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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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1

 

 祭りが終わって暫く経ち、あれほど観光客で賑わっていた商店街も落ち着くと同時に外の暑さはピークを迎え、太陽の光がギラギラと道行く人々に容赦なく降り注ぐ。


 絶対にクーラーの効いた店から出てたまるかと決意を固めた時に限って面倒はやってくるものだ。


 この日も一向に外に出たがらない俺を心配する母さん達を尻目に、店番と称して涼んでいるとマナフォンが震えだした。画面には発信者である領主という文字が浮かんでいる。


 …… このまま出ずに無視でもしてしまおうかと一瞬頭を過ったが、そんな事をしても店に使いの者が来るだけだと思い、結局マナフォンに出た。


「はい、ライルです」


「ブフゥ、吾輩である。ライル君、前に約束したグラトニス卿との対談についてなんだが、覚えてるかね? 」


 あぁ、確か…… マセット・グラトニス公爵が色々と話を聞きたいとか言っていたな。


「えぇ、覚えていますが…… 」


「実は、先の祭りでグラトニス卿がこの街をいたく気に入り、別荘として北地区に土地と家を買って頂いてな。漸く諸々の手続きが完了した所で、早速ライル君と会って話がしたいとの申し出かあった。二日後の正午に吾輩の館に来てくれぬか? 」


 来てくれぬか? って、断る選択肢なんて無いので了承してマナフォンを切る。はぁ…… 嫌だなぁ。別に公爵様と話すのは良いんだけどさ、問題は領主の館まで行かなくてはならない事だ。こんなくそ暑い中を数十分も掛けて移動しなければならないのか。


 アンネの精霊魔法でパッと移動したいところだけど、最近は昼頃になると人魚達の島へ行って戻って来るのは夕飯時。あの祭りでのライブ以降、すっかり人魚達と一緒に歌うのが気に入ったみたいで、今は共同でオリジナル曲を作っているらしい。


 行きだけアンネに頼んで、歩いて帰るしかないか。その時には日も沈んで少しは気温も下がっているだろう。


「いいじゃない。たまには外に出て日の光を浴びて歩かないと不健康よ」


 横で俺と領主の通話を聞いていたエレミアが呆れ顔で溜め息を一つ溢す。


「でもライル様のお気持ちも分かります。こんなに暑くては外に出るのを躊躇ってしまいますよね」


「アグネーゼ、貴女はまだライルの事を分かっていないわ。私達の里で暮らしていた時も、仕事以外では殆ど外に出ようとはしなかったのよ? これは暑さ云々というより出不精ってだけ」


「そうなのですか? それなら適度に運動しないといけませんね」


 おいこらエレミア、余計な事を言うんじゃないよ。ほら、アグネーゼの俺を見る目が少しだけ厳しくなったぞ? これを切っ掛けに定期的に外に出ろなんて言われるようになったらどうすんだ。


 それに俺は出不精ではなく、外に出る用事がないだけ。なんで用もないのに態々快適な空間から過酷な環境下に身を晒さなければならない? それでもし体調を崩すような事があれば、それこそ不健康というもの。安全で涼しい屋内にいる方が怪我をする確率は低く健康的とも言えるのではないだろうか?


「なんと論理的な思考、流石は我が主です」


 だろ? ゲイリッヒなら賛同してくれると思っていたよ。


「ライル様、それを出不精と言うのではありませんか? 」


「無駄よ、里にいた頃からずっとこうだから。何かと理由をこじつけては外に出ないようにするのよ…… でもライル、今回は領主の館にいくという用事が出来た訳だし、アンネ様も最近忙しくしているわ。だから歩いて行きましょうね」


 は? た、確かに外に出る用事は出来たが、そんな無理して暑い中を歩く必要はないのでは? 馬車だってあるしさ。


「そうですね、それがよろしいかと。運動不足は体に悪いですよ。私もご一緒致しますので頑張りましょう! 」


「う~む…… 我が主が運動不足で不測の事態に体が動かず怪我をしたら大変です。私も彼女達の意見に同意するべきか…… 」


 あれ? いつの間にか俺の味方がいなくなってしまったぞ? これは不味い、俺一人では分が悪いな。増援を求めなければ…… デイジーとリタは駄目だ、絶対にエレミア側に立つと予想出来るからな。ガンテは…… 鍛冶場で暑い所には慣れてるので、外なんかそんなに暑くはないとかぶっ飛んだ事を言いそうなので却下。


 店の中には俺の味方になってくれそうな者はいない。なら魔力収納内では?


 ギルは何か下らないとか言われそうだし、アルラウネ達は畑や田んぼ、鶏達の世話で忙しくしているので邪魔しちゃ悪い。ハニービィ達とクィーンでは擁護しようにも言葉が話せないので無理。タブリス達に関しては、飛べば良いではありませんかと言ってくる。君らや妖精なら平気だろうけど、俺が街中で飛んでたら目立っちゃうよ。


『ライル! ムウナがいる。ムウナ、いつでも、ライルのみかた!! 』


 あぁ、うん…… 気持ちだけ有り難く受け取っておくよ。


 残るはテオドアか…… あいつならきっと上手い具合に事態を有耶無耶にしてくれるかも。


『はぁ? 領主の館まで歩くだけだろ? 何をそんなにむきになっているのか俺様には分かんねぇな。ていうか、最近夜の間だけ自室に結界を張る家が増えてきて困るんだよ。そのせいで覗きも満足に出来やしねぇ。何とかしてくれよ相棒』


 共感してくれると思っていたのに、テオドアの予想に反した返答に困惑する。まさかこいつ、五百年以上もレイスやってるから、人間の時の感覚を完全に忘れてしまっているんじゃなかろうか? 後、結界については何もしてやれないよ。


 これはもうお手上げだな。母さんからも常々言われてきているし、観念して徒歩で館に向かいますか。せめて当日の天気が曇りでありますようにと切に願わずにはいられなかった。

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