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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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 祭りは最終日の三日目に突入した。結局、昨日は貴族派の者達が動く事はなかった。それはそれで不審ではあるが、何もしてこないのでは対策のしようがない。このまま何事もなく街から出ていってくれれば助かるのだけど。


 今日はいよいよ祭りの要である花火を打ち上げる日だ。魔道具のテストも重ね、打ち上げる場所も色々と相談して決めたし、準備は完璧だ。


「ライル君! エレミア! いやぁ、思ったより凄い人で驚いたよ! 」


「まさか本当に全ての種族をこの街へと引き入れるとは、流石はライル殿だ! 」


「…… 新しい打ち上げ花火という魔道具を見にきた。とても楽しみ」


 おぉ! 前方から歩いてくるのは、嘘くさい程に爽やかな笑顔を浮かべるクレスに、祭りだと言うのにガチガチに鎧を着込んでいるレイシア、それと何時も通り眠そうな目をしているリリィだ。


 前以てマナフォンで祭りをすると連絡していたのだが、何とか最終日には間に合ったみたいだ。


「いきなりですみませんでした。仕事の方は大丈夫だったのですか? 」


「いや、ちょうど終わってキング種の情報を集めながらインファネースへ向かおうとしていた所だったから問題はないよ。それよりこんな楽しそうな催しをやると聞いたから、急いで戻ってきたよ」


「うむ! こんな賑やかな祭りは初めてだ。ドワーフの魔動列車を利用してまで急いだ甲斐があったいうもの」


 え? そこまでして戻ってきたのか。


「リリィがどうしてもライル君達が考えた祭りを見てみたいと楽しみにしていてね。魔動列車を利用するのも彼女が提案したんだよ」


「…… 別に、私は今日使われる魔道具に興味があって、祭り自体はそれほど楽しみにしていた訳では…… 」


 とは言っているが、リリィの両手はわたあめに焼そば、イカ焼きに炭酸入りの果実水で塞がっており、頭には昨日シャルルとリッカが着けていたお面が乗っかっている。


 思いっきり楽しんでるじゃないか! 説得力がまるで感じないよ。そんな俺の視線を受けたリリィは、そっと目を逸らした。


「それにしても、レイシア。祭りの日にまでその鎧を着込むのはどうなの? 」


「何を言うか、エレミアよ! 何時如何なる時でも万全の準備をしておくのが騎士としての務めであるぞ! お主もライル殿を守る為に剣を手放せないのと同じだ」


 レイシアの自信が籠った言い分に、成る程とエレミアは納得していた。それでも全身鎧はどうなんだろ? 端から見たら暑苦しいんだけど本人は暑くないのか? え? 見た目に反して通気性が良い? 流石はドワーフ製だな。


 花火の時間までまだ暫くあるから、ここで一旦クレス達とは別れて、今日は北商店街に行く予定だ。



 貴族街がある北地区だけあって、屋台も中々に豪勢な作りになっていて、客もほぼ貴族しかいない。


 う~ん、千本くじに型抜き、射的や食べ物の屋台とそんなに変わらないと思われるけど、問題はその中身だ。なんで屋台でフレンチに出すような料理が売られているんだ? それにくじや射的の景品の殆どが高価な魔道具や宝石類って…… こんなの俺が知る屋台じゃない。もっとこうさ、大衆向けであるべきだと俺は思うんだよ。いや、周りのニーズに応えた結果なのは分かるけど、なんかね? 違和感が半端ないというか、これもう屋台じゃなくてもいいんじゃない? って感じがするだよね。


「あら? ライル君じゃない。私の商店街にようこそ。どう? 北商店街に相応しい屋台でしょ? 」


「え、えぇ。とても豪華で、カラミアさんらしさが出ていますね」


 俺達を見付けた北商店街代表のカラミアが誇らしげに自慢してくるもんだから無難な返事をすると、そうでしょう? と満更でもない感じで、楽しんでいってね―― なんて去って行ったが、俺の小遣いではすぐに無くなってしまうよ。


 でもせっかく来たんだから何か比較的安めの物でも買おうかな? 等と考えながらエレミアと辛うじて屋台と呼べる物を見て回っていると、貴族の他に天使達が多い事に気付く。


 どうやら天使達は、こういう豪勢な物や宝石のような光り物に興味があるみたいだ。思わずカラスかよって考えてしまったのは内緒である。


「ブフ! 良い所で会った。ライル君に紹介したい御仁がおるのだ。少し良いかね? 」


 この特徴的な呼吸音は…… やっぱり領主だったか。紹介したい人と言うのは、隣にいるミドルダンディな男性の事かな?


「レインバーク卿、もしや彼が例の? 」


「グフ、そうである。彼があのライル君だ…… ライル君、この方は―― 」


「―― いや、結構。自分から名乗らせてほしい。初めまして、ライル君。私はマセット・グラトニスという者だ。一応、公爵の位を賜っている」


 は? 公爵でマセットと言えば、中立派で美食家と名高いあの?


 いきなりの事でどう言葉を返していいか分からずにしどろもどろになっていると、領主とマセット公爵は困ったような笑みを浮かべた。


「突然で申し訳ない。しかし、私はどうしても君に会いたくてね。レインバーク卿に無理を言ってこうして祭りを口実にインファネースに来たのだよ」


 公爵が俺にだって? 疑問に思いチラリと領主に目を向けると、軽く首肯くだけで何も言ってはくれない。取り合えず話を聞くしかないようだ。


 中立派の彼は、前の立食パーティで領主と協力体制を組んでいるので敵ではないと思う。だからさ、エレミア…… 剣の柄から手を離そうな。

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