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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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17

 

 取り合えずもう日も暮れてきたし、転移門の設置は明日にして夕食をご馳走になる。


 料理をしてくれたのはエリアスで、炎の魔法で野菜を炒めていた。お風呂のお湯も、家の灯りも全部に魔法を使う。有翼人の生活は魔法が中心のようだ。


 ミカイルが言うには、有翼人は最低でも三つの魔法スキルを授かって生まれてくるらしい。その内の一つは必ず光魔法なのだとか。因みにミカイルが授かった魔法は、風、火、雷、光の四属性である。


 生まれながらにして、どの種族よりも魔法を多く授かっているのが神に愛されている証拠だと、ミカイルは自慢気に語っていた。


 有翼人の主食はパンで、野菜と麦は空から見たあの段々畑で育て、砂糖と胡椒は自生しているのを採ってきては自分達で加工する。塩も海水から確保していると言う。


「我等の魔法と魔力操作で大抵の事は出来る。それに翼さえあれば何処にでも行けるので、狩場に困る事はない」


 その豊富な知識と卓越した魔法の腕、そして何処へでも行ける翼があるから、有翼人達はこの山頂付近でも暮らせているのか。


「だが、我等には知識はあっても、新しいものを生み出す発想力が乏しいのは認めざるを得ない。いまある知識も大半は人間から得たものだからな」


 たからその人間と関わりを絶った後、新しく生み出されるものはなくなり、有翼人達の文明も停滞している。その事実に気付いたミカイルは誰よりも深刻に捉えているのかも知れない。


 一度失ってしまった信頼はなかなか元には戻らない。しかし、新しい知識を得るには人間と関わらねばならない。頭を悩ませていたミカイルに、ある日風の噂でインファネースの事を知ったそうだ。自分達以外の種族が再び人間と交流しているという話に初めは落胆していたが、妙案を思い付く。


 ―― そうだ、人間の街にいる他の種族から知識を得れば、直接人間と関わらずに済む―― と。


「だからインファネースに? でも結局人間の街に来てしまっては、関わってるも同然では? 」


「それは俺も後で気付いた。だがな、エルフの里、ドワーフの国、人魚の島をいちいち全部訪ねていたら時間が掛かるうえに面倒だ。ならばその三種族が集まるインファネースに行った方が良いと判断したのだ。まぁ、結局は人間と関わる結果になってしまったが、こうしてギルディエンテ様にお会い出来たので良しとしよう」


「その時にはもうカーミラが? 」


 ミカイルとエリアスの二人はその名前を聞くと揃って眉をしかめては不機嫌になる。


「奴と会ったのはインファネースの噂を聞く少し前だった。他の山で暮らしている同胞が失踪したという話を聞き、調査をしていると、その女が我等の前に現れたのだ。しかも変わり果てた姿の失踪した同胞達を引き連れてな」


「それで、カーミラは何と言っていたのですか? 」


「神を否定する言葉を吐き、我等有翼人を侮辱し、神から与えられた使命を嗤った。そして、俺達に新しき世界で新たな神に仕えろと言ってきた。今思い出しても腸が煮え繰り返る思いだ。当然、そんな誘いに乗る者は出なかったが、既に変わってしまった同胞がその後も何度か我等の集落に訪れては、勧誘紛いの事をし、拒否すれば引き連れた魔物をけしかけてくるようになった」


 畑も荒らされ、また何時やって来るか分からないので、遠出も出来ずに狩りも儘ならない。日に日に生活は苦しくなるばかり。


 他の種族に助力を頼もうと族長に進言するが一向に首を縦に振る事はなく、痺れを切らしたミカイルが独断でインファネースへ向かう事にしたのだと言う。


「他の種族の長達なら、きっと族長も考えを改めて下さる。有翼人の面子と未来、どちらが大切かは悩むまでもない。正しい選択をしてくれるだろう」


「だと良いがな」


 希望的観測を述べるミカイルに、ギルはそう一言だけ告げる。


 あの族長が説得に応じるとは思えないけど、何もしないよりはましだ。


『あの、私は何時まで魔力収納にいれば良いのでしょうか? 此処は居心地が大変によろしいのですが、ライル様のお側に仕えるのが私の務めなのです』


『私だってライルの側にいないと、守れないわ』


 魔力収納の中からアグネーゼとエレミアが不満の声を上げる。


『お二人とも、我が主を困らせないで下さい。本来なら私も我が主の為に尽くしたいところですが、外は有翼人の集落。我が主の他に余所者が増えては彼等も許容出来なくなってしまうかも知れませんよ? 特にアグネーゼさんは人間ですから、外に出るのはお勧め致しかねます。私もヴァンパイヤなので遠慮しなければならないのが口惜しい限りです』


『私はエルフだから問題無いわよね? 』


『いえ、エルフでも余所者が一人増える事には変わりませんので、止めた方が宜しいかと。不本意ではありますが、ここは我が主にお任せする他ありませんね』


 ゲイリッヒの提言により、渋々だが二人は引き下がる。確かに、ゲイリッヒが言うように突然余所者が増えたら警戒されるよな。問答無用で追い出されるか、危険人物として捕らえられる未来しか見えない。


『あたしは外に出る気も起きないね。龍に頭を下げる種族なんか録な者じゃないよ』


 アンネは機嫌が悪いのを隠そうともせず、管を巻きながら蜂蜜酒を豪快に喉に流し込む。


 うん。アンネは絶対有翼人と喧嘩するだろうから、このまま魔力収納に居てくれた方が都合がいい。


 有翼人の集落には、用が終わるまでギルと俺の二人でいる方が良さそうだ。

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