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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【幕間】
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黒い翼の宅配員

 

 俺達は全員罪人である。いきなりそんな事を言われたら頭の中を疑うだろうが、いたって正常である。


 俺達は翼ある者の有翼人改め天使だった。それが今では純白の翼は黒く染まり、堕天使と名乗る原因となったのが一人の人間であった。


 ある日、タブリス隊長の下に暫く集落を留守にしていたコルネウス様―― もう様はつけなくてもいいか―― コルネウスが人間の女性を連れて訪ねてきた。


 コルネウスとその人間の女、カーミラの甘言に愚かにもついていってしまった俺達は意識を奪われ、気付くと今のような体へと変わっていた。この肉体の回復力は凄まじいが、魔力結晶に魂を封じられた結果、世界の理から外れてしまい全てのスキルを失ってしまう。


 魔力操作や槍術、言語等のスキルは失っても体や記憶、感覚で覚えているので別に使えなくなる訳ではない。しかし、魔法だけは違う。この世界で魔法を使うには制限している属性神の許可が必要である。その許可証となるのが魔法スキルだ。


 属性神から賜った魔法を失い、純白の翼は黒く染まった。しかもそれだけじゃなく、目覚めた時からずっと頭の中に靄が掛かっているかのように意識がぼんやりとして、俺ではない俺が動き喋るのを他人事のように感じていた。


 その頃の俺はコルネウスを…… いや、その奥にいるカーミラを疑うことなく信奉していた。そういう魔術が掛けられていたとはいえ、俺達がしてきたことは許されるものではない。


 だからこそ、ライルに解放してもらった時、この身を差し出し罰せられる覚悟は出来ていた。


 しかし族長が示した罰の内容は驚くほどに追放というかつてない程に緩いもので、その意図をいち早く理解したタブリス隊長は族長に頭を下げていた。


 その後、俺達は堕天使と名乗り、我等の誇りと尊厳を奪い汚したあの人間の女、カーミラを断罪する為にライルを新たな長として付き従うと決めたのだ。


 あの罪深き人間を殺せるのなら、どんな事でも耐えてみせる。俺達全員が体と命を捧げるつもりで長についていき人間の街へと来たのだが…… 待っていたのは人間の手紙や荷物を別の人間に届ける宅配業というものであった。


 世界中を回り情報を集めつつ、活動資金を稼ぐと理解はしたけど、これには納得出来ない者達が出てくるのは仕方ないこと。実は俺もその一人だった。


 命を賭ける覚悟をしてきたのに、ついていった先で長以外の人間にこき使われるなんて、肩透かしもいいところだ。


 とはいえ、長と認めた者からの指示に逆らう訳にもいかず、渋々始めた宅配業なのだが実際にやってみると、人間達から感謝されてそんなに悪い気分ではなかった。


 遠く離れた地から送られた息子からの手紙を受け取り、無事だと確認できたご婦人が涙を浮かべていたり、懐かしい知人から送られる荷物に嬉しそうに頬を緩める者。この国の商工ギルドに急ぎの商品や足りなくなった物品を速やか且つ確実に届ける俺達に快く歓迎してくれたりと、今ではこの仕事にやりがいを持つ者もいる。


 長からは住む家として、俺達が全員暮らせる大きな家を建ててくれたのだが、ひっきりなしに各地を飛び回っているのでインファネースにいる時間はそう長くはない。まぁ休みの日はインファネースでのんびりと過ごしているけど、それ以外は別の街にある商工ギルドで寝泊まりをしていたりするのが殆どだ。


 その甲斐あって国中の情報や噂をかき集める事が出来る訳で、ついこの間も貴族派と呼ばれる者達がこの国の体制に不満を持ち、何かよからぬ事を企てているらしいとの話を聞いたばかり。別の国ならいざ知らず、同じ国に住んでいる者同士で争い足の引っ張り合いをするとは…… やはり人間は理解し難い。


 この仕事で得た利益の何割かはギルドへと入るが、残りは全て俺達の給料となる。


 早速この金を全部長に渡そうとしたら、


「それは貴方達が働いて稼いだお金ですので受け取れません」


 と言って、一リランも受け取ろうとはしなかった。この業務を発案し、ギルドへと掛け合ってくれたのは長なのに。


 なので俺達は、長が金に困るような事があった時の為に、受け取った金を必要以上は使わずに少しずつだけど貯めている。


 自分の意思では無いにしろ、神に槍を向けた行為は変わらない。そんな俺達が再び神と世界に従事出来るこの喜びは、他の者達には理解できないだろうな。


 俺達の心が真に解放されるには、神敵カーミラを滅するしかない。新しき長の下、ギルディエンテ様と妖精女王、そして千年前に異界から召喚された化け物であるムウナ。他にも魔物やエルフもいる。必ずや俺達の誇りと尊厳を弄んだ報いを受けさせてやるぞ。



 俺は空を睨み上げた。この澄み渡った空の何処かにあの憎き神敵がいると思うと、憤怒の炎が胸の奥から噴き出してしまいそうになる。


「おい、何恐い顔をしている? それでは配達先から苦情が来るぞ。まぁ気持ちは分からんでもないがな」


 それを見ていた同輩が呆れながらも注意してくる。おっと、これから手紙や荷物を届けなければならないのに、これではいけない。


 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、良し! と軽く気合いを入れる。


 さてと、今日も世界の為、長の為、俺達が届ける物を待っている人々の為に、ひとっ飛びするか。



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