ピッケのお祭り実況 前編
やぁ! 街一番の人気者、ピッケちゃんですよ♪ 最近有翼人が天使と名を変えてインファネースに来てから、人間の観光客が沢山やって来るようになったね。
そいつらもあたし達の可愛さで骨抜きにして、お菓子を一杯巻き上げてやるぞ!
そう意気込んで他の子達とお菓子を取り合う日々を過ごしていると、ライル達がおっきなお祭りをやるという話を聞いた。
お祭りって何か堅苦しいイメージがあるけど、楽しいのかな? なんて初めはあたしを含めて皆そう思っていた。だけど女王様が言うには、聞いた事もない食べ物の屋台や遊戯の屋台を街中に置いて皆でワイワイと楽しく騒ぐらしい。
何それ!? 思ってた祭りと違う、凄く楽しそうだよ! しかも、女王様は内緒であたし達妖精と人魚達で皆を驚かせようと、ある提案をしてきたの。それを聞いたあたし達が女王様の提案を呑まない筈はないよね♪
そうと決まれば早速行動だ! 街にいる妖精達を引き連れて、あたし達は人魚の島へと訪れる。
急な来訪に人魚達は目を丸くしていたけど、あたし達の女王と人魚の女王が話し合う内容を聞いている内に、丸くなっていた目が爛々と光り出した。
人魚の女王も楽しそうに笑っているし、これはもう決まりかな?
それからは祭りが始まるギリギリまであたし達は人魚の島で練習を重ねた。
女王様から聞かせてもらった音楽は、前にあたし達の国で歌ったのとは比べて大人しめな感じだった。あれはあれで楽しかったなぁ、首を思いっきり振ったりなんかしてさ。でも今回は曲数もそれなりにあって、人魚のコーラスとの合わせもある。それにあたし達は自分の担当する音を覚えなきゃならない。因みにあたしはドラム担当だよ♪
そんなこんなで時間は過ぎていき…… とうとうやって来ました、お祭り初日!
あたし達の出番は三日目の最終日だから、それまでお祭りを存分に楽しんじゃうよー!!
ではでは、何処から行こうかな~…… ん? あれは、射的? 変な形の筒の先に、ワインの蓋のような物を差して飛ばし、的になっている景品に当てて落とせばそれを貰えるのか。
やりたいけど、あたしではあの筒は大きすぎて持てないよ。魔力で操ってもいいならやるけど、それは駄目なんでしょ? 仕方ない、次に行くか。
しっかし、人が多いね! もう通りは大渋滞だよ!! まぁあたし達は飛べるから関係ないけど。
人間達の頭上をスイスイと飛んでいると、時折あたしを見つけては手を振ってくる人間の子供がいるので、あたしも手を振り返す。
それからあたしは色んな屋台を満喫した。わたあめはフワフワで甘くて口に入れるとすぐに溶けちゃうの。人魚の海鮮串焼きも美味しかったし、かき氷も冷たくて甘い。ただ、型抜きで編み出したあたしの超絶テクニックが通用しなかったのは残念だったね。
そんな風にお祭りを楽しんでいると、皆何処かに集まっているのが見える。そんなに急いでどうしたんだろう?
「ねぇねぇ、皆して何処にいくの? 」
「あっ!? ピッケ、あんたも来なよ! 女王様が面白い事をするみたいだよ! 」
「それって歌とは別の? 」
「うん。何かね、悪さをする人間達を追い回して皆で悪戯しちゃうらしいよ」
へぇ、それってつまりこのお祭りを邪魔する奴等がいるって訳ね。そいつらをあたし達で追い出そうって事か。ムフフ、あたしの悪戯心に火がついちゃうね!
「そらそら~! 身ぐるみ剥いじまえ! ついでにお金も奪えばまた屋台で好きなもん食って遊べるぞ!! ライルから貰ったお小遣いじゃ足りなくなってきたからね」
「やるいやつ、おかねもらう、ムウナ、いっぱいたべる! 」
人間の子供の姿をした千年前に召喚された化け物のムウナの頭に乗った女王様が、生き生きと貴族と呼ばれている人間を追っている。それに追従しているあたし達も久しぶりに本気の悪戯が出来ると大盛り上がりだ。
小さな悪戯はちょくちょくしていたけど、それだけじゃ物足りない。だけど街の人達に嫌われちゃったらお菓子が貰えなくなっちゃう。
そんな鬱憤を晴らすように、あたし達は追いかけまくった。流石に全部奪うのは後が面倒なので、取り合えず着ている服をビリビリに破いてからあたし達が遊ぶ為のお金を頂戴する。
いやぁ、あいつらの情けない顔は今思い出しても笑えてくるね! 他の種族も手伝って、お祭りを邪魔する連中は街からいなくなったよ。女王様はまだ不満気な様子、たぶん思った以上にお金が集まらなかったのかな?
