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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第三幕】鉱山町の夢追う坑夫
47/812

4

 

「おはようございます」


 階段を下りると、恰幅の良いおばさん――アマンダがテーブルを拭いていた。


「おや、おはよう! よく眠れたかい?」


「はい、お陰さまで」


 あの騒がしい夕食の後、アマンダのご厚意で二階で休ませて貰った。 部屋に着くと、鉄の匂いと筋肉でエレミアが限界に達していたので、魔力収納の中で休ませている。今も死んだように眠っているので、無理に起こさずそのままにしている。坑夫達はもう山に行ったのだろうか、姿が見当たらない。


「朝飯はいるかい?」


「はい、いただきます」


 朝食を用意してもらい食べていると、アマンダが同じテーブルに着いて来た。


「ありがとよ、あんな上物の酒をあんな値段で譲って貰ってさ」


 アマンダは気付いていたようだ。俺が多目に酒を渡していた事を、なんだか恥ずかしいな。


「いえ、これはお互い納得した上での商売ですので、お礼は結構ですよ」


「ハハ! そういう事にしておくさ」


 そう言って、アマンダは厨房へと向かって行った。 食事を終えて食器を厨房へ運んで行くと、何やら悩んでいるアマンダの姿が目に入る。


「ご馳走さまでした。 あの、どうかしたんですか?」


「ああ、わざわざすまないね。 なに、今夜の献立の事で悩んでいてね」


 まだ昼にもなっていないのに、もう夕食の事を考えていたのか。


「あんた、調味料は持ってないのかい? 塩はまだあるんだけど、胡椒が少し心もとなくてね。 隣町まで行っている連中に頼むのを忘れちまってさ」


「はい、ありますよ」


 俺は胡椒の入った小壺を取り出しすと、アマンダは蓋を取って中身を確認した。


「うん、香りの良い上物だね。 いくらだい?」


 さて、困ったな。 この世界での胡椒の価値が分からないんだよな。 何処かの商工ギルドで登録してから色々と聞こうと思っていたし、市場調査もそこで行おうと考えていたから情報が殆ど無いに等しい。


「正直に言いますと、まだ胡椒の価値を把握していないんですよ。 良ければいつもどのくらいの値段で購入しているのか教えてくれませんか?」


 適当な値段がつけられないので正直に話してみると、アマンダは穴が空くんじゃないかと思う程じっと此方を見詰めた後、堰を切ったように笑いだした。 漸く笑いが収まると眼に滲み出た涙を拭いながら、


「いや~、すまないね。 あんたが馬鹿正直に言うもんだから、堪えられなかったよ。 は~…… こんなに笑ったのは久しぶりだね。 いいよ、教えて上げる」


 アマンダが言うにはこの国では胡椒は一般的で割りと多く流通しているみたいで、値はそれほど張らないらしい。


「でもこれは質が良いから、一般的な胡椒よりも高く売れるはずだよ」


「教えて頂きありがとうございます。 今回は市場に出ている価格でお譲りします」


「いいのかい?」


「はい、情報料も込みということで」


 アマンダは嫌らしい笑みを浮かべて此方を見据えてくる。


「素直に信じてもいいのかねぇ、私が嘘をついて安く言ってるかもしれないよ」


「その時は仕方ありません。俺の情報不足が招いた結果ですので、授業料だと思って諦めます」


「ふ~ん、成る程ね。 あんた良い商人になれるよ。それでズル賢くなれれば完璧だね」


 商売は信用が大事だけど、誠実なだけでは上手くいかない。このバランスが難しい所だ。 清濁合わせ飲み、自分の利益に繋げなければならない。 欲を言えば、双方にとって損を無くせれば良いんだけど。


 胡椒を小壺で三つ売った後、別の壺を二つ取り出した。


「ん? なんだい、これは?」


「これが味噌で、こっちが醤油です。 どれも調味料なのですが、ご存じありませんか? これ等も商売にしようと思うのですが、売れますかね?」


 アマンダは味噌と醤油の匂いと味を確かめると、腕を組み暫く思案に耽る。


「なかなか面白い味だね。スープの味付けに良いし、炒め物にも合いそうだ。 だけど匂いがキツイね。いきなり調味料として売るより、これを使った料理を売り出した方が良いかもね」


「なるほど、味と匂いに馴れた頃に調味料として売り出せば良いんですね」


「まぁ、そういうこったね」


 やっぱり馴染みのない物は難しそうだ。こういう調味料があると認識させる事から始めないといけないのか。


「良ければ差し上げますので、これ等を使って料理をしてくれませんか?」


「良いのかい? それじゃ遠慮無く使わせて貰うよ。昼飯はこれを使った物にしようかね」


 そう言ってアマンダは料理を仕込み始めた。


 エルフ達は馴れているから普通に調理して食べていたが、慣れていない人間ではどんな反応をするのか見てみたい。もし、ここの人達に受け入れて貰えなかったら、味噌と醤油は諦めて里だけで使った方がいいな。


「手伝いましょうか?」


「あら、そいつは助かるね。 お願いするよ」


 昼食の準備を手伝っているとエレミアが起きてきて、手伝いに加わった。普段から母親の手伝いをしていただけあって手際が良く、すっかり俺は邪魔者になってしまったので、ここはエレミアに任せてこの町を見て廻る事にした。


『追い出されちゃったね』


 アンネがにやつきながら言ってくる。


『違うぞ、俺は邪魔しないように自分から出てきたんだ』


『はいはい、そうですね。 そういう事にしておきましょうね~』


 何か含みのある言い方でイラッとしたので、今日のお酒はお預けにしてやろうと心に決めた。

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