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「くそ、人が増えすぎて表に出にくいぜ」
「オレっち達、端から見たら完全にチンピラっすから」
「…… 」
「ハハッ! グリムの兄貴でもそこは気にするんっすね」
ガストールとルベルト、グリムの三人組が開店と同時に居座っている。なんか最近良く来るね。
「観光客の視線が痛いっすから、あんまり外に出たくないっすけど、宿の部屋にはクーラーは付いてないっす。かと言ってギルドにいたら受付の人がオレッち達を射殺そうとする程睨んでくるんっす。だからライルの旦那ん所が一番快適なんすよ」
さいですか…… ちっとも嬉しくない。
「人足が落ち着くまで、何処か遠出の依頼でも受けるか? 」
「…… 」
「オレッちもグリムの兄貴に賛成っす。まだお金もあるんすから、涼しくなるまで仕事はあんまりしたくないっす! 」
え? もしかしてその間俺の店に入り浸る訳じゃないよな? あんまりそういう客が増えるのは望ましくないんだけど。そもそもこいつらは客なのかも甚だ疑問である。
「お待たせしました! ブランデーと焼酎です」
「ありがとう、キッカちゃん。これで師匠の機嫌が少しでも良くなると良いんだけどね」
キッカからブランデーと焼酎が入った酒瓶を受け取ったガンテは困ったように笑う。
「ドルムさん、機嫌が悪いんですか? 」
「まぁ、ね。近頃観光でインファネースに来る人が増えたでしょ? うちの鍛冶屋にも客が増えたのは良いんだけどさ、その殆どが貴族なんだよ。なんでもドワーフが打った剣を持つ事が、一種の社会的地位を証明するんだってさ」
成る程ね。それで貴族からこういう剣を作ってくれと、あれこれ注文されてドルムは不機嫌なのか。そのとばっちりが全部弟子であるガンテにくるもんだから、こうやって酒でご機嫌取りをする訳だな。
「ライル君の所は安定していて羨ましいよ」
安定、ね。確かに一日の売上高はそんなに変化はない。ガンテのような鍛冶屋は売れる時は大きいが、一気に暇になる事もあるからな。そう考えると今の状況も悲観しなくても良いのでは?
何時までこの天使フィーバーが続くのか分からないから、何処の商店街も観光客を呼び込むのに必死だ。ここで一気に利益を上げようとしている。
「お祭り…… ですか? 」
「そうじゃ。毎年夏に豊漁祈願と感謝を海に捧げる祭りをしてたんじゃが、東商店街だけの小さなもんじゃった。しかし今年は色々と人も種族も増えたんでな。ここは思いきって全ての商店街で祭りを催すのはどうじゃと思うての」
「観光客も増えたし、ここらでいっちょアタシらで大きなもんをやって盛り上げようじゃないさ! 」
「これを毎年行うと今来ている人達に認知させれば、来年もここまでとはいかないと思うけど人が集まるようになるでしょ? 」
突然各商店街の代表であるヘバック、ティリア、カラミアが店に訪れ、人が集まっているこの時期に何か大きな祭りをしようと企てにきた。
祭りか…… 良いね、夏祭り。花火なんか打ち上げてさ、くそ高い屋台でチープな味の焼きそばやたこ焼きを食べるんだよ、いや懐かしいね。
「良いですね、分かりました。俺も祭りには賛成です。それで、どういったものにするんですか? 」
「それをこれから話し合おうってんじゃないのさ。アタシらは長くこの街にいるからどうにも新しい着想が中々出なくてね。あんたの意見が聞きたいんだ。なにかこう、変わった新しいものはないか? 」
ティリアが言うように俺は余所から来たばかり、何か新しいアイデアが欲しい訳か。そうすると先ずは花火だろう、これは外せない。それと前世で定番な屋台。たこ焼き、焼きそば、お好み焼きはもうあるから良いとして、わたあめにかき氷等の他に、射的やくじ、型抜きといった遊びの屋台もあると良い。
「その花火とはどういったもんなんじゃ? 」
「型抜きって? 」
「かき氷って氷菓子と何が違うの? 」
おぅ…… 初めて聞くものばかりだからか、三人から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。それに一つ一つ答えていくだけでかなりの時間が過ぎていき、気付くと外は暗くなっていた。
「う~ん、他のは大体何とかなるとして、花火は難しいわね。話を聞く限り、それが祭りの要になりそうなのに」
カラミアは腕を組んで悩んでいる。祭りといったら打ち上げ花火は欠かせないが、火薬がないのでは作れない。
「何とか魔術で再現可能か調べてみます」
「そうね、貴方ならそういう魔道具が作れるかも。頼んでもいいかしら? 」
火と光の魔術で何とか出来るかも知れないし、アルクス先生に相談して試してみよう。
「じゃあ、アタシはわたあめにかき氷ってのを作ってみるよ。あとアイスの屋台も出したいんだけど、外でもアイスが保存できる入れ物はあるか? 」
「儂の所は食べ物の屋台を中心に出したいんじゃが、何か珍しいもんはないかの? 」
ティリアには魔道具でクーラーボックスのような物でも作るか。それからヘバックの言う珍しい食べ物ね…… 東商店街は港があるから海産物が豊富だ。イカ飯とかどうだろ? ジパングから米を仕入れているとは言っても、まだまだ普及しているとは言い難い。不特定多数が集まる祭りの中で米を使った料理を出せば広く伝わるかも。
『やれやれ、カーミラという脅威が潜んでいるのに祭りとは…… 呑気なものだな』
『はぁ? 良いじゃんお祭り、楽しそうだしさ。それに何処にいて何時動くか分からない相手をずっと気にするより、騒げる時に騒いどかないと損するわよ。なるようになれよ! お祭り、楽しみだなぁ~。ねぇお神輿はないの? 皆で担いでさ、わっしょい! わっしょい! ってやつ、あれやってみたい! 』
ギルの心配する気持ちは分からんでもないが、これは街を盛り上げるチャンスでもあるんだ。それからアンネ、お神輿はちょっと宗教上の理由で無理なんじゃない?