こうして思わぬ余興でお祭りの一日目は大いに楽しめた。
二日目は昨日と違って、邪魔してくる人間がいなかったのであの楽しい悪戯は出来なかったよ。ちょっと残念。
あたしはまだ行っていない場所を回る。二日目ともなれば勝手も分かり順調に街中を飛んでいると、色んな人達が目についてくる。
あれはヴァンパイヤのゲイリッヒとアグネーゼだったかな? アンデッドと教会の者が一緒にお祭りを回ってるなんて珍しいね。え、二人とも仲良いの? もしかして付き合っちゃってる? いや、それはないか…… だって二人の距離が微妙に空いてるんだよね、心のとかじゃなくて物理的にさ。それにアグネーゼのあの表情、何か苦いもんでも食べたんじゃないかってくらいに顰めちゃってるよ。
うん? 酒場の前に設置されたテーブル席についてお酒を飲んでいるのは、ドワーフの王と人魚の女王、それにエルフの里長に天使の族長だよね? こりゃまた珍しい組み合わせだよ。
彼等が集まっている所なんて、もうかれこれ千年振りかな。これも女王様がお気に入りの人間であるライルが皆を引き入れたから見れる光景だね。
そんな感じで二日目は特に大きな問題もなくお祭りを楽しんだ。そしていよいよあたし達が歌を披露する三日目が来たよ!
この日は楽しみで妖精皆がソワソワとしていた。いっぱい練習したからね、早くお披露目したいなぁ。
あたしは逸る気持ちを抑える為に、色んな所に飛んでいく。すると女王代理のリーネと領主の娘のシャロットを見付けた。
リーネもお祭りの話を聞いた時はあたしも行きたいと言っていたけど、それは他の子達も一緒だった。流石に国中の妖精が一斉にインファネースに来たら混乱しちゃうので、三日に分けて皆がお祭りに来れるように調整したのよね。そんで最終日の今日がリーネの番って訳だ。まぁ街担当のあたし達はそれに含まれず三日全部お祭りを堪能できるんだけどね♪
何か二人して話してるけど、気になるからちょっと近付いてみよう。
「貴女が今回の変革者ですか。他の子達がお世話になっているのに、挨拶が遅れてごめんなさい。誰かさんが中々戻ってこないもんだから、国からそう簡単には出られなかったのよ」
「とんでもございませんわ。わたくし達の方こそ、いつも明るい妖精さん達に元気を分けて貰うだけでなく、街の防衛にも一役買って頂き、とても感謝しております。しかし、その変革者とは? 」
「あら? 知らないの? 貴女達のように異界の記憶持ちが生まれると何かしらの変革を世界にもたらすのよ。ある周期で必ず世界に変革期は起こっている。そしてその中心には貴女達異界の記憶持ちの存在があるわ。でも、それが良いことなのか悪い事なのかは蓋を開けてみるまで分からないけどね。貴女はどっちかしら? 」
リーネがしたり顔でシャロットを見詰めている。あ~あ、またあんな顔しちゃってさ、リーネってすぐ調子に乗るところがあるからね。これには巻き髪シャロットも苦笑いだよ。
「それでは、ライルさんもその変革者だと? 」
「あ~…… あれは違うわ。そもそも変革期に生まれる異界の記憶持ちは一人って決まっていて、今期の変革者は貴女よ。ライルはね、変革じゃなくて均衡を保つ為に遣わされたって感じかな。あたし達の女王とギルディエンテに次ぐ支配スキルを授かりし者で、この世界に新たな三人目の調停者が生まれたのを意味するわ」
「調停者…… ですの? 」
何やら小難しい話をしているみたいだけど、あたしにはさっぱりだよ。つまんないから別の所に行こう。
そんな風にぶらぶらと飛んでいたら、あたし達の歌を披露する時間になったよ。遂にこの時が来た! 皆の度肝を抜いてやんぜ!!