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俺とミカイルは、山脈の中でも一際高い山に沿って上に飛んでいく。
ミカイルの背中にある三対六枚の翼を一斉に広げている姿は圧巻である。その外見だけなら誰もが見惚れるくらい完璧なのに、絶対中身で損しているよ。
それにしても飛び慣れているからか、やっぱり速いな。後ろをついていくだけで精一杯だ。
そうして飛び続けること数十分。時折、遅い! とミカイルから叱咤を受けつつもやっと頂上が見えてきた。その少し下に家が立ち並ぶ光景が目に入り、周りには段々畑が広がっていた。
山を削ったのか、それとも元々の地形を利用したのか、どちらにせよこんな山頂付近にしっかりとした集落を築き上げているのは驚きの一言に尽きる。
しかしこの集落の入り口というか、門らしきものは見当たらない。それどころか下へと続く道すらない。本当に空でも飛べない限り此処へは行けないようになっているみたいだ。
「降りるぞ」
ミカイルがゆっくりと降りて行くのでそれについていく。ふぅ、やっと地に足が着ける。だが安心したのも束の間、集落へと降り立った俺達に数人の有翼人達が集まってきた。彼等の背中には二対四枚の翼があり、周りで様子を窺う人々は一対二枚の翼。
翼の数が違うのは何か意味があるのだろうか? そんな俺の疑問を感じ取ったのか、ゲイリッヒが魔力収納内から答えてくれた。
『有翼人達の翼の数には幾つかの理由がございます。先ずは単純に長く生きてる証であり、次に魔力が強い者にも翼が増えていきます。つまり長く生きて魔力の多い者が二対、三対の翼を持つと聞いたことがあります』
へぇ、翼の数が有翼人の強さや立場を表している訳か。なかなか分かりやすい仕組みだな。それじゃ、この集まってきた有翼人達は四枚でミカイルが六枚だから、ミカイル方が年長者で強くて偉いって事か?
「ようやくお帰りになりましたか、ミカイル様。いったい何処へ行かれていたのですか? 」
「もしやあの者達に捕まったのではないかと皆心配していたのですよ? しかし、お戻りになったのは喜ばしいのですが、何故その様な人間をこの集落に? 」
彼等の怪訝な視線が俺を射抜く。
おぅ、すっごく睨んでくるな。予想はしてたけど、居心地は良くないね。だけど、この人達も周りで様子見ている人達も、揃って皆美形だよな。しかもミカイルと同じように男性か女性かの判別がつかない。
「心配を掛けてすまなかった。詳しく話してやりたいが、先ずは族長に報告しなければならない。セラヒム様はご在宅か? 」
「あ、はい。今の時間だと家に居られる筈ですが」
それを聞いたミカイルは、ついてこいと目で合図をして飛んでいく。此処では歩いての移動はないのか? 俺は少しうんざりしつつもミカイルの後に続く。
山に沿って集落が築かれているからか、坂が多いので飛んで移動した方が速いのは理解できるけど、ちょっとは休ませて欲しいね。
標高が高いので空気が薄く、すぐに息切れを起こしてしまう。飛行訓練やここまで上ってくる時にも、軽い眩暈や吐き気を催したが魔力支配のスキルで治したので大事には至らなかった。あれが高山病ってやつなのかな? だとしたら、エルフであるエレミアはともかく、人間のアグネーゼは魔力収納から出たら危険なのでは?
『ただの人間にはこの場所は辛かろう。ここはライルの中で大人しくしていた方が良さそうだな』
『申し訳ありませんライル様。ギルさんがそう仰っておられますので、今回私は役に立てそうも御座いません』
アグネーゼはとても残念そうに顔を伏せる。
『あまり気にしないで下さい。此処へは転移門を設置しに来ただけ。すぐに用は済みますよ。後の面倒は他の種族の長達にお任せしましょう』
そう、何も危険な事はない。ちょっと転移門を設置するだけ―― だったんだけど……
「ならん。そんな物をこの集落に置いてはおけん。人間が持ってくる物を我等が信用するとでも思うか? 」
迷うことなく否定してくるのは、四対八枚の翼を持つ有翼人の族長、セラヒム。翼の数からして、かなりの年月を生きている筈なのに、その姿は若々しくミカイルとあまり大差がない。
「セラヒム様の仰る事は最もです。ですが、俺は見たのです。他の三種族が一つの街で人間と共に暮らしているのを。そして会って話したのです。エルフ、ドワーフ、人魚の長達と」
ミカイルは族長のセラヒムに、インファネースで見聞きした事を細やかに伝える。その中で俺のスキルの話になると、一瞬だがこっちに目を向けだけで、後は顔色一つ変えずにじっと耳を傾けていた。
全て話し終えると、セラヒムは徐に口を開く。
「ミカイルよ。我等の問題は我等で解決せねばならぬのだ。有翼人の恥を世に晒してはいかん。我等は他の種族の見本とならねばならない。分かるな? 」
「しかし! もう皆は疲弊しております。これ以上は持ちません。どうかお願い致します。我等有翼人の未来の為、神の使命を全うする為、どうか今一度お考え直して頂きたい! 」
「くどいぞ。如何にこの人間が神に支配のスキルを与えられたのだとしても関係ない。勝手にいなくなったと思えば、こんな人間なんぞを我等の集落に連れてくるとは…… 有翼人としての誇りを忘れたか? 恥を知れ! もうお前と話す事はない。その醜き人間をさっさと追い出し、襲撃に備えるのだ。奴等は必ずまたやって来るぞ」
う~ん、なんでそこまで頑ななんだ? 協力し合おうと言ってるだけで有翼人が損する事は一つもないのに。そんなに面子が大切なのかね?