ってないな。気になって目を向けると、父親譲りなのか、鋭い目付きでじっと俺を凝視していた。


 こわっ! 目の下に出来た大きな隈が更に不気味さを際立たせて、もうホラーだよ!! 何でずっとこっちを見てんの? お願いだから何か言ってくれよ。


「かわいい…… わたしの部屋に置いておきたい」


 へ? 聞き間違いか? この子、俺を見て可愛いって言ったよな?


 突然の発言に唖然としていると、クラリスとアランも困ったような表情を浮かべているのが見えた。

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