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それから各商店街の代表達と領主で打ち合わせを何回も重ね、祭りの形が出来上がってきた。花火に関してはアルクス先生とギルの相談の下、そんなに難しくはない簡単な術式で再現可能だと判明したので問題はない。
ティリアが求めたクーラーボックスも魔道具で作ったし、屋台の種類は俺とシャロットで前世の祭りを参考にして案を出していった。
「何だか日本のお祭りみたくなりそうですわね。花火なんて久しく見ておりませんでしたから楽しみですわ! 」
よほど懐かしいのか、シャロットは始まる前からうきうきとしていた。かくいう俺も浮き足立っている。
そんなに長く準備に時間もかけていられない。観光客が多いこの時に祭りをしなければ意味がないので、一週間の準備期間を設けて急ピッチで進められた。
先ず宣伝としてポスターを各商店街の店に張り、祭りの開催を住民や観光客達に報せる。次に屋台の作成とそこに出す料理のレクチャーを俺とシャロットで行う。
商店街の人達にも協力してもらい、街灯に飾り付けをしたりと、一丸となって祭りの準備に勤しんでいる。
「なんかワクワクしてくるわね」
商店街の風景がお祭り一色に染まっていく様子を見たエレミアが楽しそうに呟く。
「うん、そうだね。祭りって準備している時が一番楽しいと言うけれど、本当だったな」
「へぇ、そうなの? 分かる気がするわ」
前世では見るだけだっから、こうして参加してみると分かる。祭りが如何に街を活性化させるのかを。観光客も住民の皆も楽しみにしている姿があり、用意する側もいい祭りにしようと一生懸命だ。
人間の祭りと聞いて、エルフ、ドワーフ、人魚、天使も興味があるようで、中には手伝ってくれる者もいる。
種族の垣根を越え、一つの行事に取り組む光景は本来あるべき姿なのかも知れないな。何時かインファネースだけでなく、世界中でこの光景が見れるようになれば良いのに。
その為にはカーミラを何時までも野放しには出来ない。残念だが、俺達とカーミラ達の理想は真逆だ。彼女達がいなくなったからって全ての種族が手を取り合う訳ではないが、このままでは世界そのものが危険である。
カーミラの神やこの世界に対する恨みはそうとう根深い。もう戦う道しか残っていないだろう。それでも、そんな争いの先に、今目の前に広がる光景があると信じている。
この祭りを通じて世界に、カーミラ達に伝えたい。種族は違ってもこうして共に生きられると。
「きっとライル様のお気持ちは伝わります。それをどう受け取るかは相手次第ではありますが、決して無駄にはならないでしょう」
「ありがとう、アグネーゼさん。こうして見ていると、インファネースは沢山の奇跡が折り重なって出来ている街なんだなと思うよ」
「その殆どがライル様がもたらしたものです。教会の者として、その奇跡を間近で感じられて幸せです」
いやいや、それは少し大袈裟だよ。全部思い付きの成り行き任せだからね。
『ふぅ、あの五月蠅い羽虫がいないだけでこうも快適になるとはな。もういっその事戻らなくても良いのに』
魔力収納の中でのんびりと寛ぐギルが染々と言葉を吐く。
そう、ギルの言うようにここ数日アンネは街にいた妖精達を引き連れて何処かへ行っている。なんでも、祭りの為の秘密な練習をするとか言ってたっけ。何をするつもりかは分からないが、トラブルだけはごめんだからな。
今の所、あの消えた空に浮かぶ山が再び現れたという報告はない。教会も、帝国も、隣のサンドレア王国もカーミラの動向には注意を払っている。何か異変を感じたらすぐにマナフォンで連絡してもらうよう頼んではあるけど、祭りの最中だけは勘弁してほしい。空気を読んで大人しくしててくれないかな?
「あ、ここにいましたのね。探しましたのよ」
カーミラ達がいつ動くかと心配していると、向こうからシャロットが駆け寄ってくる。
「うん? どうしたんですか? 何か問題でも? 」
「いいえ、順調そのものですわ! 実はご相談したい事がありまして…… 街の飾り付けなのですけど、雪洞型の照明を魔道具で作れませんか? もうこうなったらより日本っぽくしてしまおうかと存じまして」
「それは、中々思いきった事をしますね。魔道具自体は簡単なので用意出来ますよ。なんなら太鼓でも作って、盆踊りでも広めてみます?」
「いえ、そこまでは流石に…… でも、浴衣は着てみたいですわね。リタさんのお店に注文してみようかしら? 」
いや、流石に今からじゃ間に合わないと思うけど? まぁ取り合えず雪洞でも作りますか。いよいよお祭りって感じがしてきたな。
夏の暑さをものとせず嬉々として準備をする人達を、クーラーの効いている店の中から応援する。いや、いくら楽しいからと言っても暑いものは暑い。
「こんなに大規模なお祭りは初めてよぉ。良い男との一夏の思い出なんか作っちゃったりしてぇ♪ 」
「師匠の機嫌も祭りのお陰で良くなったし、助かったよ」
デイジーとガンテが何時ものように店で休んでいるが、祭りの準備をしていたからな、今回は大目にみよう。
「いやぁ、インファネースでのお祭り、実に楽しみですね。今からジパングに戻って引き返せば間に合いそうかな? 」
ちょうどジパングから来ていたスズキさんが、祭りに参加しようと日数を計算していた。商人として、こんな商機は見過ごせないようだ。
これは思ったより人が来そうな予感がするな。




