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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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 この緊張感、前世で上司に企画書を提出した時と同じ感じだ。まさか異世界でも味わう事になるとはね。


「それでは、説明して頂きましょうか? 」


 目の前の執務机で狐目を更に細くして見詰めてくる上司―― もとい商工ギルドのトップであるクライドが早く話せと催促してくる。


「私が提案するギルドとの提携事業とは…… 宅配業です」


「宅配、ですか? 」


「はい。もともと商工ギルドでは、一般市民から手紙を預かって届けたり、商品を別のギルドへと運んだりしていますよね? しかし、道中は決して安全ではなく、全ての物が無事に目的地へ届く確率は低いのが現状です」


「確かに、手紙なんか同じ内容を複数用意して日にちをずらして送る事もあるからね。荷物も破損したり、確実ではない」


 特に割れ物なんかは要注意だ。道もそんなに舗装されてなく、しかも馬車でなんか運んでいるので揺れも酷い。そんな中でまともな状態で運べる筈がない。


「最近ではマジックバッグのお陰で繊細な物も壊さず運べるようにはなっておりますが、今度は時間と盗賊、魔物の問題があります。もし何処かで病気が流行して、その特効薬がこの街にしかなかったら? 幾ら急いだとしても馬車ではたかが知れています。緊急性が高ければ高いほど時間は限られてしまいます」


「それで有翼人達を使っての宅配業を? 」


「そうです。今彼等は故あって有翼人とは名乗れないので、堕天使とお呼び下さい。それに伴い、有翼人も天使と種族名を改名致しました。この堕天使達なら空から安全且つ確実に荷物をお届け出来ます。彼等の飛行能力は想像以上で、速やかな移動が可能です。どうでしょうか? これ程この業務に適した人材はいないと思いますが? 」


「成る程…… 空なら道の良し悪しも関係ないし、地上の盗賊や魔物に襲われる心配もない。例え空の魔物に出くわしても有翼人―― いや、堕天使だったかな? なら問題はない訳だね? 言いたい事は分かったけど、それなら独自に宅配を主にした店を開いては? ギルドと提携する必要はあるのですか? 」


 そう来ると思っていたよ。それは俺も考えたけど、色々と問題が出てくる。商工ギルドとの協同事業にする事でその大半が解決するから絶対に必要なのだ。クライドなら今までの説明で大方の予想は出来ている筈、知ってて聞いてきたな。俺が何処まで把握し、考えているか見極めるつもりか? それで少しでもギルドの利益を上げようと画策しているのだろう。商人にとって商談の場とは戦場と同じ、だから緊張するんだよ。


「私達で店を持ったとしても、軌道に乗るまでかなりの時間が掛かります。無名の者達に誰が大切な手紙や荷物を預けますか? それに届け先の街に警戒される事なく入るのも必要です。そこで時間を掛けてしまえば、いくら早く移動出来たとしても意味がありません。信用と実績はそう簡単にはつきませんから。そこで商工ギルドと提携する事によって補う訳です」


「ギルドのこれまで培ってきた国への信用と実績を利用すると? その見返りは勿論あるのですよね? 」


「当然です。そうでなければこんな話を持ち掛けてはいませんよ。先ず此方が求めるのは、全国に点在するギルドに連絡して、そこの領主様に堕天使達が自由に街の出入りが出来る許可を頂きたい。これは検問等で時間を取られないようにする為です。それと、一般の市民から有料で届けたい荷物や手紙を、ギルド主体で集めて貰いたいのです。無名の私達よりも商工ギルド方が皆さん安心して預けられるでしょうから。そして集まった荷物や手紙をこの堕天使達が配達先に届けます。そうすればどんなに遠く離れていても短時間で荷物を運べます。商工ギルドには集めて頂いた物を仕分けして貰いたいのですが、緊急時には堕天使達が全面的に協力する事を約束します。それ以外にもギルド間での商品、金銭の運送もしますよ。ギルドマスターも話では聞いている筈、天使は誇り高い種族だと。彼等は堕天使と名乗ってはいますが、天使としての誇りまでは捨ててはいません。充分に信用に値すると思います」


「オレ達は追放された身ではあるが、決して自らが望んでの事ではない。そちらの見合った以上の働きをすると約束しよう」


 それまで黙って横にいたタブリスが、クライドを真っ直ぐに見据えて堂々と宣言する。その様子をクライドはどこかで満足そうに見返していた。


「詳しくはお聞きしませんよ。幾人もの人達を見てきた私だから言えます。貴方は誠実で真面目なお人だ。成る程、ライル君が自信を持って紹介する訳ですね」


 たったあれだけでクライドはタブリスの性格を見抜いた。やはりこの人が一番怖い。


「ライル君達の考えは大方理解しました。ギルドとしても損はない―― が、それだけで利益があまり見込めない。此方からも幾つか宜しいですか? 」


 ほら来た。利益はあるだろうが、それだけでは足りないと。


「そうですね、一般市民からの手紙や荷物を集めるのは構いませんが、仕分けはそちらでして頂けませんか? 此方もそこに人員を割ける余裕はありませんので。それと提携という形をとる訳ですから、ギルド内に彼等の部署を作りましょう。そこで荷物の仕分けや配達を行って貰います。これは緊急時に備えての意味もありますのであしからず。利益の配分はこの後詰めるとして…… 堕天使さん達はギルド職員ではないですから、緊急時にはどれだけの指示に応えて貰えますか? 」


 どれだけの、ね。それは彼等が何処までギルドの為に動いてくれるのかという質問だ。あくまで宅配業に関してだけの協力であるから、それ以外の要請には応える必要はないのだけど。


「人間同士の争いや、国に直接影響を及ぼすものには手は貸せん。オレ達は長の下についているのを忘れないで貰えたらならそれで良い」


「ライル君の意思と都合が最優先という訳ですね? いったいどういう経緯でこれだけの忠誠心を得たのか気になる所ですが、深くは詮索しないと言ったばかりですからね。結構、先ずはこの領内から始めて様子を見てみましょう。宅配の詳しい仕組みは考えてあるのですよね? 」


 ふぅ…… 疲れた。なんか此処にくる度に気疲れしている気がするな。とにかく、これで堕天使達の生活の目処が立った。後は少しずつ拡大していって、ゆくゆくは大陸中を飛び回っての情報収集が出来る所までいきたい。

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