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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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18

 

 ミカイルの家で一晩過ごしたけど、いやぁまいったね。何がと言うと、有翼人の家にはトイレが無いのだ。何でも、有翼人は食べた物を胃で消化して肉体を維持する栄養を確保するのは俺達と同じだけど、本来なら排泄物になるような物は龍や妖精と同じように分解されて魔力に変換されるらしい。


 なので有翼人には排泄行為はなく、トイレもまた必要ないのである。この特徴は有翼人だけで、エルフ、ドワーフ、人魚は俺達人間と一緒だ。


 だからなのか、排泄行為が必要な俺達を汚ならしいと思う有翼人も少なくはない。


 で、結局俺がどうしたかと言うと、魔力支配のスキルで外に深い穴を掘り、周りを土壁で囲って木材で洋式トイレを作った。

 ミカイルとエリアスには良い顔をされなかったが、生物の生理現象なのでしょうがない。


 そして翌朝、ミカイルの敷地内に転移門を設置し、発動して店の地下へと戻る。対になるもうひとつの転移門は予め地下に設置済みである。


 うん、ちゃんと機能しているな。後はマナフォンで皆を呼ぶだけだ。




 この日、有翼人の集落がちょっとした騒ぎになった。突如ミカイルの敷地内から現れた人魚の女王、ドワーフの王、エルフの里長に有翼人達は愕然としている。そんな彼等に見せ付けるように族長の家に向かう。


「やれやれ、面倒じゃのう。どうしてワシらがあやつの説得なんぞしなくてはならんのじゃ」


 ドワーフの王ギムルッドが上り坂を億劫そうに進みながらぼやく。


「まぁ仕方ないよ。そういう約束だからね。それに、有翼人がいなくなりでもしたら、後々困るのは私達だ」


 エルフの里長イズディアもあまり気が進まない様子だけど、約束してしまったからと諦めたかのようにギムルッドを宥める。


「へぇ、ここが有翼人の集落なのね。うん、これは思った以上に大変な所ね。空気もマナも地上と比べて少ないわ。これでは魔法で生活している彼等には厳しいでしょうね」


 キョロキョロと興味深く観察している人魚の女王リュティスが集落の状況に思わず言葉を漏らす。


 言われて初めて空気だけではなく、マナも薄いと気付く。魔力収納で育てているマナの大木と若木から発するマナが、俺の魔力を通して外に漏れでているので、今まで気付かなかった。


「年々、マナは薄くなる一方だ。昔は此処ももっとマナに溢れていたのだがな…… 今では魔力も節約していかねばならなくなった」


 地上ではあまり実感出来ていなかったが、ここだとマナが減少していると如実に表している。ミカイルが危機感を覚えるのも当然だな。


 そして族長の家に到着した彼等は声も掛けずにズカズカと中に入っていく。おいおい、いきなり家に上がるなんて、一声あっても良かったんじゃない?


「駄目じゃ、そうするとあやつは絶対にワシらと会おうとはせんからの。こうやって無理矢理に訪ねるのが良いんじゃ」


 他の二人も同意するように頷いている。流石は有翼人の扱いには慣れてらっしゃる。なんとも頼もしいね。


「な、なんだ!? 断りもなく勝手に入って来るなど、何事か! 」


 有翼人の族長セラヒムが、突然入ってきた俺達に動揺して声を荒らげる。


「フン、この偏屈で頑固者が! さっさと助けを請うてればこんな面倒にはならんかった筈じゃ! 千年経っても変わらんな」


「貴様に言われるのは心外だ。ドワーフ以上に偏屈な者はおるまい? しかしどうやってここに? いや、ミカイルとその人間が手引きしたのであろう? 大方私を説得しに来たのだろうが、お前達の言葉など聞く耳もたぬからな。我々の問題に部外者が首を突っ込むんじゃない。ここは我等の土地、余所者は速やかに出ていけ」


 駄目だ、取りつく島もない。そんなセラヒムにギムルッドが近寄ると、肩から下げているマジックバックから何かを取り出して、ドンッとテーブルの上に置いた。


「ん? 何だこれは…… 硝子の瓶か? 中に何か入っているようだが? 」


 テーブルに置かれた透明な硝子の瓶、中には琥珀色した液体が見える。


「ウイスキーという酒精の強い酒じゃ。まだまだあるぞ? 焼酎にブランデー、ワインに純米酒、それと大吟醸じゃ! 」


 次々と置かれる酒瓶に目を丸くするセラヒム。


「これが全部酒だと? ワインはエルフが造っていたのを知っているから分かるが、他は初めて聞く酒だ」


「さぁ、飲むぞ! お主の相手なんぞ、酒でも飲まんとやってられんわい。別に酒断ちした訳ではないんじゃろ? 」


 初めて見る酒を前にしてセラヒムは悩む素振りをした後、


「世界の情勢を知る機会でもあるしな。良いだろう、この酒が無くなるまでならお前達の話を聞かんでもない」


「そうと決まれば、ライルよ! 何か酒のつまみになるもんを出してくれ! 」


 へ? こっちが用意すんの?


「私はブランデーを飲むから干し果実でもあれば充分だよ。ライル君の魔力収納で育った果物は味も濃くて美味しいから格別なんだ」


「私にはお刺身と…… 豆腐を油で揚げたあの厚揚げというのを頂けないかしら? これを肴に清酒を飲むのが気に入ってるの」


 長達は思い思いに好きな物を注文してくる。なんか居酒屋の店員にでもなった気分だよ。


 説得しに来たと思ったら酒盛りが始まってしまった。こんな調子で本当に大丈夫か?

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