23
有翼人の集落を襲撃してきた敵を撃退した後、ギル達を魔力収納に入れ、結界の魔道具を設置した俺とミカイルは次の集落へと向かう。結局最後までこの集落の有翼人達は警戒心を解いてくれなかったな。
今度は俺の速度に合わせて飛行してくれているミカイルに、黒い翼の有翼人について聞いてみた。
「あのコルネウスという方とはお知り合いなのですか? 」
「…… あぁ、そうだ。コルネウスだけでなく、他の者達とも知り合いではあるが特に奴とは仲が良く、友と呼べる存在であった」
「それがどうしてあんな事に? 」
「今にして思えば、コルネウスは有翼人の在り方に不満を抱いていたみたいで、族長と言い争う姿も度々見掛けることがあった。何故我等が人間から隠れて暮らさなければならないのかと口にしていたのを覚えている。神は俺達よりも人間が大切で、有翼人は使い捨ての駒なのだとも言っていたな。まったく、神の愛を疑うとは不敬で憐れな者よ」
成る程、そこをカーミラは利用して言葉巧みに引き込んだ訳か。
「コルネウスが言っていた新しき世界の扉とは何なんです? 」
「さぁ? 俺も良く分からん。此処より別の世界に行き、我等を必要としてくれる本物の神に仕えるのだとか。馬鹿馬鹿しい話だ」
別の世界か…… 本当にそんな事が出来るのか? 有翼人達を利用する為の嘘という可能性も考えられる。
『なぁ、ギル。この話、どう思う? 』
『全くもって不愉快極まりない話だ。この世界に生まれたというのに、他の世界を望むとは。まぁそれはそれとして、実際に可能かどうかだな? 異世界の住人であるムウナを呼び寄せる事には成功している訳だから、逆に異世界に行くのも出来るやも知れぬな。しかし、それにはどれ程の代償が必要かは我にも図れぬ』
カーミラはこの世界を、神を否定している。ならば別の世界に行く為ならどんな犠牲も問わないと考えていても不思議ではない。
コルネウスはもう一度集落に来るのだろうか? 出来れば捕らえて詳しく話を聞きたい。
全ての集落に結界の魔道具を設置した俺達は報告の為、族長であるセラヒムの家に来ていた。
「―― と、幸いにも此方に犠牲者は出ませんでした。それと、各集落に結界の魔道具の設置は完了しております」
「そうか、ご苦労だった。ギルディエンテ様、この度はお力を貸して頂き、感謝します」
「うむ。裏切った有翼人と、未知の魔物にも興味があったのでな。そう気にするな」
「我が一族からあのような者達を出してしまい、お恥ずかしい限りです」
セラヒムは目を伏せると深い溜め息を吐いた。
「あの者共は、また来ると思うか? 」
「結界の効果を考慮しますと、恐らくは…… 」
セラヒムが言うように今集落に張ってある結界は、魔物は通さないが同じ有翼人には無効なのだ。よって、多少の変化があっても、魔力は元の有翼人と同じなので、コルネウス達は結界の対象にはならない。また襲ってくる可能性は十分にある。
とにもかくにも魔道具は設置したので、もうこれ以上俺に出来る事はない。後は有翼人や他の人達に任せよう。
やっとこれでインファネースに戻れる。此処は標高が高いので気温も地上に比べては低いが、陽射しがきつくて暑い事には変わらない。クーラーの効いた店が恋しいよ。
『本当に暑いのがお嫌いなのですね? 激しく降り注ぐ陽光を一身に浴びるのは心地よいものですよ? 』
『何でも、我が主は汗を掻くのが嫌だと仰っておられましたね。汗を吸った衣服が体にベタつくのが不快らしいです』
律儀に答えてくれたゲイリッヒに、アグネーゼは顔をしかめる。やれやれ、アグネーゼがゲイリッヒを認める日は来るのかね?
『まるでお貴族様ね』
『あたしは魔力で体温調節してるから汗なんか掻かないもんね~♪ 』
エレミア、一応これでも貴族だったんだよ? 認知はされていなかったけど。それとアンネさん、なにその便利な魔力の使い方。是非とも後でご教授願いたい。
「では、ギルディエンテ様はこれからもこの人間と共にいるのですね? 」
「うむ。我とライルが出会ったのは、彼の方のご意志に違いない。恐らく我の代わりに属性龍を創られたのも、ライルの力となれという事なのだろう」
「成る程、全ては神の御導きなのですね」
セラヒムもだけど、ミカイルは相変わらずギルには低姿勢だよな。
『ケッ! あんなデカイだけのトカゲの何処に敬う所があるのか、理解出来ないね! したくもないけど! 』
『私達エルフは断然妖精派ですよ、アンネ様』
『うぅ、やっぱりエルフは良い子達ばかりで素晴らしいね! 』
取り留めの無い会話をしながらミカイルの家に向かうまでは良かったのだが、家を目前として違和感を覚える。
何だ? この嫌な感じは……?
俺はミカイルの家の内部を注視すると、魔力を表す白い影が視える。だが、そのシルエットはどう視てもエリアスではなかった。
「急に立ち止まってどうした? 」
「ミカイルさん。家の中にエリアスさんではない誰かがいるようです。心当たりはありますか? 」
「いや、誰かが訪ねてくるとは聞いていないが? それに俺の留守中にエリアスが誰かを家に入れて出ていく筈が…… ッ!? まさか!! 」
何かに気付いたのか、ミカイルは慌てて扉を開いて中に入っていくので、俺とギルも後を追う。
「エリアス!! 」
「よぉ、遅かったじゃないか。待ちくたびれたぞ? ミカイル」
家の中にいたのは、余裕の笑みを浮かべるコルネウスの姿があった。
「コルネウス、なぜ貴様が此処に…… エリアスをどうした!! 」
「騒ぐな、あいつなら今の所無事だ。何もしてはいない。そんなことより、警備の巡回経路も交代時間も前と変わってないじゃないか。お陰で楽に忍び込めたよ」
これはまいったな。まさか逃げたその日にまた来るとは…… 完全に予想外だ。