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『二人じゃ駄目ならもっと増やせば良いじゃん? ほれ、ギルにもミカイルの所に行かせたら? 』
アンネが言うようにそれも一つの手ではあるが、ギルがあまり乗り気ではない。
「我が助太刀に行ったとして、ミカイルが受け入れるとは思えんが? 」
そうなんだよな…… 有翼人の問題は有翼人のもの。部外者には頼らず、それがギルであろうとも例外ではない。そんな頑固な者達が素直に受け取るだろうか?
『ほんと、有翼人ってめんどいね』
『では、私達はどうすれば宜しいのでしょうか? 』
呆れた様子で最近気に入ってる炭酸入り果実酒を飲むアンネの横で、アグネーゼが心配で顔を曇らせていた。
『とにかく、ここにいる有翼人達の魔力結晶に施されている術式を消して自由にしよう。一人でも多く味方を増やすしかない。ミカイル達が危なくなったら、無理にでも助けに行こうと思うので、アグネーゼさんはハニービィからの映像を見ていて貰えませんか? 』
『はい、お任せ下さい』
アグネーゼの返事を聞き、俺はまた魔力を有翼人の魔力結晶に繋いで作業を再開する。
慎重に魔力を操作して術式を削ること数十分。何とか捕らえた五人の魔力結晶から特定の術式を取り除く事に成功した。
その間、ミカイル達は苦戦を強いれられていたが、耐久力のあるタブリスが前衛でコルネウスの攻撃を受けてくれていたので、ミカイルは無事だ。
〈くっ…… その体、敵になると厄介だな〉
〈フン、この忌まわしき体も役には立つ〉
コルネウスと同じ肉体を持つタブリスは、体が傷付いたとしても直ぐに治る驚異的な回復力が備わっている。これほど前衛に向いた体はない。
タブリスがコルネウスからの攻撃をその身で受けて防ぎ、後方で魔法を放つミカイル。自分に合った役割をこなし、コルネウスといい感じに渡り合っている。
だけど、これでは負けはしないが勝ちもない。やはりもっと数を増やしたいところ。なので、今もまだ気を失っている五人の黒い翼を持つ有翼人達を起こす事にした。
「う、う~ん…… こ、ここは? 」
「あれ? 心が軽くなった気がする」
「何だか長い夢を見ていたような…… 」
「こんなに清清しい目覚めはどのくらい振りだろうか」
「あぁ…… 悪夢から覚めた気分だ」
どうやら皆正気に戻ったみたいだ。俺は二対四枚の黒い翼を持つ彼? 彼女? 達に事情を説明して、ミカイルとタブリスに手を貸してくれるようお願いした。
「タブリス隊長が? 承知した。この命にかけて我等を裏切り、神に仇なすコルネウスを討ってみせよう! 」
他の四人も声には出さないが、怒りとやる気に漲っていた。
「あ、一つ聞きたいのですが、皆さんは今までの事を覚えているのですか? 」
俺の質問に、黒翼の有翼人達は揃って苦い表情を浮かべる。
「あぁ、残念ながら覚えている。いま振り返ると何故あんな事を…… 」
「そうだな、コルネウスの言う事に疑問を持たず、それが正しいとひたすらに信じていたのを覚えている」
「今にして思えばおかしい事ばかりなのにな…… 」
「まるで自分の中に別の自分がいるようだった」
「悔やんでも悔やみきれない」
五人は口々に後悔の言葉を吐く。隷属魔術のように体を操るのではなく、魂を縛り心を操る魔術か。なんとも恐ろしいものを作ってくれたもんだよ。
「我々を悪夢から解放してくれて感謝する。この命を捧げたとしてもこれまでの汚名をそそげるとは思えぬが、せめて一矢報いなければ神の前に立つ事もできん」
良し、これだけいればコルネウスを倒せるだろう。俺は魔力収納から奪って保管していた槍を返した。
さぁ、いざミカイルの下へ向かわんとしている所に、思わぬ人物から邪魔が入る。まぁ、多少は予想してたけどさ…… 今出てくるかね。
「これはこれは、ライル君達ではありませんか。あの術式だけを消すとは、暫く会わない内に随分と腕を上げましたね。やはり貴方は我が君の障害となりゆる人物。これ以上成長する前に仕留めた方が我が君の為となりましょう」
木々の奥から現れたのは、神父服に身を包み、青い短髪の長身の男―― ダールグリフだった。
「貴様はあの女の仲間!? よくも我等の前に出てこれたな、ここから生きて帰れるとは思うな」
「退け! お前らでは相手にもならぬわ!! あやつは我の獲物だ」
ギルは、殺気立つ黒翼の有翼人達よりも更に強い怒気で下がらせた。
「し、しかしギルディエンテ様。この人間は我等をこのような体にした女の仲間、見逃す訳には」
「我の言葉を理解できないか? 貴様らは邪魔だと言ったのだ。早くミカイルの所へ行け」
五人の気持ちは察するけど、ここはギルの言う通りミカイル達の所へ早く向かってほしい。
「おや? それは少し困りますね。今コルネウスに死なれては計画に支障をきたしてしまいます。ただでさえ奴の身勝手な行動で狂いが生じているというのに、これ以上は流石に許容致しかねます…… さぁ、お集まりなさい! ガーゴイル達よ!! 」
ダールグリフの呼び掛けで、羽が生えた醜悪な魔物達が上空から降りてくる。
「ガーゴイル? それがこの魔物の名前? これもカーミラが造ったのか? 」
「様をつけないか! お前ごときが我が君の名前を気安く呼ぶな! …… っと失礼しました。そう、このガーゴイルも我が君が造り出した魔物です。どうです? 素晴らしいとは思いませんか? この魔物を作った事で、我が君は空を制するのです。ガーゴイルとはかの勇者から聞いた怪物だそうですよ? 」
やっぱりか、ガーゴイルなんて魔物はこの世界には存在していない。ギガンテスと同じに俺と同じ世界の記憶を持つ五百年前にいた勇者クロトから聞いたのを、再現したのだろう。
「さて、出来れば貴方にはここで死んで貰いたいのですが…… 大人しく殺されてはくれませんか? 」
はい? それは何の冗談だ? そう言われてはい分かりましたってなる訳ないだろ。えっ? これって馬鹿にされてるの?