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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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白と黒への終止符、次なる脅威

 

 同胞達が襲い掛かる魔物共を抑え、此方へ来させないようにしてくれている。今俺達の思いは一つ、コルネウスを倒す。


 魔物を抑えている同胞の一人と目が合うと、力強い瞳で小さく頷き、また魔物に向かって行く。


 全ては俺とタブリス、セラヒム様の三人に託された。ここで負けるのは許されない。


「ハハハ! 魔法を使ってもこの程度か? 」


 コルネウスの上機嫌な笑い声が聞こえてくる。セラヒム様の魔法を防ぎかなり得意気な様子だ。


 やはりあの魔術による防壁は厄介だな。それに傷付けてもすぐに治ってしまうあの体も面倒だ。


「セラヒム様! ここはオレにお任せを! 」


 有翼人きっての槍の名手であるタブリスが前に出る。今のコルネウスを正面で抑えられるのはこの場でタブリスしかいない。


 それに気付いたのか、セラヒム様は大人しく引き下がった。


「やれやれ、奴の言うようにもう歳なのだろうか? まだまだ十分に戦えると思っていたのだがな」


 コルネウスにいい様にあしらわれて、セラヒム様は少し気落ちしていた。


「そんな事はありません、向こうが異常なだけです。ここはタブリスに前に出てもらい、俺達は魔法で掩護しましょう」


 俺とセラヒム様は幾度となく魔法を撃ち込んだ。風の刃、雷球、炎の渦、光の槍、その何れもがコルネウスの魔術で防がれてしまう。


 一方、コルネウスからも先程使って見せたファイヤーランスなる魔術や、他の属性の魔術を放ってくる。


 一つ一つの威力はそんなに大したものではないが、タブリスの動きを阻害し、俺達の魔法に対抗するには十分だった。


「タブリス、今ならまだ間に合う。私の所に戻ってこい。奴等に与したって、裏切り者の末路は決まっている。セラヒムのことだ、お前らを生かしておくと思うか? それよりも私の下で奴等を支配しようじゃないか。お前に損はない筈だが、どうだ? 」


 言葉巧みにタブリスを誘惑してくる。確かにこの戦いが終わったらタブリスを含めた黒翼の有翼人達は厳しい罰を受けるだろう。それを考えれば、奴の誘いはとても魅力的だ。有翼人以外なら、な。


「あまりオレを…… オレ達を舐めないで貰おうか。例え己の意思でなくとも、同胞に槍を向けたのだ。罪には罰を―― それが有翼人の掟、オレ達は喜んで罰を受けよう。そうしてやっと有翼人としての誇りを持ち、神の御許へ立つ事が出来る。その為なら、称賛もこの命さえもいらぬ! 」


 タブリスの槍がコルネウスの頬を掠り、一本の赤い線ができる。


「まだそんな古い掟に縛られるか。だから有翼人は他の種族から置いていかれるのだ。変わりゆく世界で生き残るには、此方も変わり続けなければならないのが何故理解しない! 」


「それは理解しよう。しかし、貴様の様な変化は願い下げだ! 」


 激昂した二人の槍が激しく打ち合う。お互いに服が破れ、傷が増えていくがいっこうに気にする様子は見えない。


「しかし、あの体はどうにかならんのか? ああもすぐに傷が回復されては倒しようがないではないか。何か弱点はないのか? 」


 コルネウスとタブリスの戦いを見て、横にいるセラヒム様が唸る。


 弱点、か…… そういえば、魔力結晶に魂を保護していると言っていたな。タブリスもコルネウスの胸に槍を突き刺した時、魔力結晶を破壊しようとしていた。もしかして、それが奴の弱点なのではないか?


 俺はセラヒム様にその事を伝える。


「成る程、だがどうやって破壊する? 奴にはあの肉体と魔術の防壁がある」


「それは俺に任せてくれませんか? 一撃で仕留めて見せましょう。しかし準備に多少時間が掛かるうえに避けられたら次はないでしょう。なので、セラヒム様にはタブリスと共にコルネウスの注意を引き付けてもらえませんか? 」


「ふむ、何か策があるのだな? 分かった、お前に任せよう。思えばあの人間とギルディエンテ様を連れてきたのはお前だったな。あの時は俺も意地になって反対したが、今になって漸くお前が正しかったのだと理解できた。我等の未来、お前に託す。もし俺が此処で死ぬ事があれば、次の族長はお前だ」


 俺の返事は聞かぬまま、セラヒム様はコルネウスに向かって飛んで行った。


 はぁ、本当に話を聞かないお人だ。俺は誰も死なせるつもりはありませんよ? なので、これからも貴方には族長を続けてもらいます。


 セラヒム様がタブリスと共闘してコルネウスの気を俺から逸らしている内に、光魔法を発動させる。


 目の前に光の玉を発現させ、それを両手で挟むように覆う。


 ここから更に魔力操作で、この光の玉を圧縮して徐々に小さくしていく。


 まだだ…… もっと、もっと小さく。 俺の力の全てをこの小さな光に込める。


「二人になったとて、私の槍と魔術の敵ではない! タブリス、お前はもう用済みだ。セラヒム、これから築く新たな有翼人に、貴様はいらない。二人とも、ここで果てるがいい! 」


