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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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 真剣な顔で殺してくれと頼む彼の名前はタブリスと言い、三対六枚の黒い翼を背中に携えている。銀髪のショートヘアに有翼人特有の中性的な顔つき、夕焼け色の瞳を真っ直ぐこちらに向けてくる。


「タブリスさん、先ずは事情を説明してくれませんか? 」


「分かった。しかし時間がないので、そこまで詳しくは語ってはいられないぞ? 」


 そう言ってタブリスが語り始めた内容は―― コルネウスが見知らぬ人間の女性を連れてきて、このままでは有翼人の未来が危ないと説いてきたらしい。そして世界のマナが減少しているのは、また人間の魔術が発展してきたからが原因だと言う。有翼人の未来の為、人間が開発した魔術を自分達が学び管理する事で、人間達の文明を有翼人が制御し世界の安定を図る。連れてきた人間の女性は、欲に駆られた人間達に愛想を突かし、我々に協力してくれるのだとコルネウスは言っていたようだ。


「もしかして、その人間の女性というのは…… 」


「…… カーミラと名乗る人間だ」


 タブリス達の下に来た時には、もう既にコルネウスはカーミラ側だった訳か。


 有翼人の未来の為、そう言われては無視が出来ないタブリスと他の有翼人達は取り合えず話を聞くことにして、魔術の研究施設があると言う所についていったらしい。コルネウスも一緒なので、半信半疑ではあったが警戒心は緩んでいたとタブリスは後悔していた。


 そして、そこに待ち受けていたものは有翼人の明るい未来ではなく、おぞましい実験の数々。時間がないと言うので詳しくは話してくれなかったが、タブリスの恐怖に染まる顔を見てよっぽど恐ろしい目に合ったのだと想像出来る。


「我々は魔力結晶に魂を封じられ、この肉体と黒い翼を得た。コルネウスは魂の保護と言っているが、とんでもない! これは保護ではなく、捕縛だ!! 我々は世界の理から外され、神の恩恵である魔法スキルを失ってしまった。しかも魔力結晶にはある魔術を施され、我々の意思と体は奴等の思うがまま。もう沢山だ…… これ以上有翼人としての誇りを汚され続けるのなら、自ら死を望む。だからお願いだ、オレ達を殺してくれ! 」


 じゃあ何か? 黒い翼の有翼人達はコルネウスを除いて皆自分の意思では無いと言うのか? 魔力結晶に魂を縛り付け、魔術で意思と肉体を自由に操る。隷属魔術よりも悪質で残酷だ。


「事情は分かりました。でも何故今タブリスさんは正気に? 」


「恐らく、魔力結晶に貯まっていた魔力が術式を維持出来ない程急激に減ったからだろう。どうしてかは分からないが、一時的にこうしてオレの意思が戻ったと思われる」


 テオドアの魔力吸収で己を取り戻したってことか。でもまた魔力結晶が周囲のマナを取り込み、魔力を回復してしまえば再び魔術は発動してしまうと。


 魔力結晶に施されている術式か……


「あとどれ程の時間が残されているか知りませんが、俺が魔力結晶に施されているという術式を壊しましょうか? そうすれば貴方方は自由になれるのでしょう? 」


「なっ!? そんなことが? いや、先程の事を思えばそれも可能かもしれないが、魔力結晶には魂を定着させる術式も掛けられている。もしそれも一緒に壊してしまえば肉体から魂は離れ、我々は神の御許へと召されるだろう。まぁ本来の望みはそれだから別段問題はないが…… それでも、この身が悪しき呪縛から解放されるのであれば、お願いしたい」


 タブリスから了承を得たので、早速魔力を心臓部分にある魔力結晶へと伸ばして繋げ、解析を始める。


 うわぁ…… 何この膨大で緻密な術式は。視ているだけで頭が痛くなりそうだ。この中から意思と肉体を操っている術式を見付けるなんて出来るのか? こんな時にリリィがいてくれたらなぁ。


「何を弱気な顔をしている? 我も手を貸してやるから、集中せよ」


 魔力をギルに繋げ、今視ている術式を共有して探すこと十数分。


「む? この式ではないか? 」


「どれどれ…… あ、確かにこれっぽいね」


 多少の時間は掛かったが、見つけさえすれば後はこっちのもんだ。この式を慎重に削り取ればいいだけ。細かい作業だけどミカイルの特訓のお陰か、スムーズに魔力を操作出来る。


 結果、ものの数分で処置は完了した。他の術式には一切触れていないので、本人には何の影響もない筈だけど…… どうかな?


「お、おぉ…… 何だか体の中に巣くっていたもどかしい感じが綺麗に無くなったぞ。心が軽い、こんなにスッキリとした気分は久しぶりだ」


 魔術の効果がなくなり心が解放されたタブリスは、まるで少年のように目を輝かせては自由を喜んでいた。


「人間よ、名前を聞いても良いか? 」


「これは紹介が遅れまして失礼しました。俺はライルと言います」


「ライル…… ライルか…… 覚えた。オレの心を救ってくれた恩人、ライルよ。言葉では言い尽くせない程の感謝を貴方に。この大恩は一生忘れはしない。その大恩人に更なる要求を願う恥知らずをどうか許してほしい。叶うならば、オレの側で同じように縄で捕らわれている同胞も救ってはくれないだろうか? 」


 恥ずべき行為と顔を伏せるタブリスだったが、こっちはもう他の有翼人を救う気でいたから二つ返事で了承をした。


「有り難い。その深い慈悲に改めて感謝を捧げる」


「いえ、しかしこの人数では時間が掛かります。なのでタブリスさんには、今山頂でコルネウスと戦っているミカイルさんに加勢して貰いたいのです。それとエリアスさんを無事に保護した事も伝えてほしい。頼めますか? 」


 縄を解かれたタブリスは、真っ直ぐ此方を見詰めた後に深く頷いた。


「コルネウスに受けた数々の屈辱を晴らす機会を見逃す筈もない。喜んで承ります」


 これでミカイルは大丈夫かな? それじゃ、この捕らえた五人の有翼人も自由にしていきますか。

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