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その後も、他種族に接触してきて返り討ちに遭う貴族派の者達の映像が送られてくる。
ある者は人魚の魔法で水浸しに、またある者は天使達の機嫌を損ねて酷い目にと、次々に撃退されていく貴族達。
その中には俺の仲間達の活躍もあった。
テオドアはレイスの特性を活かし、姿を消して貴族に取り付いた後、公衆の面前で服を脱いで裸踊りを披露したりと貴族にあるまじき行動を起こしていた。あれではもう二度とこの街には来れないだろうな。
女性の貴族には、ゲイリッヒがその外見と女性をたてる所作によって誘惑し、色々と情報を聞き出している。
タブリスが率いる堕天使の三人は空から監視し、貴族達のいちゃもんで困っている住民を見つけると、すぐさま降りて睨みを利かせる。その剣幕にさしもの貴族派連中もたじたじである。
一番酷いのはアンネが率いる妖精達だ。
〈よっしゃあ! いけいけ!! 身ぐるみ全部剥がしちまえ! ついでに髪の毛も引っこ抜いても良いぞ!! 〉
ムウナの頭に乗ったアンネが多数の妖精達を引き連れて、恐怖で顔が歪み必死に逃げ惑う貴族達を追いかけ回している。
〈う、うわぁぁああ!! よ、妖精だぁ!! 逃げろ! 捕まれば文字通り全部持っていかれるぞ!! 〉
〈なんで追い掛けてくるんだ? 別に妖精には何もしちゃあいないだろ!? 〉
追いかけられている貴族達は揃って疑問を発しながら走る。
〈逆にそれが気に入らないのよ! どうして妖精には声を掛けないんだ! あたし達が無能だとでも言いたいのか? この野郎!! 〉
〈ひぃぃ、そんな…… いったいどうしろって言うんだ! やはり妖精は滅茶苦茶だ!! 〉
〈誰だよ!? 相手にしなければ安全だなんて言った奴は! 全然危険じゃねぇか!! だから妖精なんかいる街には来たくなかったんだ! 〉
〈とにかく走れ! 捕まったら伝承通りに尻の毛まで毟り取られるぞ!! 〉
小さい頃から妖精の危険性を教わってきたからか、尚も必死な形相でアンネ達から逃げる貴族達。
〈おまつり、じゃましちゃ、だめ! 〉
それを妖精達と一緒に追う男の子姿のムウナに、奴等は動揺の色を隠せない。
〈何だよ、あのガキは!? あいつが妖精を率いているのか? 〉
〈おい、坊主―― いや坊ちゃん! 俺達はもう街を出るから、妖精達を引っ込めてくれよ! 〉
〈ちくしょう! こんな街、二度と来るかよ!! 〉
貴族達は半泣き状態で街から出ていく。あれだけ恐怖を植え付けたら、インファネースに再び来る気は起きないだろう。
〈もう、くるなー! 〉
〈こらー! まだ何も悪戯出来てないじゃない。戻ってこーい!! 〉
ムウナとアンネで言っている事が逆だよ。不完全燃焼な妖精達は、また別の標的を探し始める。これは確かにさっきのエルフの女性が言っていたように、俺達が手を出す必要はないかもな。
代表達も見回りを強化し、目を光らせているお蔭で貴族派の連中も思うように動けないでいる。
こうして、一日目の祭りが終わる頃には訪れていた貴族派の半数は街から出ていき、残りはすっかりと鳴りを潜めた。
翌日。街はいつも通りに朝を迎え、人々は仕事に向かう。それでもまだ油断は出来ず、衛兵による警戒は続けたまま。残っている貴族派達は今のところ大人しくしている。このまま祭りが終わるまでじっとしていてほしいものだ。
「シャルル君とキッカちゃんは昨日のお祭りちゃんと楽しめたぁ? 」
「はい! クラリスさんと一緒に回ったのですが、凄く楽しかったですよ」
良かった。あの騒ぎの影響は母さん達には無かったみたいだ。
「それは良かったわねぇ。昨日は随分と騒がしかったから、今日はどうなのかしら? 」
「それは向こう次第じゃないかな? まぁあれだけ師匠達にこっぴどくやられては、俺だったらすぐに街から出ていくけどね」
「昨日は他種族の皆さんのお陰で助かりました。特に妖精さん達の追い詰め方は圧巻でしたね。見ていて少し可哀相になってきましたよ」
店に来て寛いでいるデイジー、ガンテ、リタの三人は昨夜の祭りを思い返しては話に花を咲かせていた。
今夜で祭りは二日目に突入する。その前に領主とシャロット、代表達で話し合う必要がある。あれで懲りてくれたら良いんだけど。
「皆さん、昨日はご苦労様でした。今夜もまたよろしくお願い致しますわ。それでは、各自収集した情報の報告を―― 」
日が暮れ始めた頃、中央広場の一角に設置した運営本部に集り、対策会議が行われる。
「他種族や妖精に派手にやられた奴等は、もうインファネースから出ていった事は門兵から確認が取れている。今残ってるのは大体半数くらいだ。そいつらは必要以上の接触を避けて、何かを探っているような感じだったな」
西商店街代表であるティリアの調べでは、もう勧誘や妨害から静観へと動きを変えたようだ。
「此方も大体そんな所ね。屋台の種類や仕組み等を調べて、自分達の領地に取り込もうとしているんじゃないかしら? 」
「何せよ、目立つ行動は控えたようじゃの。それはそれで、やりづらくはなったが、あやつらの居場所も分かっておるし、常に監視もさせておる。今夜は昨夜のような騒ぎは起こらんじゃろうて」
俺も概ねヘバック達と同じ見解だ。それを聞いた領主は深く息を吐く。
「ブフゥ~、そうであるか。住民や他の種族達の迷惑にならぬならそれで良い。今夜から知り合いの王族派貴族が大勢このインファネースを訪れる予定ではあるが、油断は禁物である。より一層警戒を強めて欲しい」
王族派が大勢来るのなら、奴等はそう簡単には行動しづらいだろうな。別に祭り自体に秘匿するようなものはないし、大人しくしていてくれるのなら問題はない。
『え~、もうあの連中を追い回すのはおしまいなの? 皆で楽しみにしてたんだけどなぁ…… 』
魔力収納の中でアンネが残念がっていた。どんだけ悪戯に飢えてんだよ。昨日の妖精達には流石の住民達も引いていたぞ? これ以上はイメージが悪くなるんじゃないのか?