ピッケのお祭り実況 後編
さぁさぁ! 来たよ、来ましたよ!! あたし達にとってはここからが大本番! 練習の成果を皆にたっぷりと聞かせちゃうからね!!
そう意気込んで港へと向かうと、もう既に仲間の殆どが集まっていた。誰もが楽しそうに、それでいてやる気に満ちた表情を浮かべている。
早速、東商店街の代表のヘバック爺さんとその商会員の人達、そして人魚達と協力して海上にステージを設置する。
「おぉ! やってるねぇ!! 皆準備はいい? 練習したことを確実にこなせば良いからね、緊張せずに思いっきり楽しもー!! 」
概ね準備が終わる頃にやって来た女王様が、意気揚々と飛んで来てはそんなことを言う。もう少し早く来て準備を手伝って欲しかったね。
そうこうしていると、続々と港に花火を見に来た人達が集まってくる。あたし達は急いでステージの裏側に身を隠し、時が来るのを待つ。このドキドキ感もまた楽しくて、思わず息を殺して笑ってしまう。それは他の子達も一緒みたいで、クスクスとした笑い声が止まらない。
「よ~し…… そろそろ頃合いね。そんじゃ、打ち合わせ通りに行くよ! 」
女王様がステージ上に飛んで行くのを見計らい、照明担当の子達が光の精霊魔法で明かりを灯す。この突然の出来事に、港に集まっている人達からザワザワとした音が聞こえて、あたし達は更に笑みを深くした。
「みんなー!! 祭りは今日で終わりだよ! という訳で、最後にあたし達の歌を聞けー!! 」
女王様の口上を合図に、あたし達は一斉にステージ上に飛び出し、周りの海からは人魚達が姿を現す。
そして音の精霊魔法で練習で覚えた音を奏で出す。あたし達は女王様のような膨大な魔力は持っていない。その為、一つの音を奏でるのに、複数の妖精の魔力が必要なのだ。あたしの場合は覚えたドラムの音を忠実に再現するのに集中して、他の子達には魔力的な補助をして貰っているよ。
大音量で音楽が鳴り響き、女王様の歌が始まる。花火を見に来た人達は何が起きたのか分からず、唖然として聞いているだけだった。一曲目が終わっても誰もが反応出来ずにいたけど、お構いなしに次の曲へと移る。
最初のこの反応は想定の内。ここは多少強引にでも状況を理解させる必要がある。考える暇なんて与えずに、ただあたし達の音楽を聞かせてしまえば良いのよ!!
そんな無理矢理な手法が上手くいき、二曲目が終わる頃には皆もそれなりに盛り上がって来ていた。だけどまだまだ足りないよ! もっともっと上げて行こう!!
女王様の力強い歌、夏らしく熱くなるような歌、涼しく爽やかな歌、何処か郷愁を誘うような歌、心がうきうきするような歌に、もう会場のボルテージは全開だよ!!
それにしても、こんなに沢山の音楽があるなんて知らなかったよ。きっとライルの前世の世界は、歌と音楽に溢れていたんだね。
そして最後の曲も終わり、女王様が勢いよく片手を振り上げると同時に花火が打ち上がる。うん、ここも打ち合わせ通りだ。
初めて見る花火に、盛り上がっていた人達もあたし達も、言葉を失い見入るばかり。
すごい…… 夜空一面に綺麗な花畑が咲き乱れては消えていく。この感動と興奮はとても言葉では言い表せないよ。今まで生きてきた中で一番綺麗な景色かも。
やがて花火も終わり、集まっていた人達もぞろぞろと港を後にする。少し寂しさもあるけど、あたし達のサプライズ演出は大成功だったから、充実感で一杯だよ。
「ピッケ、お疲れさん。もう魔力が残り少なくてヘロヘロだよ~ 」
「う~い、パッケもお疲れ~…… あたしも魔力がやばい。こりゃお菓子でも食べて補充しないとね」
「あたしはこの後、ガストール達と酒場で飲む予定だよ! 」
んあ? ガストールって確か、パッケがよく一緒にいるツルツル頭で悪顔の人間だったよね? あたしはどうすっかなぁ…… デイジーの所にでも行こっかな? なんて考えていたら、一人の妖精が近づいてきた。
「ねぇ、今さっき聞いたんだけどさ。何かこの後、中央広場で代表達と街の警護に協力してくれた人達で集まって、お疲れ会みたいなのをするんだって! 」
「なに!? それってもしかしなくても屋台の食べ物やお菓子も出るんだよね? 」
「そりゃ出るっしょ!! 」
あたし達抜きでそんな事を始めようだなんて、そうは行かないよ! ちょうどいいからそこで魔力の補充もしておこう。
デップリとした領主の挨拶が終わる前には、もうあたし達は料理やお菓子にかぶりついていた。こちとら魔力が減って疲れてんだ、話なんか聞いている場合じゃねぇやい! もたもたしていると他の子達に全部食べられちゃうからね。
はぁ…… お祭り、楽しかったなぁ。こんな楽しいのがこれから毎年行われるなんて夢のようだよ。早く来年にならないかな。
女王様が言うには、もうすぐ魔王が誕生するらしい。そうすれば世界はまた慌ただしくなり、人間と魔物の数が大幅に減らされる。
あたし達妖精はその戦争に関わってはいけない決まりだけど、この街だけは失いたくないよ。何とか理由を見付けてインファネースを魔物達から守りたいな。後で女王様とライルに相談してみよう。
そうだ、エルフや人魚、ドワーフに天使達も巻き込んでしまえば良いんだ。皆一緒なら、多少のルール違反もきっと神様は許してくれるよね?
「ピッケ、それ食べないなら貰っちゃうよ! 」
「あっ!? 何すんだ、この泥棒め! 返せ、こらー!! 」
まったく、油断も隙もありゃしない。今日が明けるまであたし達のお祭りはまだ終わらないよ!