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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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2

 

「そんじゃ、行ってくんね~ 」


 今日もアンネが他の妖精達を引き連れて人魚の島へ向かうのを見届けたところで、エレミアが徐に近寄ってくる。


「ライル、そろそろ時間だから行きましょう」


「なぁ、本当に歩くのか? 街用の小さめの馬車があるんだけど」


「駄目よ、歩いて行くと約束したでしょ? 」


 そっかぁ、約束したんだ…… 寝耳に水なんですけど?


「さぁ、ライル様。行きましょうか! 今日は天気も良くて絶好の徒歩日和ですよ! 」


 何がそんなに嬉しいのか、アグネーゼは元気一杯だ。あれから切に願っいたにも関わらず、空は雲一つないピーカン照りある。眩しく降り注ぐ陽光が今は怨めしい。アンネから教えてもらった魔力での体温調節は、まだものにできていない。夏の間はクーラーが効いている家からそんなに出る事はないからと、練習をサボっていたつけが回ってきた。


「お気をつけていってらっしゃいませ、我が主よ。店番は私にお任せ下さい」


 恭しく頭の下げるゲイリッヒを背に、エレミアとアグネーゼと共に店の外に出る。


 久しぶりの外の光に目の奥が少し痛くなるのを感じ、思わず目を細めた。気温は相も変わらず高いままで、正に猛暑真っ只中である。あぁ、領主の頼みじゃなければ直ぐにでも踵を返して店の中に戻るのに。


 左右からじっと見詰める二人の視線に、無言の圧力を受けつつ俺は歩き出す。ジリジリと焼き付ける日の光を浴び、火傷痕のようになっている顔の左半分がジクジクと疼く。


 前世から暑いのは苦手だったが、あんな死に方をしたからか、更に熱に対して苦手意識が強くなった気がする。炎を見るたびに自分が死んだ時を思い出してしまうし、結構トラウマになっているようだ。まぁ別にパニックになる程でもないから今のところは生活や戦闘に支障はない。


 そんなものより、この暑さで汗を掻くのが一番嫌だ。ちょっと外を歩くだけじんわりと汗が出て、服が肌に張り付いてくる感じは不快以外のなにものでもない。


 あぁ…… 暑い、疲れる、面倒くさい。この日ばかりは街の広さに怒りを覚える。呼びつけるのなら迎えの一つでも用意してくれれば良いのにと、心の中で領主に八つ当りをしている横でエレミアとアグネーゼは何でもない風に歩いていた。街の人達は暑さに慣れているから不思議ではないけど、この二人はどうしてこうも平然としていられるのだろうか?


「ライルは大袈裟なのよ。運動が苦手なのもそれが理由でしょ? ちょっと汗を掻いた肌に風が当たると涼しいのに」


「私はどちらかと言えば寒いより暑い方が好みですので、帝国にいた頃よりかは過ごしやすいです」


 へぇ、それは羨ましいね。俺は暑すぎるのも寒すぎるのも苦手だよ。季節で言うと春と秋の気候が好きだな。


 途中、中央広場でアイスクリームの屋台を見付けたので、人数分買って近くのベンチで休憩を取る。


 このラムレーズンのアイスクリームは完成度が高くて美味いな。コーンもパリパリで完璧だし、よく話を聞いただけでここまで再現出来たものだよ。やはり魔法や魔術がある世界は、前世にいた世界よりずっと便利だ。なのに技術的に劣っているのが不思議でしょうがない。


『別に技術が発展していない訳ではない。遥か昔ではライルがいた前世の世界と同等の文明も築いていたのだが、爆発的な人口増加に伴い魔王の誕生が早まってしまい、長くは続かないのだ』


 成る程ね。ギルの話では、この世界は幾度も文明の発展と衰退を繰り返している。文明の発展は人口の増加を促し、人が増えれば魔王が生まれる。そして人類と魔物との戦争で発展してきた文明が壊されてしまう。


 だとしたら、俺が前世の物を再現しているのは良くない事なのか? 今回はカーミラが原因で魔王の誕生が早まったが、俺のせいだった可能性もあったのでは? そう思うと安易に前世の物を作らない方が良かったのかな。


『それはないだろう。いくらライルでもそう短期間で文明を発展させるのは不可能だ。よしんばそれが出来たとして、そんなすぐに人間は増えない。先程我が言ったのは様々な要因が奇跡的に合わさり起こった事で、明確に誰かが原因とは言えん。そう気に病む必要は皆無だ』


 魔力で操る木腕が持つアイスクリームをじっと見ていたら、魔力収納内からギルが心配するなと言ってきた。


『しかし長よ、今期の魔王は意図的に誕生を早められている。この不自然な流れの結果、何が起こるかは前例がないのでオレ達では予測が出来ない。このまま魔王が出現して戦争が始まってしまったら、どんな結末を迎えるのか不安だ』


 確かに、タブリスの懸念も分かる。話を聞く限りでは、今まで意図的に魔王を生み出そうなんてする者はいなかった。コルネウスが言っていた新しい世界への扉というのも気になるし、カーミラがあの空に浮かび消えた山にいるのは分かっているのに、此方から打って出る事も出来ず、後手に回っている現状は変わらない。


 取り合えず今俺達がしなければならないのは、これ以上カーミラが用意している魔王候補を強化させないよう、残り二体のキング種を倒して渡さない事。


 そう言えば、カルネラ司教が心当たりがあると言って調べてるキング種はどうなったのだろう? 連絡が無いからまだ調査中だとは思うけど、後でマナフォンで確認してみようかな?

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