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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
424/812

26

 

 エリアスが囚われている場所は鬱蒼と茂る木々の奥、隠れるように建っている小屋の中で、一人分の小さな檻へと入れられていた。気を失っているが目立った外傷は見当たらない。


 良かった、コルネウスが言っていたように無事だ。で、これからどうするか…… 外では黒い翼の有翼人が見張りにつき、巡回している。慎重に行きたいが、あまり時間も掛けたくもない。ここは皆で一気に攻め込むか? いや、騒ぎを聞き付けて他の連中が集まってくるかも。


『おいおい、そんな時こそ俺様の出番なんじゃないか? 相棒』


 悩む俺に、魔力収納からテオドアが自信ありげに自分を指差す。


 あぁ、テオドアがいたんだった。有翼人の集落を目指す旅路からずっと大人しかったので、すっかり忘れていたよ。


『いやな、サンドレアでは俺様の我儘に振り回せちまっただろ? だから暫く自粛しようと思ってよ。だけどこんな楽しそ―― もとい危ない状況にライルを向かわせる訳にゃいかんな。レイスである俺様なら姿を消せるし、背後から魔力を吸い付くしてやるぜ! 』


 要は大人しくしているのに飽きたから自分も混ぜろって事だろ? でもこの場合、テオドアなら適任だな。


『頼めるか? 小屋の扉付近にいる見張りと、周囲を巡回している奴等を動けなくしてほしいんだけど』


『へっ! 俺様を誰だと思ってる。現アンデッドキングを倒した元アンデッドキング様だぜ? んなの楽勝よ! 』


 それはテオドア一人でやった事ではないけど、テオドアには強力な魔力吸収能力がある。それと俺の魔力を常時繋げておくので、いざという時に魔術を行使する用意は出来ている。


『そんじゃ、行ってくんぜ! 』


『あぁ、俺達も後から行く』


 姿を消したテオドアが真っ直ぐエリアスが捕らえられている小屋へ飛んでいく。レイスは基本物体をすり抜けるので、周りの木々を気にすることなく移動出来る。


 予想よりも早く小屋に着いたテオドアは、先ず扉付近で見張りをしている二人の有翼人に音もなく近付き、一気に魔力を吸い上げた。


 声一つ上げる事なく倒れる二人の黒い翼の有翼人。テオドアの魔力吸収は他のレイスよりも吸引力が段違いに強い。腐っても元アンデッドキングか。


 その後、小屋の周囲を巡回している連中も、一人ずつ確実に意識を奪って行き、安全を確保出来たので俺も小屋へと向かう。


 その間にテオドアは、エリアスが閉じ込められている檻に触れようとするが弾かれてしまった。


『って!? 相棒、こりゃただの檻じゃねぇな』


『そうみたいだね』


 何かしらの魔術が掛けられているようだ。しかしそうなると疑問が浮かぶ。あんな檻を用意してるということは、今回のエリアス誘拐は計画的犯行だったのか、それとも本来別の者をあの檻に入れる予定だったのか。どちらにせよ壊した方が良いだろう。


 気を失っている人達を纏めてロープで縛り、小屋の中に足を踏み入れる。


 何かやたらと隙間が目立つ雑な作りの丸太小屋だな。急遽作った感じがする。エリアスの誘拐はコルネウスの突発な行動だった線が濃くなったな。


「ライル、危ないからあまり近付き過ぎないで」


 檻を調べようと近付いて行く俺を、エレミアは危険だと言ってこれ以上近付けさせてくれない。大丈夫だとは思うけど、此処から魔力を伸ばして解析を試みる。


 ん~…… これは、入ることも出ることも禁止する結界のような術式が檻に掛けられているな。登録されている魔力の持ち主だけがこの檻を開くことが出来る仕組みのようだ。


 これを用意したのは本当にこいつらなのか? 有翼人は人間と袂を分かち千年、その間魔法を利用した暮らしをしていて、人間が開発した魔術を敬遠していた。だから有翼人達には魔術が伝わっていない筈なので、こんな檻を用意出来るとは思えない。


 となると、これはカーミラ側の誰かが有翼人に渡したことになる。そいつは誰で、今何処にいる? 嫌な予感がするな、とっととこの場から離れたい。


 俺は魔力の量に物を言わせて、強引に術式を破壊した。ただの鉄製の檻になったのを確かめ、ギルが力ずくで戸を抉じ開け、エレミアが中にいるエリアスを外に引っ張り出す。


 ふぅ、後はミカイルにエリアスを助け出した事を伝えれば、何の憂いも無しに戦いに集中出来るだろう。


「魔力で術式を破壊するとは、信じられん…… おい人間、それはお前がやったのか? 」


 背後から声を掛けられ振り向くと、そこには縄で縛って捕らえていた有翼人の一人が目を覚まし、驚愕の表情を浮かべていた。


 あらら、もう目を覚ましたか。不味いな、顔を見られてしまったぞ。いくら裏切り者と言っても、有翼人側には多少の被害はあっても死者は出ていない。あくまでも彼等は自分達の考えを主張し、有翼人達を引き入れるのが目的であって虐殺ではない筈。そんな者達を殺すなんてしたくない。


「あぁ、ギルディエンテ様もおられましたか。ならば我等の願いをどうかお聞き下さい」


「うむ、良いだろう。言ってみろ」


 人化しているギルを見て、その黒い翼の有翼人はすがるような瞳を向けながら懇願する。


「感謝致します、ギルディエンテ様。どうかオレ達を…… 殺して頂きたいのです」


 その黒き翼の有翼人は生ではなく死を望んだ。どういう事だ? この場合命だけは助けてくれと言うのでは? もう訳が分からないよ。

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