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俺はまだ気を失っている五人の黒い翼を持つ有翼人に魔力を繋ぎ、魔力結晶に掛けられている術式の一部を削り取っていく。
タブリスで一度経験したからか、今度はそんなに時間を要せず、すぐに次の有翼人に取り掛かる。それでもあと四人いるので時間は掛かる事になるけどね。
二人目を終えた所で少し一息入れる。
ふぅ…… 慣れてきたとは言え、こう細かい作業が続けば集中力が保てなくなる。
そう言えば、ミカイルに加勢しに行ったタブリスは、もうそろそろ着いた頃だろうか?
クイーンに頼んで監視しているハニービィから映像と音声を送って貰う。
〈くっ!? 貴様は、タブリス! 何故私に槍を向ける? 魔術が効いていないのか? 〉
〈コルネウス、よくも今までオレを好き勝手に利用してくれたな。この屈辱、お前の死をもって晴らさせてもらうぞ〉
お? 今丁度ミカイルの下へ着いたようだな。槍の刃先をコルネウスに向けるタブリスを、ミカイルは愕然とした表情で見詰めている。
〈タブリス? これはいったいどういう事だ? お前は我等を裏切ったのではないのか? 何故今更俺に加勢する? 〉
〈すまない、ミカイル。オレは…… オレ達は一族を裏切るつもりなど無かった。コルネウスの策略に嵌まり、魔術で無理矢理いいように利用されてきたのだ。だが、ギルディエンテ様と共にいる人間、ライルに救われてこの通り自由の身となり、こうして馳せ参じる事が出来た。あぁ、それからエリアスは無事にライル達が保護していたぞ? 安心するが良い〉
〈なに? エリアスを? …… そうか、お前の事といい、ライルには大きい借りが出てきてしまったな〉
〈ハハ! オレなんか一生返せない程の借りができてしまったよ。すぐに信じてくれとは言わないが、俺はコルネウスと戦う。邪魔はするなよ? 〉
〈フッ、昔からお前はそういう奴だったな。そっちこそ、魔法は失ったままなんだろ? 足手まといにはなるんじゃないぞ? 〉
お互いに憎まれ口を叩き合う二人の顔は何処か楽しそうだった。そんな光景をコルネウスは酷く不機嫌な様子で見ている。
〈術を解いて自由になったから何だ? 魔法も魔術も使えない者が一人増えた所で、私が有利なのには変わらない〉
〈確かに、今のオレには魔法も魔術もない。だが、この槍がある! 一族の為に長年磨いてきたオレの槍捌き、あまり舐めないでもらおうか? 〉
〈ならば来い! 貴様の槍なんぞ、私の魔術の前では無力だと知れ!! 〉
コルネウスの挑発後、間髪入れずに突進するタブリス。突き出した槍の先端がコルネウスに向かって伸びるが、半透明の何かに弾かれてしまう。
あれは、防壁の魔術か? 次にコルネウスは炎を生み出し、細長く形を変えて放つ。しかしタブリスも負けじと槍で受け流した。
〈今のはファイヤーランスと言う魔術だ。他にも様々な属性の魔術が使えるぞ? 決められた属性しか使うことの許されない魔法よりも、利便性の良い魔術が優れていると言えよう〉
確かに、授かった属性の魔法しか使えないのに対して、魔術は一人で色んな属性を使える。それだけを比べれば魔術が優れていると思ってしまうだろうが、それは大きな間違いである。
そもそも魔術とは、術式を用いて予め設定している事象を引き起こすもの。
先程のファイヤーランスで言えば、自分の魔力を火に変換する式、その火を細長い形に変形させる式、射程距離、速度、威力、消費魔力等を設定する式、それらを組み合わせてやっとファイヤーランスという魔術が完成する。
魔法のように感覚だけで威力を調整出来るものではないが、俺という例外を除いて、知識と方法を学びさえすれば属性の縛りがない魔術を誰でも使えるのは最大の強みとも言える。たがそれでも魔法の方が臨機応変に対応出来るので戦闘に向いている。どちらも一長一短で優劣をつけられるものではない。
〈だからどうした! 所詮は魔法の類似に過ぎない。神から授かりし魔法には敵うものか! 〉
ミカイルの周りにバチバチと青白く明滅する球体がいくつも発生し始める。あれは雷魔法か? ミカイルの奴、魔術の方が魔法より優れているなんて言われて腹をたてたな?
〈ほう、中々の数の雷球だ。やはりお前の魔力量と操作はそこらの有翼人よりも遥かに上。だからこそ惜しい、私と一緒になればその力を有効に活用できるというのに〉
〈有効活用だと? 俺を欲したのはそれが理由か…… くだらない、力の強弱と見た目でしか相手を判断出来ないのか? エリアスは違う。俺の内面を見て好きだと言ってくれた。俺もまた、そんなエリアスの優しさに惹かれたのだ。上辺だけしか見ようともしない貴様には理解できないだろうがな! 〉
ミカイルの周囲に浮かぶ雷球がコルネウス目掛けて飛んでいく。
すかさず防壁の魔術で防ぐコルネウスだったが、連続で当たる雷球に、防壁の魔術が持ち堪えずに半透明の壁はガラスが割れるような音をたてて壊れてしまう。
〈今だ! タブリス!! 〉
〈おう! 〉
コルネウスのすぐ横まで迫ってきていたタブリスが、防壁の魔術が壊れたと同時にコルネウスの腹部を槍で貫いた。
〈このまま魔力結晶を破壊させてもらうぞ! 〉
槍を突き刺したまま、魔核がある心臓部分に刃をスライドさせてコルネウスの肉体を切り裂いてゆく。
〈そうはさせんぞ! 〉
口から血を吹き出し叫ぶコルネウスから突風が吹き荒れ、タブリスは抜けた槍と共に後方へ飛ばされてしまう。
あぁ~、あともうちょっとだったのに…… しかし二対一でも全く有利にならない。コルネウスの奴、ミカイルを相手には手加減をしていたようだ。
それに気付いたのか、ミカイルは不快感を隠さず顔を歪ませ、タブリスは冷や汗を掻いていた。