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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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白の決意、黒の野望 【前編】

 

 人間は愚かで信用ならない。これが千年前から俺達有翼人が認識している事だ。


 だが、その前まで友好的な関係であったのも事実。共に過ごし、裏切られ、拒絶した。


 もう二度と人間とは関わらずに、神に与えられた使命だけに従事し、世界の安定を図る。それだけが俺達の存在理由であり誇りなのだ。


 だと言うのに、コルネウスはそれを否定した。使命を果たす為だけに生きても、有翼人の未来には繋がらない。いずれ人間が築いた文明に淘汰されてしまうだろうと警告していた。


 しかし族長はコルネウスの言葉に耳を貸さず、空を制する我等が地に這う者共に後れを取るなど有り得ないと。


 俺もコルネウスの危惧する所は理解出来る。この世界に生きる限り、完全に人間と縁を切る事など出来はしない。否が応でも人間の実状が耳に入ってきてしまう。もう聞こえない振りなんてしていられないとこまで来ているのだ。


 それでも俺とコルネウスは同じ思いでは無かった。人間は危険で世界に害しかない存在として、完全に世界から消してしまおうとコルネウスは考えているが、俺は違う。人間の技術を積極的に取り入れ、有翼人の暮らしを豊かにすれば余裕が持てる。そうすればより一層使命を果たす時間に充てられる。


 そんな俺の考えを知ったコルネウスはこの集落から姿を消し、再び戻ってきた時には、翼の色は黒く染まっていた。


 コルネウスと同じ黒い翼になる者、狩りに出て行方を眩ます者、徐々に集落の者達が減っていく状況に、俺は人間に感じていたものとは違う危機感を抱き、どうにかこの現状を打破出来ないかと飛び回り調べた結果、インファネースという街の噂を聞いた。


 その街はなんと、エルフ、ドワーフ、人魚、妖精とも交流を持ち、中には住んでいる者もいるという。


 信じられなかった。でも同時に納得もした。やはり俺の考えは正しかったのだ。人間のその圧倒的な文明を発展させる力は驚異となるが、上手く付き合えば俺達に大きな利益になり得る。俺達以外の種族はいち早くそれに気付き、再び人間に接触したのだろう。


 それでも分からない。何故インファネースなのだ? あの街にいったい何があるというのだろうか?


 まぁ、今それはいい。肝心なのは他の三種族に加え妖精までいる。助けを求めるのにこれ程都合の良い街はない。


 族長に許可も求めても下りないのは分かりきっている。だから俺一人でインファネースに行くことに決めた。


 久し振りに降り立つ人間の街は珍しく、何処か懐かしい。先ずは街にいる妖精に女王との謁見を求めたが、お菓子がどうとか、甘いワインがどうとかで望む答えは返ってこない。


 そうこうしている内に人間の衛兵に見付かり、街の領主の館へと連れていかれる。


 インファネースの領主はデップリとした体型で顔も膨れ、控え目に言っても醜いものだった。こんなのが街の代表になれるのだから人間とはいい加減なものだと思ったが、話してみれば成る程、見た目に反して中々有能のようだ。


 領主の話しによるとたった一人の人間が、このインファネースにエルフ、ドワーフ、人魚、妖精を引き入れたと言う。最早ここまで関わってしまったのだ、今更人間とは…… などと言うつもりはない。むしろその人間に興味が湧いたので会ってみる事にした。


 その人間に協力してもらえば、他の種族の長達と繋ぎが出来るかも知れないからな。


 そうしてやって来たのは、二人の人間の男女とエルフの女だった。だが俺は不覚にも言葉を失う。何故ならその人間には両腕が存在していなく、顔の左半分は火傷でもしたと思われる痕が痛々しく残り、左目は白く濁っていた。


 ―― なんだ? これは人間なのか? 今まで見てきた中で最も醜い姿だ――


 思わずそんな言葉が口から漏れた。それを聞いた少年は困ったように笑い、横にいるエルフと人間の女は不機嫌に顔を歪めた。


 最初は何の冗談かと思ったが、妖精女王であるアンネリッテ、それと封印されている筈のギルディエンテ様も現れ、話を聞いていく内に納得した。


 この少年―― ライルこそが、この世界で三番目の支配スキルを授かりし、神に選ばれた者。今俺の前には “知識支配” を持つギルディエンテ様、 “精霊支配” を持つアンネリッテ、 “魔力支配” を持つライルの三人が揃っている。


 これなら、この三人なら俺達の危機を救えるかも知れない。いや、それだけではなく有翼人の未来をも…… そう期待せずにはいられなかった。この出会いは神が我等に与えた希望、最後の機会。これを逃してならないと、何かが俺の中に訴えてくる。


 その心に従い、ライル達を集落に案内する事にしたのは正解だった。


 族長も他の種族の長達と話した結果、人間の文明を取り入れる事に納得してくれた。後は集落に危機をもたらすコルネウス達を裁けば終わる。これから有翼人の明るい未来が待っているのに…… 集落が襲われている時に、俺達は魔物に囲まれ身動きが取れずにいる。


「―― イル…… ミカイル! こんな時に何を呆けている? 」


「あぁ、すまない、タブリス。少し物思いに耽っていただけだ」


 敵に囲まれているこの状況でか? と呆れるタブリスと一緒に見詰める先には、既に有翼人としての誇りも矜恃も捨ててしまったコルネウスが、全てを見下した笑みを浮かべ佇んでいる。その姿はもう俺の知る友では無かった。


 コルネウスよ、そこまで俺達を、神を否定するか…… 良いだろう。もうお前を救うのは諦める。世界の為、有翼人の未来の為に、ここでお前を打ち倒さん!

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