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あれからクレス達はギルドの調査依頼で、リザードマンキングがいると思われるカルカス湿原へと旅立った。そこでキングの確認と集まっているリザードマンの正確な数を調べ、それが規定以上なら大規模討伐へと移行するらしい。
俺の方は、アグネーゼがカルネラ司教に連絡を入れ、インセクトキングの動向の調査、進路を予測し、先回りをして迎え撃つ算段をしている。しかし、全国に教会があるにも関わらず、思うようにインセクトキングの目撃情報が集まらない。突如空に現れては何処かへ飛んで行き、そのまま行方をくらませてしまう。一体奴等は何処を目指し、何処に身を隠しているのだろうか。
「集団で飛んでいるのなら目立つ筈ですのに、見失ってしまうのは何故なのでしょう? 」
カルネラ司教からの報告を受けたアグネーゼが首を傾げ疑問符を浮かべる。
「前のインセクトキングには姿が消えるような能力はありませんでしたので、何処かに身を隠しているのは確かだと思いますが」
流石はゲイリッヒ、二千年も生きているヴァンパイアだけあって色々と知っている。正に生き字引のような存在だな。
「じゃあ、何処に隠れているっていうんですか? 」
「いえ、そこまでは現場を見ておりませんのでなんとも言えませんが、森や地面の中というのも考えられます。地中に巣を作る虫の魔物もおりますので」
そうなると各地を飛び回っているというのも怪しくなってくるな。もしゲイリッヒの言うように巣があるとしたら、何処へ行ったとしても必ず巣へと帰っていく筈だ。
「アグネーゼさん、何処でその虫の魔物達を見失ったか分かりますか? 」
「カルネラ司教様にお聞きすれば分かると思いますが…… もしかしてライル様はその近くに巣があると考えておられるので? 」
「その可能性も無きにしも非ず、ですね」
巣も一つだけとも限らない訳だし、少しでも疑いがあるのなら徹底的に調べるべきだ。
「そう思うんだったら、ライルも一緒に調査すれば良いじゃん。むしろそうした方が手っ取り早いんじゃないの? 」
「いや、そうしたいんだけさ。公爵様のパーティに出席するっていう約束があるから、今街を出るのはちょっとね。確かアンネも招待されたんじゃなかったっけ? 」
インファネースと俺の為に動いてくれてるのに、約束を反故にする訳にはいかない。
「あっ! そうだった!! 大人数は駄目だって言ってたから、誰を連れていこっかな~。まぁ、適当でいっか! 」
当日は静かにしていてくれと頼んでも無意味なんだろうな。せめて周りの人達にちょっかいだけは出さないてくれると有り難いのだけど。
それから暫くすると、領主から公爵が主催するパーティの開催日が決まったとの連絡を受けた。
初めは面倒だと思ったいたが、最近だらしなくなった体を鍛えるという名目で、タブリスとエレミアの二人から店を閉めた後で訓練を受けている。魔力の使用を禁じられ、己の肉体のみでの稽古の日々。魔力が使えなければ両腕の無い俺に残された攻撃手段は蹴りだけ。後はひたすらに迫りくる攻撃を避け続けるという中々に厳しい。
そろそろ休みたいと思っていた所に領主からの連絡、地獄に仏とはこの事だね。
パーティには前に作ったけどまだそんなに着ていない正装があるのでそれを着て行けばいいか。後はリタの服飾屋で注文していたエレミアとアグネーゼのドレスを受け取れば準備は完了だ。
「ねぇ、ライル。あたしにはドレスないの? 」
「え? だって妖精達は自分で服を作ってるんだろ? ドレスだってそうすれば良いんじゃ…… 」
「人間が作ったドレスが着たいの!! 」
えぇ~…… 今更そんな事言われたってなぁ。今から注文して間に合うかな?
「わ、分かったよ。エレミアとアグネーゼのドレスを受け取る時に頼んではみるけど、あんまり期待するなよ? 」
たぶん無理なんじゃないかなぁ、と思いながらもリタにその事を伝えてみたら、結構ノリノリで承諾してくれた。
「わぁ! 妖精さんのドレスを? 凄く面白そうね! 」
「でもパーティは翌日なんだけど、間に合いますか? 」
「えぇ、大丈夫よ。妖精さんは小さいから生地も直ぐに用意出来るし、そんなに手間じゃないもの。早速お姉ちゃんとデザインの相談をしなくちゃ! アンネちゃんも、奥で寸法を取らせてもらって良いかな? 」
「おうよ! 隅から隅まで測りんさい!! 」
リタとアンネは足早に店の奥へと引っ込んで行った。まぁ本人もやる気に満ちているので問題はないだろう。後は任せて俺達は帰る事にした。
そしてパーティ当日、俺は馬車の側で御者を勤めるゲイリッヒと一緒にエレミア達を待っている。それにしても遅いな…… ドレスってそんなに着づらいものなのか?
「我が主よ。いつの世も、女性の準備には時間が掛かるというもの。余裕をもってじっくりと待つのも男の仕事で御座いますよ」
そういうもんなのかね? あんまりそういった経験がないからよく分からんよ。なぁ? ルーサ。
馬のルーサに問い掛けても、ブルルルと鼻を鳴らすだけ。また一段と逞しくなったんじゃないか? 羨ましいよ、俺なんかやっとお腹周りが引っ込んできたというのに。
そんな感じでルーサと戯れていると、エレミア達がやっと身支度を終えて家から出てきた。待たされた事に少し文句でも言ってやろうか思ったが、そのドレス姿に目を奪われ口を閉ざしてしまう俺を見て、ゲイリッヒが優しく見守るように頬笑んだのが目に入った。