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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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「お~い! エレミア~、ライル~! 」


 南商店街へ向かって中央広場を歩いていると、何処からか俺達を呼ぶ声が聞こえてくる。


 何だろうと横にいるエレミアと顔を見合わせ、声のした方に進んでいった先には、一台の屋台があった。


 その屋台は海鮮をメインにした料理の屋台で、待ち並んでいる客で長蛇の列が出来る程に繁盛している。


 別に出されている料理や食材はそんなに珍しいものではないが、それを調理し売っている者に原因があるようだ。


「貴女も祭りに参加していたのね、ヒュリピア」


「えへへ、なんか人間達で大きな催しをやるって聞いてさ。せっかくだから私達も参加して、色々と研究した料理を人間達にも食べてもらおうと思ってね」


 活発な人魚の少女が人懐っこい笑顔を浮かべる。ヒュリピアの他にも人魚の女性達が売り子をしたり、目の前で調理をする姿は珍しく、こうして人が集まっている訳か。などと納得していたら、ヒュリピアはムッとして反論してきた。


「ちょっと、ライル。もしかして人魚の屋台だから人が集まってると思ってるでしょ? 確かにそれも少しはあるかもだけど、一番の理由は私達の作る料理が美味しいからよ! ほら、食べてみれば分かるから! 」


 渡されたのは串焼きか? 海鮮串焼きは屋台の定番だからそんなに珍しくもないけど…… うっ!? これは、旨い! ただ串に刺して焼いただけではこんな複雑な味は出せない。何か工夫がされているのは分かるけど、どんなものかまでは……


 人魚達は料理を覚えて日が浅いというのに、恐るべき料理への執念感じる。


「へへ~ん、どうよ? 美味しいでしょ? 屋台だからあまり凝った物は作れないけどさ」


「いえ、これでも十分に美味しいわよ。それよりどうしてこんな味が出せるのかしら? 調味料は何を使用してるの? 」


「うん、それはね…… 海草や魚介を煮込むと味が水に溶け込んで美味しくなるでしょ? でもいちいち煮込むのは時間が掛かるから、乾燥した後に細かく砕いて粉にした物を振り掛けたのよ。そしたら思いの外成功しちゃって、色々なもので試したり組み合わせたりして、私達独自の調味料を開発したって訳。この串焼きにはそれが使われているのよ」


 独自に粉末出汁を作って、更にそれを調味料までに派生させたってのか? いや、料理に対する情熱が違うね。


「成る程、この味なら人魚でなくても売れるかもな」


「そうでしょ? やっと理解してくれたライルには、おまけでもう一本あげちゃう! 」


 まだ屋台が忙しいからと戻っていくヒュリピアと別れ、足を進めていく。


 人魚達も大分街に馴染めているようで安心したよ。基本、警戒心が高い種族だけど、ヒュリピアが積極的に街へ繰り出して人間と関わってくれたお陰で、他の人魚達も興味が掻き立てられたのだろう。まぁそのせいで漁師の網に捕まったりと色々危なっかしい所がある娘だけどね。



「あっ、ねぇ? あれがライルの言っていたかき氷なの? 」


「うん? あぁ、そうだよ。一つ買っていく? 」


 かき氷の屋台を見つけたエレミアが一つ買ってはその氷のフワフワな食感に驚く。


「凄い…… 氷を薄く削るだけでここまで出来るのね」


 粗く削ったガリガリとした物もいいけど、前世で流行っていたフワフワなかき氷の方が珍しいと思って提案してみた。因みにシャロットも強く勧めていたな。


 シロップには贅沢に砂糖と果物をふんだんに使っていて、濃厚な甘さが薄い氷と合わさり、丁度よくなるよう計算されている。


 エレミアと二人で一つのかき氷を食べながら、異常がないか見回っていると、珍しい人を見掛けた。


「惜しいね、お客さん。ほれ、ここん所が少し欠けているだろ? これじゃ賞金は出せねぇな」


「ほぅ、これは中々に厳しいですね。いや、そう簡単では店の儲けが無くなりますから、これが正解なのですかね? 」


 子供達の中で、駄目だと言われて返された型抜きの型をマジマジと見詰める商工ギルドのマスターであるクライドが、何やらブツブツと独り言を呟いている姿は周りから見て異常ではあるが、報告する程ではない。


「何をしてるんですか? 」


 出来れば放って置きたかったがそうもいかず、結局話し掛ける事にした。


「見て分かりませんか? 型抜きというものを体験しているのですよ。実に興味深い仕組みです。店主の匙加減一つで全てが決まってしまいますので、如何に暴動を起こさないようにするかが重要になりますね。そして決められた形を型から綺麗にくり抜けば商品ないし賞金が出るのも画期的です。こんな商売の形態があるとは…… 私もまだまだ勉強不足ですね」


 たかが型抜き一つで大袈裟な。おや? 彼処にいるのは妖精のピッケだったかな? うわ、針を使わずに直接かじって型を抜いてるよ。まぁ、クッキー生地だから食べても問題はないんだけど、子供達が真似したら困るな。


「どーよ! アタシのこの超絶テクニックは! これで千リランは頂きよ!! 」


「ボロボロじゃねぇか! こんなの駄目に決まってんだろうが!! 」


「な、なんですとー!? 繋ぎ目も見えない程完璧に誤魔化したのに…… 流石は店主、良い目をしてるね!! 」


 あんな雑な仕上がりでは誰でも気付くだろ。見ろよ、店主のあの呆れたような、それでいて何処か諦めたかのような侘しい表情を。


 あ~あ、隣で見ていた男の子がピッケの真似をして型をかじり出したぞ。店主には可哀相だけど、俺にはどうする事も出来ない。頑張ってくれ。


 ということで、俺とエレミアは巡回の為に再び歩き出し、型抜きの屋台を後にした。

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