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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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 何だ!? 突然地面が揺れたと思ったら、山脈に亀裂が入り一部の山が空に浮かんでいく。どうなってんだ?


「見ろ、ライル。ガーゴイル共があの山に向かって飛んでいくぞ。あれがカーミラ達の真の狙いか」


 あ、本当だ。まだ生き残っている全てのガーゴイルが、あの空に上がっていく山に集まり出している。あんな大掛かりな仕掛けは短期間では無理だよな。いったいどれだけの時間を掛けてきたのか。


「しかし、どうやってあんな事を? 」


「忘れたか? 彼奴はあの島から大魔力結晶を強奪したのだぞ? あれを使えばこのくらいの事は出来よう」


 あの島っていうと、自動人形のアイリスがいた島か!


「ねぇ? そんじゃ、今あの山にはカーミラがいる訳だよね? 乗り込んじゃう? 」


「いや、アンネ。それは得策ではないような気がする。どんな魔術が仕掛けられているか分からないからね。なに、あんなに目立つ所にいると分かってるんだから、じっくり調べてからでも遅くはないと思うよ」


 そう、空に浮かぶ山が常に見えているから見失う筈がない。これでカーミラの潜伏場所を探さなくても済む。


「残念だが、そう上手くはいかないみたいだぞ? 」


 え? ギルの言葉に急いでアンネからあの山に目を戻すと、風景に溶け込むように山の姿が消えていく。転移? いや、それとは違う。光学迷彩みたいな感じか? くそっ! 魔力も視えなくなっている。何か魔術を発動させているのなら、魔力が視える筈なのに。完全に見失ってしまった。


 あんなドデカイものが姿を隠して空に浮かんでいると思うだけでゾッとする。カーミラの居所が分かっても、これでは手が出せないじゃないか。


「落ち着け、ライル。先ずは捕らえた有翼人達の解放だ。その後に皆で今後の方針を話し合おうではないか」


「そだよ。一人で考えるより、相談しようよ。その為に皆がいるんだからさ。このアンネちゃんが起死回生の良案をバシッと捻り出しちゃうよ! 」


 そうか…… そうだよな。俺は一人じゃない、皆がいる。


 良し! 今更焦ってもしょうがない。先ずはギルの言う通り、魔術で支配されている有翼人達の解放だ。



 各集落の警護には、駆け付けてくれたエルフ、ドワーフ、人魚に任せて、族長の家がある集落へ戻り黒翼の有翼人達を全員魔術から解放する。


 意識を取り戻し、魔力収納から出てきた黒翼の有翼人達は、これ迄の行いを嘆き後悔した。それを先に解放された五人が慰め、葬式みたいな雰囲気が漂う。


「人間―― いや、ライルよ。我々を救ってくれて感謝する。お前のお陰で、自分の意思で罪を償う事が出来るのだから」


 総勢三十五人を代表し、礼を述べる一人の有翼人。


「いえ、皆さんを無事に解放出来て良かったです。その、償いと言うのはどういったものなんですか? 」


「…… 助けて貰って何だが、恐らくは全員命を失う事になるだろうな。そして神の御許で裁きが下される」


 そんな、せっかく自由になれたのに処刑されるのか?


「そんな顔をしないでくれ。全員とうに覚悟は出来ている。潔く罰を受けよう。我々の心と誇りを救ってくれて、本当にありがとう」


 全員が清々しい表情を浮かべているのを目の当たりにして、あぁ…… これが有翼人なんだなと、妙に納得してしまう。己の命より尊厳が何よりも大事な種族を、俺は素直に尊敬の念を抱いた。


「ライル、どうやらミカイル達の援護は必要無くなったみたいよ? 」


 エレミアがそう言って目を向ける方角から、複数の魔力が此方に近付いて来るのが視える。向こうにいたガーゴイルもあの空に浮かぶ山に行ったのだろう。



 セラヒムの右肩が負傷しているのを除けば、そんなに大した被害はないようだ。すぐにセラヒムの傷を治し、これからの事を族長宅で話し合う。



「成る程、あの消えた山は、カーミラの仕業なのだな? 」


「確認した訳ではありませんが、十中八九そうではないかと…… それで今後の相談をしたいのですが、生活が落ち着いてからで良いので、何か空で異常があった場合これで連絡して貰えないでしょうか? 」


 俺は魔力収納からマナフォンを取り出し、セラヒムに渡して使い方を説明する。


「こんな物まで作れるとは、魔術というのは恐ろしいものだ。そしてそれを生み出す人間は更に恐ろしい…… 俺は怖かった。ギルディエンテ様にしたように、お前達人間が何時我らに牙を向けてくるのか。だからこうして山奥に潜み、人間との関りを絶つ事にしたのだが、そんな俺を見限り、コルネウスのような者が出てきてしまった。全ては自分の不徳の致すところ」


「何を言うのです! セラヒム様は一族を想っての決断。自分本意のコルネウスとは違います! そんな奴の甘言に惑わされ、同胞に危害を加えたオレ達が悪いのです。どんな罰も進んで受けましょう。この命すらも惜しくはありません」


 タブリスと他三十五人の黒翼の有翼人達が覚悟を決めた目でセラヒムを見詰める。


「そうだった…… お前らの沙汰を決めなければならなかったな。タブリス、他三十五名の者達には罰を下す。二度とこの地に踏み入れぬ事、それと有翼人と名乗る事も許さん。再び我等に、世界に仇為す事あれば今度こそ、その命でもって償ってもらう」


「セラヒム様…… 寛大なお心遣い、感謝致します」


 ほっ、良かった。取り敢えずは処刑されないようだ。


「あの…… ライル様? ちょっと様子が変ですよ? 」


 戸惑うアグネーゼの言葉に俺は辺りを見る。するとどうした事か、黒翼の有翼人達が一斉に俺の方を向いているではないか。


 え? なに? 俺、なんかした?


 訳が分からず戸惑う俺に、タブリスが近づき片膝をつく。


「オレ達はもう有翼人にあらず。だが、カーミラに受けた屈辱を晴らさぬ限り、真に心は解放されず。どうかお願い致します。オレ達を貴方方の仲間に加えて頂きたい」


 と、言うことは…… この人数が一気に仲間に加わるのか? 心強いけど、面倒見きれるかな?

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