表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
411/812

13

 

 コウリアン山脈―― 大陸北東に位置する最も標高の高い山脈であり、その頂上付近に有翼人が集落を築き生活している。そこに至るまでの道は存在してなく、陸路や海路から辿り着く事は不可能。ドワーフの国みたいに地下からの道も無い。ミカイル曰く、空を飛べる者だけが有翼人の集落に足を踏み入れる資格があるのだそうだ。


 だからなのか、今俺は魔力飛行で雲の上にいる。雲と雲との間に見える地上を目にする度に恐怖で股間が縮み上がり、集中が乱れて上手く飛べなくなっていく。


『やれやれ、情けないぞ、ライルよ。まだ飛行を始めたばかりではないか』


 ギルが溜め息を吐き、魔力収納内から話し掛けてくるが今の俺にはそれに答える余裕はない。怖すぎてちょっとでも油断すると気絶してしまいそうだ。


 結局、三十分程で俺は限界を迎えて地上に戻り、馬車の中でぐったりとしている。


『まったく、これでは我等の集落に着くのはいつ頃になるのやら…… しかし魔力量の割に制御が成っていない。その魔力操作は独学か? 』


『いえ、独学ではなくアンネに教わりましたが? 』


 やはりそうかと、何処か納得した素振りを見せるミカイルにアンネが突っ掛かる。


『なによ! なんか文句でもあんの? 』


『いいか? 妖精は確かに魔力は多いし扱い慣れている。だが、その魔力量に頼り制御が大雑把なのだ。要は力任せのごり押し、これでは美しい魔力操作とは言えん』


『んだと~、醜かろうと美しいかろうと関係ねぇ! 使えりゃ良いでしょうが! 』


『仕方ない。この世界で最も魔力操作に優れている俺が、特別に教えてやる。光栄に思えよ? そのスキルに相応しい者にならなければ、授けて頂いた神に失礼だ』


『おいこら! あたしを無視すんなよ!! 』


 よく分かんない内にミカイルから細かな魔力操作を教えて貰える事になった。どうやら本人が言うには、魔力の操作は有翼人が一番長けているらしい。丁度この魔力支配のスキルを使いこなしたいと思っていたので拒む理由はない、有り難くご教授願おう。


『では、これからは飛行した後、馬車で魔力操作の訓練をしつつコウリアン山脈を目指す。休んでいる暇はないぞ? 早速これから訓練に入る。そしたらまた飛行だ』


 どうしてこうなった? 今日はもう飛びたくないよ。ギルさん、お願いだから何とか言ってやって下さい!


『良い機会だから、その高所恐怖症とやらを克服するんだな』


 おのれ、この裏切り者め! ちくしょう、この有翼人は基本ギルの言うことしか聞いてくれないからなぁ…… コウリアン山脈に着くまで俺の心が持つかな?


「大丈夫です。私達がしっかりとお支え致しますので、ご安心下さい」


「あの有翼人が無理を言ってきたなら、殴ってでも止めるわ」


 魔力念話でミカイルの話を聞いていたアグネーゼとエレミアに頼もしい言葉を頂いた。本当にお願いしますよ。



 それからの旅路はもう酷いものだった。まず高高度の飛行で精神を限界まで酷使し、馬車ではミカイルによる魔力操作訓練で神経をすり減らす。心休まる時と言えば食事をしている時と寝ている時だけ。この世界に生まれ変わってから、一番しんどい旅だ。


 エレミアとアグネーゼも宣言通りにサポートはしてくれてはいるが、それでも過酷さは緩まる事はない。


 時折、魔獣や魔物が襲ってはくるけど、ゲイリッヒとエレミアが難なく撃退していくので、障害にもならなかった。


『ライル、おつかれ? ぐったり、してる』


『魔力も体力もそんなに消費している訳でもないのに、なんでそこまで疲れ果てるんかね? 』


『いやいや、心がごっそり持っていかれてんだよ。俺様には分かるぞ、その気持ち』


 今日も一日疲れきって寝転ぶ俺を見て、魔力収納内でムウナ、アンネ、テオドアが何やら言っていた。確かに体力的にも魔力的にも問題はないが、一日でそう何度もあんな高さで飛んでれば心が疲弊してしまうよ。しかもヘロヘロになって降りてきたら、今度はミカイルの扱きが待っている。これで疲れない方がおかしいだろ。


 そんなこんなで国境を超え、聖教国を経由して大陸北東へと馬車を進ませる。途中村や町に寄ってはいるが、その間もミカイルが魔力収納から出てくる事はなかった。もしかして居心地が良くて出たくなかったりして?


 ちょくちょく空を飛んで移動しているので、思ったよりかは早く到着しそうだ。ミカイルの指導により随分と細やかな魔力操作が可能となり、消費魔力も抑えられるようになってきたが、飛行の方はまだ成果が出ていない状況である。


『空が怖いとは、人間は本当に理解し難い種族だ。こんなにも美しく広がる蒼の下で飛ぶのは気持ちが良いというのに』


『ライル。自分の力を、彼の方から授かりしスキルを信じるのだ。さすれば恐怖などは感じない筈。もっと空を楽しめ』


 ギルとミカイルが、唐揚げを肴にハイボールを煽りながら好き勝手言ってくる。


 物心ついた時から空を飛んでるような者達には、この地に足が着かない不安と恐怖は分からないだろうな。でも少しずつ飛行時間が延びてきているから、慣れてはいるのかな?

 俺だって出来れば空を楽しみたいよ? しかしこればっかりはすぐに無理だと思うけどな。俺が空を自由に飛べる日は、もう暫く後になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