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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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14

 

 コウリアン山脈を目指してインファネースから旅立ち今日で四日、悠々と聳え立つ山々が眼前に拡がっている。


『やっと着いたか。中腹には人間が勝手に作った村がある筈だ。取り合えず今日はそこまで行くぞ』


 よく見れば、道のようなものが上に向かって伸びている。この道を進んで行けばその村に辿り着くのだろう。しかし僅か四日で此処まで来るなんて、強行軍もいいとこだ。ここからは馬車で村まで向かうので、久し振りに地上でゆっくり出来るな。


『何をそんな気の抜けた顔をしている? お前の魔力操作はまだまだ拙い。さぁ、今日は一日中訓練をするぞ。魔力を繊細に操る感覚を心に刻み付けろ。意識せず出来るようになってからがやっと始まりだ』


 え? 俺はまだスタートラインにすら立っていないの?



 ミカイルの指導を受けつつ、山道を馬車で進むこと数時間。村の入り口へと着いた。


 ふぅ、ほんとに此処までぶっ通しで訓練するとは思わなかった。アグネーゼとエレミアも、俺が動かずにじっとしているから特に何も言ってこなかったが、滅茶苦茶疲れている事をどうか察して欲しかったな。



「のどかな山村って感じね」


 馬車の窓から外を眺めるエレミアがそんな感想を漏らす。木々に囲まれ畑を耕す人々、確かに平和でのどかな村に見える。


「宿みたいに泊まれる所はありそうもないですね」


 アグネーゼが言うように民家ばかりで店の類いが一つも見当たらない。道行く村人に村長の家を聞き、訪ねては幾ばくかの金銭を渡して空き家を借りる事にする。


 その時に村長が山頂に住む有翼人について話してくれた。とは言っても、遥か昔からこの山に住んでいて、決して人前には姿を見せず、たまに上空を飛ぶ影が見えるくらいらしい。


 また行商人だと言ったところ、塩等の調味料や衣服、毛布を求められた。定期的に商人は来てはいるが、俺達みたいにふらっと訪れる者も珍しくはないとのこと。俺の方は村で育てた作物や鞣した毛皮を買い取った。


『フン、商人と分かったらこれだ。卑しいものだな』


 自分達の物を買い取ってほしいと集まってくる村人達の様子を、魔力収納内から窺っていたミカイルが眉をひそめた。


『それが人間の営みというものだ。こうして人々は自分の暮らしを少しずつ豊かにしていく』


 独り言のつもりで言ったのか、返ってきたギルの言葉に少し驚いたミカイルだったが、そのまま会話を続ける。


『営み…… ですか? 翼があれば何処へでも行けて、必要な物を確保出来る。故に翼を持たぬ者は不便で面倒な筈なのに、どうしてこうも文明を築き発展させていけるのでしょうか? 我々はこの千年、発展どころか日に日に苦しくなっていく。人間よりも優れている我々が、何故文明で劣ってしまうのか理解し難い』


『先ず数からして違う。人間はこの世界で最も数多き種族、それに加えて一人一人思想も目的も違う。そんな者達が一つの大陸で生活している。様々な者達の着想と行動力、そして我等と比べて圧倒的に短い生。その少ない時間で激しく命を燃やし、激流の如く時代が流れて行く。文明が急速に発達していくのも頷ける。種族で思想を共有し、悠久の時を過ごすお前達とは違って当然だ』


『つまりは我々と人間では時間の感覚さえも違うと? 成る程、だから数百年前の事すらも忘れ、また同じ事を繰り返す。この世界に人間は必要なのか疑問に思います』


『そもそもこの世界自体が人間の為に造られたと言っても良い。これは彼の方が人間に与えた慈悲であり試練なのだ』


 それっきりミカイルは黙ってしまい、ずっと何かを思案しているようだった。



 村長から借りた空き家で一夜を過ごし、更に山の奥まで馬車を進めるが途中から道がなくなったので、ここからはルーサと馬車を魔力収納へ入れて歩いて向かう。


「エレミアとアグネーゼさんも、辛ければ中に入っていても良いですよ? 」


「い、いえ…… ライル様を放って私だけ休んではいられません」


「私も気にしないで、疲れていないどころか調子が良いわ。きっと自然の香りが濃いからね。何だか体も軽く感じるわ」


 エルフの里で普段から自然に囲まれて暮らしていたからなのかな?


 慣れない山道でアグネーゼは辛そう、もう意地になっているだけだな。これ以上無理はさせられないので、問答無用で魔力収納で休ませる。


 もう限界だったらしく、収納内にある家のテーブルに突っ伏してぐったりとしていた。それでも小さな声で『ライル様…… 申し訳ありません』 と、か細い声で謝罪してくる。


 まぁ、元から体力もそう多くないし、慣れない道だから無理もない。今はゆっくりと休んでほしい。


 まだまだ元気なエレミアと二人で山を突き進んで行くと、突然ミカイルが魔力収納から出てきた。


「ここなら誰か見ている可能性はないな。では、俺が先導するからついてこい」


 お? ミカイルが出てきたということは、目的地までもう少しだな?


 やっとか―― そう安堵したのも束の間。次のミカイルが発した言葉に、俺は絶句した。


「それでは空から我等の集落まで行く。遅れずについてこいよ? もうこれ以上は時間を無駄にしたくなのでね」


 はぁ…… 良くまぁあんな所に集落を作ったもんだ。俺は雲を突き抜ける山頂を睨んだ。

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