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商工ギルドと提携して宅配業をする事に決まった旨を領主に伝え、領内を自由に飛ぶ許可を貰う。先ずはこの領内だけで試験的に行ない、様子を見ることにした。
手紙はいつも通りにギルドが集めているから良いとして、新しく小包程度の荷物も配達するとインファネースの人達に通達してもらう。
しかし、大事な荷物を預ける人はそうは現れず、初めは手紙のみの配達だったが、堕天使達の飛行速度による素早い配達と確実性に街の人達は関心を強め、ギルドの信用と堕天使達の真面目な性格に、次第と手紙だけでなく荷物の配達依頼も来るようになっていった。
配達のシステムはほぼ前世と同じで、送り主はギルドで配達伝票を記入し、届け先の人から受け取りのサインをもらう。
村には住所がないので手探りになってしまうが、人がそんなに多くはないので村に住む者に聞けば大体は分かるから迷う事はない。
今日も堕天使達がマジックバッグを肩から下げて飛んで行く光景を目にする。
最初は仕事の割り当てに揉めに揉めた。俺の店の護衛として二人、俺自身につく者を三人、そして残りが宅配業を行う。
その揉める原因となったのが、誰が俺に付くかという事だ。主な役目は護衛とサポートなのだが、大抵は魔力収納での待機となる。どうやら彼等はその魔力収納がいたく気に入ったみたいで、全員が俺と共にいるのを希望し、結局ローテーションを組むことによってその場を収めた。
タブリスだけは、隊長という立場を利用して随時俺と一緒にいると決めて他の者達に不評を買っているが、気にしている様子は微塵も感じない。むしろ当然だと言わんばかりに堂々としている。
堕天使達の住む場所は、俺の店の隣に建てた三階建てのアパートになる。流石にあの人数じゃ店の二階では収まらないからね。
各階に部屋を五つ、計十五部屋に二人ないし三人で一部屋。元々集団で生活していた事もあり、一人部屋を要求する者はいなく、文句もなかった。
生活費に関しては、ギルドが集めた宅配業の収益から支払われ、そのお金で生活している。今ではすっかりと街での暮らしが板についてきたようだ。
店の護衛についている二人は、正面と裏口に待機して日夜警戒を怠らない。街中だからそんなに気を張らなくても良いとは思うが、何時何があるか分からないと気を緩む事はない。
宅配業を始めて一月も経たない内に、商工ギルドの新しい業務と堕天使達の真面目な勤務態度の噂が国内に拡がり、他の領主達が自分達の所にもお願いしたいという声が上がり始める。
それから徐々に活動範囲を拡大していき、今では国内全域にまで至る。王の許可を貰うのには苦労しましたよ、なんてにこやかに述べるクライドの姿に軽く戦慄を覚えたものだ。
今じゃ国内にある全ての商工ギルドに配達してほしいという依頼が集まってくる。流石にこの量じゃ今の人数では配達が追い付かないので、個人ではなくギルド間での配達に変更した。
手紙、荷物の配達先は領内、領外問わずに集められ、一旦各ギルドへと届ける。その後、届け先の近い所はギルドが、遠い所は堕天使達が運ぶ事となり、国内を忙しく飛び回る日々を過ごしている。
勿論、元の目的である情報収集も忘れてはいない。国内だけだが、各地を回って得た情報もある。
消えたコウリアン山脈の山の噂は、少しずつだが確実に広まっているようだ。まぁあんな事が目立たない筈がないんだけどね。それとインファネースが発展したお陰で王族派の力が強まり、貴族派の連中が何やら陰で動き出しているなんて不穏な噂もある。こんな時に同じ国に住む同士で足の引っ張り合いをしているのを知り、タブリスは深い溜め息を吐いた。
「昔からそうだったが、何故人間はこうもお互いに争いを求めるのか…… 同胞に槍を向けたオレが言うのもなんだが、理解に苦しむ」
そんなタブリスに側にいた母さんが答える。
「それは個人によって守りたいものが違うからじゃないかしら? ある者は国を、またある者は家族を、別の者は己の地位や財産を…… そうなると多かれ少なかれ必ず衝突が生まれるわ。そんな時、戦って守るか、それとも逃げるかで状況は変わるけど、大半は争う事を選ぶわね。私だって、この店と家族を守る為なら戦うわよ」
「成る程、数が多いが故に、同じ種族であっても守るものが統一されていないのだな。千年前のような事がない限り、人間はそうそう一つに纏まらず、か」
うん、タブリスの言う通りだね。明確で共通の危機が無ければ国同士が協力し合う事はそうそうないだろう。種族で目的を共有している彼等には理解しにくいだろうな。
とにかく、堕天使達の宅配業でこの国の情報がどんどん入ってくるが、カーミラ達が動いた様子は今のところまだない。何かあれば堕天使達が報せてくれるし、聖教国と帝国、サンドレア王国でも警戒してくれているから大丈夫だろうけど、問題は他の国なんだよな。聖教国が神敵と定めた以外、直接被害は遭っていないので危機感は薄いのかも。
それと、有翼人―― いや、天使か―― から仕入れている絹だけど、リタの服飾店に卸す事にした。商工ギルドに持っていっても良かったんだけど、そうすると国中の貴族に売り出すと予想出来る。もしそうなったら数が若干心許ない。絹の生産で集落の復興を遅れさせる訳にはいかないからね。
ギルドマスターのクライドに後で何か言われそうで怖いけど、その時はちゃんと説明して理解してもらうほかない。きっと彼の事だからもう調べがついてるんだろうな。