 コルネウスが最初に見せたファイヤーランスがセラヒム様の左肩に突き刺さり、槍がタブリスの胸を穿つ。


「くっ!? なんのこれしき! 右腕だけでも動けばそれで良い。そう易々と殺されてなるものか! 」


「気に入らんがオレの身はお前と同じ。こんな槍の一突きごとき、掠り傷にもならん! 」


 まだ動く右腕で槍を振るうセラヒム様、胸に槍が刺さろうとも攻撃の手を緩めないタブリス。


 もう少し、あと少しだけ持ちこたえてくれ。


「新たな有翼人と言ったな? それはオレ達と同じ様に魔術で心を縛るつもりか! そんな独裁的では未来なんてありはしないぞ! 」


「黙って私に従えばいい。そうすれば何もかもが上手くいくというのに、何故それが分からんのだ! 完璧な支配と統治こそが種族の発展と幸福に繋がる。お前も感じていたのではないか? 支配される安心感と多幸福を! 」


 タブリスとコルネウスの槍が交差して互いの体に突き刺さり、穂先が背中から生える。


「確かに、そんなものを感じていたかも知れん。だが、それ以上に屈辱的だった! 自分ではない自分が喜び勇む姿を見せられ、悲しみと恥辱にまみれる日々。これの何処が幸せだと言うのだ!! 」


 背中に穂先を生やしながら怒りを露にするタブリスの叫びは、悲痛に染まっていた。


 使命を奪われて誇りを汚された。さぞ悔しかっただろう、情けなかっただろう、自分を許せなかっただろう…… 同じ有翼人として、お前の気持ちは痛いほどよく分かる。


 その無念、この一撃で晴らしてやる。光の玉は既に鶏の卵程の大きさまでに縮んでいる、準備はできた。俺の魔法と精密な魔力操作をその身でとくと味わうがいい!


「っ!? ミカイル? 何をするつもりだ! 」


 やはりこれだけの魔力を込めた魔法を圧縮させれば気付かれるか。動き回れでもしたら厄介だ。体には当てられるがそれでは意味がない。確実且つ正確に、心臓部分にあるという魔力結晶を狙わなければ、コルネウスを倒すのは不可能。


「此方も魔法が使えるのを忘れてはいないか? 片腕が満足に動かせなくとも、魔法を打つには支障はない! 」


 セラヒム様がコルネウスの眼前に光魔法を放つ。それはただの閃光に過ぎないが、眩い光がコルネウスの視界を一瞬だが白へと染める。


 その一瞬でタブリスがコルネウスの後ろにまわり、羽交い締めにする。


「ミカイル! オレごと撃ち抜け!! 早くしろ! そんなに持たないぞ!! 」


 …… 分かった。お前の覚悟、しかと受け取った。そして、これで終わりだ! コルネウス!!!


 限界まで圧縮された光の玉に細く小さな逃げ道を作る。そこから放たれる細い光の筋がコルネウスの心臓部に目掛けて一直線に伸びていく。


 圧倒的な速さで迫る極小の光の筋が、コルネウスの魔術防壁を打ち破り、後で抑えているタブリスごと貫いた。


 コルネウスの左胸に小さな穴が空く。俺の魔力操作は正確だ、魔力結晶を壊したと確信していた。その証拠に、コルネウスに空いた穴は一向に治る様子がなく、タブリスと共に地上へと落ちて行く。


 このまま見失ってはいけないと思い、俺も後を追って地上に降りると、地面にコルネウスとタブリスが倒れていた。


「ミ、ミカイル…… 流石だな、正確な射撃だった…… ぞ。ほ、本当は、有翼人の未来なんて、どうでも良かった。お前がいてくれるなら、それだけでいい。私とお前で、ここではない別の世界で、使命から解放され、自由に、生きたかった…… 」


「コルネウス…… 俺は、お前の気持ちには応えられない。これからも有翼人として、この命果てるまで神の使命に従事し続ける。愛する者と共に」


「そうか…… また、振られた、か。ミカイル、先に…… 逝く」


 コルネウスの目から光が失われ、呼吸も止まった。後は神に任すのみ。さらばだ、友よ…… 次があるのなら、お前が望んだ別の世界へ生まれる事を願う。


「逝ったのか? 」


「あぁ、今しがたな」


 倒れていたタブリスがいつの間にか起き上がり、完全に沈黙したコルネウスを見下ろしている。


「オレも死ぬかと思ったのだがな。運が良かったのか悪かったのか…… 生き残ってしまった」


「フッ、俺の狙いは正確だ。ここでお前を殺す訳ないだろ? この後に罰を受けなければならないのだからな」


「おぅ、怖いねぇ。死んだ方が良かったか? 」


 タブリスとそんな軽口を叩いていると、突然地面が大きく揺れだした!


 なんだ!? 地震か? それにしても不自然な揺れだ。何が起こったと言うのだ。


「おい、ミカイル…… あれが見えるか? なんてことだ、オレは夢でも見ているのだろうか? 」


「いや…… 夢であってほしいが、残念ながら現実のようだ。俺にも見える」


 俺とタブリスが唖然として見上げるその先には、空に浮かんでいく山があった。

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