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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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21

 

 救援に向かう有翼人達の後を追い、救難信号である光が打ち上がった山の頂にあるというもうひとつの集落へ飛んで向かう。


『ほんとに遅いわね。もうちょっと早く飛べないの? 』


 どんどん有翼人達に追い抜かれ離されていくのを見て、アンネが呆れていた。


 いやいや! これ以上は無理ですから! 高くて怖いし空気も薄いで集中なんかできやしない。これが精一杯だよ。


 何とか集落らしきものが見えてきたが、有翼人達が襲撃者と思わしき者達との戦闘を開始していた。


 有翼人達は両刃で刃先が長い槍を持ち応戦している。対する襲撃者の見た目は同じ有翼人だが、翼の色が真っ黒に変色している。あれがカーミラ側についた有翼人なのだろう。


 その者達の周りに、羽が生えている魔物が複数飛んでいる。髪も体毛もなく、顔はゴブリンのように醜悪、手足には長く鋭い爪、ひび割れた灰色の肌をしていて岩のような質感を思わせる。


『何あれ? あんな魔物は初めて見るよ! 』


『私も長年この世界におりますが、あのような魔物は初めてです』


 アンネとゲイリッヒも知らないとなると、やっぱりあれはカーミラが造り出した魔物の可能性が高い。


 有翼人達がその魔物に魔法や槍で攻撃を加えてはいるが、皮膚が固くてそんなに効いていないみたいだ。


 魔物を盾に翼が黒い有翼人の槍が襲ってくる。中々に戦いにくそうだ。数も向こうが多いし、見るからにこちらが劣勢だと分かる。


 俺は集落に降りて、先に行ったギルとミカイルを探す。すると少し離れた場所で空を見上げているギルを見つけた。


「ギル! こんな所で何を? それにミカイルさんは? 」


「やっと来たか、ミカイルなら彼処にいる」


 ギルが見詰める先にミカイルはいた。誰かから渡されたのか、他の有翼人と同じ槍を構え、四対八枚の黒い翼を持つ有翼人と対峙している。


「ミカイル! いい加減理解したらどうだ! 見ろよ、この圧倒的戦力差を、この翼を! あの女につけば俺達の未来も力も望むままだと言うのに、何故拒絶する? こんな世界に先がもう無いのは分かりきっているだろうに」


「黙れ、コルネウス! 貴様は我等有翼人の誇りを汚した。決して許されるものではない。神に弓引く不届き者め、俺がここで仕留めてくれる!! 」


 怒りを露にするミカイルが光魔法を放つが、コルネウスと呼ばれた黒い翼の有翼人に避けられて当たらなかった。


「なぁ、ミカイル。おかしいとは思わないのか? 何故神は罪を犯し続ける人間にばかり慈悲を与え、敬服する我等には何もないのだ? そもそも我等が神と呼んでいる存在は本当に神なのか? もしかしたらそんなものは初めから存在していないのでは? 良く考えろ、神が完璧な存在ならどうして何度も世界に危機が訪れるんだ? 神は本当に我等が信じる神なのかを、一緒に暴いてみようではないか! 」


「骨の髄まであの女に染まってしまったなコルネウス。そんなものは証明するまでもない。神に疑問を持つ段階で、貴様はもう有翼人に非ず! 愚かな元同族よ、その穢れた翼は見るに堪えない。他の者共々、神の前で赦しを乞うが良い! 」


 ミカイルとコルネウス、お互いの槍が交差し、激しい接近戦が空で行われる。これは手の出しようがないので、他の有翼人達に加勢した方が良いだろうな。


 などと思っていたら、例の魔物が此方に急接近してくるのが視える。その長い爪が生えた腕を俺に向かって伸ばしてくるが、魔力収納から飛び出したアンネとエレミアによって防がれる。


「ライル! なにボケッとしてんの? しゃんとしなさいよね! 」


「大丈夫、私が守るから問題ないわ」


 ふぅ、完璧に油断してたな。アンネとエレミアに感謝しなくちゃ。しかし、今回の敵は常に空を飛んでいるので厄介だ。ギルやアンネはともかく、エレミアとアグネーゼは空を飛ぶ術がない。


「エレミアはライルの側から離れないでよ! この不細工な魔物はあたしに任せて! 」


「分かりました、アンネ様」


 よっしゃあ!! と気合を込めてアンネが魔物達に向かって飛んでいく。


「こうも数が多くては面倒だ。纏めて塵にしてくよう」


 横にいたギルが人化を解き、本来の龍へと姿を変える。サンドレアでは暴れたりなくて不満がっていたからな、随分と欲求不満だったみたい。


『ならば、私も出ましょう。我が主に危害を加える存在を捨て置けません』


『ライル、まもる! ムウナも、でる! 』


 ゲイリッヒとムウナも魔力収納から出ては魔物に向かっていく。


『それでは、私も主様の目となり耳となる為、子供達を向かわせます』


 クイーンの子供であるハニービィが周囲を飛び回り、辺りを警戒する。


 数的にはあっちが上だけど、総合的には此方が圧倒的に勝っている。数の不利を力で押し切るしかない。


『アグネーゼさんは出てきては駄目ですよ。ここは彼等に任せ、終わった後に怪我人の手当てをお願いします』


『はい、承りました。戦いに貢献出来なくて不甲斐なく思いますが、その分誠心誠意務めさせて頂きます』


 サンドレアの時とは違って、アグネーゼの回復魔法と浄化魔法ではあの魔物には効かない。それが分かっていてもアグネーゼは何処か悔しそうだった。


 そうしている間にも俺とエレミアに魔物達が襲ってくる。


 ゲイリッヒとの稽古のお陰か、エレミアの動きは格段に良くなっていた。無駄な動きを極力減らし、体力の消耗を抑えつつ魔法を織り交ぜるスタイルはまだ粗削りではあるが、着実に自分のものにしてきている。


 俺も負けてられない。ここまでの旅路でミカイルに散々扱かれてきた成果を見せてやる。


 俺は皆に魔力を繋げたまま、魔動式丸ノコを取り出す。魔力操作の訓練でより繊細に効率良く魔力を操れるようになったので、一度に出来る事が増えてきた。


 ギルの爪を加工した刃が激しく回転し、有翼人の槍を弾く魔物の皮膚を容易に切り裂く。その様子を見て魔物達が警戒を強めるが、まだこれで終わりじゃない。魔力収納からもうひとつの丸ノコを取り出して刃を回転させる。


 そう、ギルの爪や鱗はムウナが自分の体を変化させて造り出せる。それを使って新しい魔動式丸ノコを作っていたのだ。


 二つの凶悪な回転する刃が魔物達を切り刻む。空を飛んでいようと関係なく、縦横無尽に飛び回る丸ノコに魔物達は悲鳴を上げ、切られた肉と血が天から降ってくる。


 この光景には控えめに言ってドン引きである。これは…… かなりグロい。高揚しかけていた気持ちが一気に冷めてしまったよ。

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