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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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19

 

「おい! 鳥軟骨の唐揚げをおかわりじゃ! 」


「ほぅ、ウイスキーとは驚くほど酒精は強いが香りが素晴らしい。それにこの炭酸水で酒精を弱めれば飲みやすく、この唐揚げという料理に良く合う」


「ガハハハ! 有翼人が鳥軟骨を食っとるわい。共食いになりゃせんのかの? 」


「我等は鳥ではないぞ? まったく、これだから酒の入ったドワーフは面倒なのだ」


 ほろ酔い気分のギムルッドに絡まれてセラヒムは鬱陶しそうにしている。あ、因みにこの鳥軟骨はインファネースの肉屋で貰ったもので、魔力収納で飼っている鶏ではない。


「あら? このピザっていうの、ワインに合うわね」


「何でも帝国の料理らしいですよ? ライル君の前世の世界でもあったようですが」


 リュティスとイズディアが共にピザをつまみながらワインを飲む。


「やはりウイスキーはストレートに限る」


「かぁ~っ! この炭酸入り果実酒は良いね♪ ライル! なんかデザート的なの無い? 」


 おい、何でギルとアンネがしれっと酒盛りに参加してるんだよ?


 俺は言われるままに料理を提供していく。魔力収納内にある家のキッチンでは、今も忙しく料理を作るエレミアとアグネーゼの姿があった。


「これで本当に上手くいくのだろうか? 」


 ただ酒を飲んでいる各種族の長達に、ミカイルは不安げに呟く。


 でも、酒が入ったお陰なのか、セラヒムの態度も多少は柔らかくなったような気がする。


「こうして私達で飲むのは久し振りね。最後に皆で集まったのはどのくらい前だったか、もう忘れてしまったわ」


「人魚達は私達よりも早く人間との関わりを絶ったからね。でも私達でさえも千年振りくらいか? 」


「そうじゃな。全ては千年前が原因じゃった。あの短い時間で大陸中の種族があの化け物を倒さんと手を取り合い、そしてその手を離した」


「度々人間には残念に思う事はあった。しかしそれでも我々は心の何処かでは信じていたのだ。だが、あの時ほど人間に失望した事はなかった。共に世界を救うと言っていた筈なのに、脅威が無くなり欲に身を任せた結果が、このマナの減少を引き起こしている」


 セラヒムは何処か寂しげにハイボールを飲む。有翼人だって初めから人間が嫌いだった訳ではなく、信じようとしてくれていたと知って少し嬉しくなった。それと同時に、そんな有翼人達が見放ざる得ないところまで追い詰めてしまった事を恥ずかしく思う。


「あれからもう千年じゃ。当時の人間は誰も残っとりゃせん。それにの、こんなに旨い酒も造れるようになっとる。どうじゃ? もう一度、側で人間を見守ってみんか? 」


「しかし、俺にはもう人間を信じる事は出来ない。それなのにどうやって側にいろと? 」


 ギムルッドの言葉に苦悶するセラヒムへ、リュティスが声を掛ける。


「別に無理して信じようとしなくても良いのではありませんか? 正直、私もそこまで人間を信じているかと問われれば、ハッキリとそうですとは答えられないわね。でも昔と違うのは分かるわ。だからこそもう一度関わろうと思ったのよ。過去だけで人間を判断せず、今の彼等をちゃんと見てからこの先どうするかを決めるわ」


「相手を信じずに側にいられるものなのか? ギムルッドとイズディアも同じ考えか? 」


 リュティスの思いがけない発言にさしものセラヒムも目を見開く。


「う~ん、確かに人間全部を信じている訳ではないね。私達エルフは人間というよりライル君を信じていると言えるかな」


「千年経っても有翼人は変わらんな。お主等は真面目過ぎるんじゃよ。共にいるため無理にでも相手を信頼しようとする。これも種族の特性というやつなのかの? ワシ等は酒が欲しかったから適度に人間達と関わっていたが、信頼とか信用とか、そんな事など考えてもいなかったぞ? 酒が飲めりゃそれで良かったからの。他者との付き合いなんぞそれぐらいの距離感で丁度良いのではないか? 」


 誰かと関わる為に、その相手を完全に信用するなんて人間同士でもそうそう出来ることではない。ギムルッドの言ったように、有翼人とは真面目で誠実過ぎるんだと思う。心から信頼し合えなければ他者と向き合えないとでも考えているのだろうか。


 有翼人同士ならそれが普通なのかも知れないが、良く知りもしない他人でしかも種族も違う者を、そこまで信じ合えるものではないと俺は思う。


「まぁ、基本ワシ等ドワーフは酒が絡むと極端に懐が緩くなってしまうからあまり参考にはならんがの。だからこそ、人間を信じきれず否定的なお主等が必要なんじゃ。その真面目過ぎる性格と空を自由に飛ぶ翼で、人間達を監視して貰いたいのじゃ。その為には色んな場所で人間を見張らなければならんじゃろ? それに人間達が作る魔道具や魔術も世界にとって危険かどうか実際に使用して確認せねばの。その結果、お主等の生活が今より多少豊かになったとしても問題はなかろう? 」


 ニヤリとあくどい笑みを浮かべるギムルッドに、呆れたとばかりにセラヒムは溜め息を吐き、酒の入ったグラスを傾ける。


「セラヒム、人間は確かに間違いを犯し、過ちを繰り返してきた。これからもそれは変わらないかも知れない。だが、私達もまた同じように間違いを犯してきた筈だ。完璧な存在なんて神以外あり得ないのだから。なればこそ、互いに互いを監視し合う必要があると思わないかい? 世界の安定の為に、完全に突き放すよりも堅実的だと思うけどね」


「信用や信頼は種族で行うものではなく、個人でするものよ。そして裏切られたからと言って、それがその種族の総意ではないと貴方も分かっているでしょ? また心を踏み躙られるのが怖いのは分かるわ。でも、こんな所で閉鎖的に過ごしたって何も変わらない、変えられないのよ」


 俺も、エレミア達を家族と呼んではいるけれど、それは無条件で信じているという訳ではない。むしろ何か間違いを犯したら、一緒に償い背負っていこうと思っている。迷惑を掛け合いつつも、それでも決して見放せないのが、俺の中での家族っていうものだ。自分が死ぬまで苦労と心配を掛けさせ続けても、それでも電話やメールを送って安否確認をしてくれた前世の両親のように……


 だから、俺は家族に何があっても見捨てたりはしない。間違いを犯したら共に正し、困っていたら出来る範囲で手を伸ばす。


 流石に有翼人にそこまでは望まないけど、その厳格な性格で世界の秩序を保つ存在でいて貰いたい。

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