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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 …… あれから五分、いや十分か? お互いに見詰め合ったまま一言もなく時間は過ぎていく。


 おい! 何か喋れよ!! 俺に話があるから呼んだんだろ? 早くしてくれ、とても気まずくて間が持たない。


 表面上は無表情を貫いているが、内心ヒヤヒヤしている。こんなのがこれ以上続いたら精神的にヤバいよ。


『我がいるのだ。堂々としていれば良い』


『まったく、勿体ぶっちゃってさ。とっとと用件を言いなさいよね! 』


 こういう時にこそ魔力収納にいる皆が心強い。俺一人だけだったら、とっくにキブアップしていた所だ。一体なんの話があるのか分からないが、ここは毅然とした態度で向こうが話すまで待たせて貰おう。


「まさか、あの状況で生き残るとはな…… 」


 ハロトライン伯爵は呟くように小さく言葉を漏らす。


「まぁ、私としてはどちらでもよかったのだ。貴様が死んでいようが生きていようが、もう私の家とは関係無いのだからな。もし、あの時そのまま館へと戻って来るような事あらば追い返す手筈になっていた。そして私の息子と言いふらそうものなら、我が家を貶める行為と見なし、ただちに捕縛した後、その場で処刑していただろう」


 やっぱりか。俺があの館へ戻る事を選んだとしても問答無用で追い返され、息子だと声高に訴えた所でそれを証明するものは何もない。そうなれば、ただの一市民が伯爵に根拠もない嘘を言って騙す行為と見なされて、堂々と俺を処分出来るって訳だな。


 最初から俺が生き残る可能性を考慮していたとは、抜け目のない人だよ。


「だが、その後が予想外だった。あの魔物が闊歩する森の中で死ぬ事なくインファネースに辿り着き、あまつさえ自分の店を持ち、南商店街の代表にまで成り上がり、これだけの功績を残すとは…… 」


 伯爵の驚きも仕方無いだろうね。完全に役に立たないと見切りをつけた相手が、まさかの大出世を果たしているのだから。


「発言を許して貰えますか? 」


「…… あぁ、元より貴様と話すつもりだったからな、許可しよう」


「ありがとうございます。私が今まで生きて来られたのは、仲間や出会いに恵まれていたからです。私一人だったら、あの森でとうに力尽きていたでしょう。これまでずっと部屋の中だけが私の世界でした。それが外に出て一気に世界が拡がり、目に写る物全てが新鮮で、だけど危険も沢山で、私は今を生きている実感を得ました。もし、伯爵様がいなかったら、私は生まれてさえ来なかった。もし、伯爵様が私をあの森の中に捨てなければ、そしてあの馭者に殺されていれば、こうして信頼出来る仲間達と出会えなかった。私自身、思うところがない訳ではありませんが、確実に言えるのは、伯爵様を恨んでいないという事です。貴方がどんなに否定しようとも、私は貴方方がいなければ存在していなかったのですから。なので、貴方が私と他人であると望むのであれば、私はそれに異議はありません」


 俺の想いを聞いたハロトライン伯爵は、眉間に深い皺を刻み、短く整えられた髭を撫でる。


「報復する意図はないと、そう言うのだな? 成る程…… 確かにお前は優秀だと認めよう。だが、私の判断は間違っていたとは思わない。幾ら優れていても、お前は貴族としては最悪だ。その醜い見た目では、他の貴族達に目をつけられ、領民に不安を与えかねん。貴族とは、決して周りに弱味を見せてはならんのだ。お前の存在は我が家と我が領地を危険に晒す可能性があり、即刻処分するつもりであったが、まだ赤子のお前をクラリスが必死に庇い命乞いをしたのでな、取り敢えずは育てて様子を見る事にしたのだ。後はお前が知るように、魔法も使えぬのではもう貴族としては生きてはいけない。私には、領地と民を守る義務がある。それを脅かす存在があれば容赦なく処分する。其が実の息子でも例外ではない…… だが、お前が私の家と何も関係が無いとするのなら、私は何もせず領地の為にインファネースの支援を行うつもりだ」


 そうだったのか、母さんはそんな前から俺を守ってくれていたんだな。生まれた時から出会いに恵まれて、こんなにも俺を守ってくれる仲間達が出来て、俺はなんて幸運なのだろうか。ほぼ一人で暮らしてきた前世に比べれば、もうこれ以上を望むのは欲張りというもの。今はただそれを失わないようにするだけだ。


「承知致しました。もう貴方と私は親子でも何でもありません。この命が尽きるまで、そのように致します」


「ならばもう話す事はない。クラリス共々、好きに生きるが良い」


 クラリスが俺と一緒に暮らしている事も調査済みか。ってことは、前から俺の存在には気付いていたのか? やはり油断出来ないな。本当にもう何もしないよね?


『ライルは心配症だねぇ~。 もう一人じゃないんだし、皆がいればあんな奴が何をしてきたってへっちゃらよ! 』


『ムウナ、ライルも、クラリスも、みんなまもる! だから、あんしん!! 』


『オレの同胞達も常に店の者達を守っていますので、ご安心して下さい。長に危害を加えるのなら、それが実の父親でも容赦はしません』


『なんなら、俺様がこの野郎に取り憑いて思いっきり恥ずかしい姿を晒したって良いんだぜ? 』


『フッ、我も含め、これだけの者達がお前の側におるのだ。何を憂う事がある? 』


 ギルの言葉に魔力収納内いるアルラウネ達も大きく頷く。


 あぁ…… やっぱり俺は果報者だ。こんなにも頼もしい仲間達がいるのに、何を恐れているのだろうか。


 皆のお蔭で軽くなった心で、伯爵を背に馬車を降りてエレミアとアグネーゼの下へと向かった。

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