表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
428/812

30

 

「戯れ言を、死ぬのは貴様の方だ! ダールグリフ!! 」


「おや? その言葉は何度もお聞きしましたが、まだ私は健在ですよ? ギルディエンテ」


「そのへらず口を二度と叩けなくしてやろう…… ライル! 我の剣をこの手に! 」


 ギルに言われるまま、魔力収納からギルの爪と鱗で作った片刃の禍々しい大剣を渡すと、すぐに邪魔なガーゴイルを斬り捨てながら距離を詰め、ダールグリフに大剣を降り下ろす。


「なんだと!? 」


 だが、ギルの大剣はダールグリフには届かず、既の所で見えない壁に防がれてしまう。


「ほう! それは何とも凶悪な剣ですね。切れ味も相当な物とお見受け致します。しかし、私も日々精進している事をお忘れなく」


 攻撃を防いで得意気な顔をしているダールグリフに大きな舌打ちをしたギルはその場から飛び退く。


 まずいな、今からミカイル達と合流したとしても、ダールグリフとこの数のガーゴイル相手では分が悪い。それにまだ心を縛り付けられている黒翼の有翼人達も後に控えている。


 エリアスも救い出したし、ここはセラヒム達が到着するまで時間を稼ぐのが賢明か?


 俺はまだ目覚めないエリアスを魔力収納に入れると、それを見ていたダールグリフが大きな溜め息と共に大袈裟に首を振った。


「やれやれ、コルネウスにはほとほと困ったものです。せっかく用意した檻を何処の誰かも分からない有翼人に使うとは…… しかも壊される始末。今回ばかりは注意だけでは済まされませんね。やはりあれにも魔術を仕掛けておくべきでしたよ」


 何やら嘆いているようだけど、これは時間を稼ぐチャンスだ。


「貴方は有翼人達をどうする気なのですか? それにあの魔術はいったい? 」


 俺の問いにダールグリフは気持ち悪いぐらい爽やかな笑みを向ける。


「ライル君もあの術式を見たから分かりますよね? あれほど美しく繊細な式はありません! 流石は私が敬愛する我が君です!! 隷属魔術とは違って肉体ではなく魂を縛り従わせる魔術、さしずめ“魂従魔術” と言ったところでしょうか。まぁ魂を従わせるには魔力結晶に捕らえる必要がありますので、費用対効果は隷属魔術と比べると悪いですが、効果はそこの有翼人を見て分かるように絶大です! 今回の実験は大成功と言えるでしょうね」


 実験だって? それじゃ、有翼人達はその魔術の実験でお互い争わなければならなくなったのか?


「実験だと…… ? そんな事の為に我等の誇りを汚し、同胞に槍を向けさせたと言うのか!! 」


 魂従魔術から解放された有翼人の五人は、ダールグリフの言葉に怒り、そして涙した。


 そんな理由でいいように扱うダールグリフが許せなくて、まんまと思惑通りになってしまった自分が情けなくて不甲斐ない。そんな思いが込み上がり、流れてくる涙を抑えきれなくなったのだろう。


「フフ、何を悔しがっているのです? 魔術の発展に携わった事を光栄に思うのだね! お前達のお陰で、魔術は更なる進歩を遂げるのだから!! 」


 涙を流しながらも睨む有翼人達を前に、ダールグリフは上機嫌で笑い出す。


 駄目だこいつ、気が狂ってるとしか思えない。正にカーミラの狂信者だな。


「待って下さい、先程のギルの大剣が防がれたのを見ましたよね? あいつには生半可な攻撃では通りませんよ」


 今にも飛び出しそうな五人の有翼人達を何とか宥めつつ、時間を稼ぐ為にもう少し話を続ける。


「あの魔術が掛けられていた檻も貴方が用意したと言いましたね? 」


「えぇ、言いましたよ。あれには本来、族長のセラヒムを捕らえるつもりだったのですが、コルネウスが勝手な事をしてしまい、計画に大きな支障をきたしてしまいました」


 有翼人の族長であるセラヒムを?


「もう時間は十分稼げた筈だ。そろそろ奴を仕留めても良いだろう? 」


 早くダールグリフを斬りたくてうずうずしているギルをこれ以上抑えてはられない。


「分かった。ギルの好きなように暴れてくれ」


 この言葉を言いきる前に、ギルはダールグリフへと突っ込んで行く。どんだけ我慢してたんだよ。


「もうお話は終わりですか? それでは此方もいかせてもらいますよ…… 行け!! ガーゴイル達よ! 」


 ダールグリフの号令で今までの大人しく待機していたガーゴイルが一斉に向かってくる。


「我が主には指一本触れさせはしません! 」

「おらおら! 有象無象共が! かかってきんしゃい!! 」

「へぇ、これは取り憑き甲斐がありそうだぜ」

「ライルは私の後ろに」

「ムウナも、がんばる、よ! 」


 魔力収納からアンネ、ムウナ、ゲイリッヒが出て、外にいるエレミアとテオドアもガーゴイル達を迎え撃つ。


「我等も戦うぞ! 例え魔法が使えなくとも、一匹でも多く敵を屠るのだ!! 」


 自由になった黒翼の有翼人五人も、空を飛んでガーゴイルに突撃していった。


 俺も負けじと魔動式丸ノコを二つ取り出し、回転する刃で迫り来るガーゴイルを切り裂く。


 数は多いがここは森の中、ガーゴイル達は得意の飛行能力を発揮出来ずにいる。


 それに対して木から木へと軽やかに飛び移り、蛇腹剣と魔法で応戦するエレミア。森の中で長年暮らしてきたエルフにとって、ここは最高の戦場となる。


 ムウナも今回はあの巨大な肉塊の姿ではなく、体中に口と目と触手を生やした異形の男の子の姿をして戦っている。体から生えている触手の先を龍の顎に変化させ、ガーゴイルを噛み砕いていく様子は、相も変わらず周囲の心を削っていく。


 テオドアとゲイリッヒとアンネも頑張ってくれているので、此方は特に問題はない。この調子なら乗り切れるだろう。


 心配なのはギルが相手にしているダールグリフだ。奴の事だからきっと何か企んでいるに違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