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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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12

 

 これからの方針が決まり、各種族の長達は転移門で戻って行き、後にはミカイルだけが残った。


 …… なんか気まずい。この人これからどうするんだろう?


「不本意だが、お前を我等の集落に連れていかねばならなくなった。案内は俺がしてやるから有り難く思えよ。理解したなら早く出発するぞ」


「ちょ、ちょっと待って下さい! 出発って今すぐですか? 」


「時間が惜しい、いつまたあの者達が襲撃してくるか分からんのだぞ? 」


 いや、急ぐ理由は分かるけど、此方にも色々と準備があるんだよ。じゃないと周りに迷惑を掛けてしまう。


「まぁ待て、ライルにも都合というものがある。暫く時間を与えてやれ」


「ギルディエンテ様がそう仰るのなら…… おい、醜き人間よ。ギルディエンテ様の慈悲で少しだけ待ってやる。早くその準備とやらを済ませろ」


 へいへい、もう有り難くて涙が出てくるね。はぁ…… これから一緒に旅をするのに、先が思いやられるよ。


 俺が周りにまた留守にすると伝える間、ミカイルには魔力収納にいてもらう事にした。だって、外にいたらどんな問題を起こすか分かったもんじゃないからな。


 ミカイルに俺の魔力を受け入れてほしいと頼んだ時は物凄く嫌な顔をされたけど、ギルの説得により何とか了承してくれた。


『こ、ここが人間の中だと言うのか? 流石は神がお与えになった支配スキルだ、ここまでだとは思わなかった』


 初めこそ、魔力収納内に広がる空間とマナの濃さに驚いていたものの、次第に不機嫌になっていく。


『何故、この様なスキルを人間なんかに…… この力があれば我等があんな目に遭わずに済んだものを。それに此処にいる者達は何だ? 魔物にアンデッド、それにあれは千年前に人間共が召喚した化け物ではないか!? 』


『落ち着け、あれはもう世界の驚異にはならない。此処にいるのも彼の方がそう望まれたからだ。この場所はライルが造り出したもの、お前が文句を言える立場ではないのは分かるな? それよりも見よ、この美しい光景を、ここにいる者達は種族も立場も関係ない。かつて我々が共に過ごしていた神の世界とはこういったものであっただろうな』


 騒ぎ立てるミカイルをギルが嗜めると、拳を握り悔しそうに歯噛みする。


 その後、ギルに案内された家でウイスキー飲んでは、その強いアルコールに軽く噎せたのでハイボールにしたり、清酒や焼酎、ワイン等を飲んではその味に驚き、最後には顔をしかめる。


 俺が旅に出る準備をせっせとしている間に、魔力収納内で体験する未知に、夜にはもうすっかりとミカイルは大人しくなっていた。



『どうだ? これが人間の可能性だ。例えお前がこのスキルを授かったとして、ここまでの事が出来るか? 』


『いえ、俺では…… 有翼人ではこんな発想は出来なかったでしょう。愚かで救いようがない人間が、どうしてこんな世界を造れるのか? 幾ら違う世界の記憶を持っていたとしても、同じ人間には変わりないというのに…… 我々が求めて止まない理想が此処にはある。それが嬉しくて、とても悔しい』


 家の窓から外を眺めるミカイルのグラスに、ギルは無言で酒瓶を持ち清酒を注いだ。



 ◇



 それからのミカイルは必要以上に絡む事なく、何かを確かめるように魔力収納内を散策していた。でも口を開けば相変わらずで、エレミアとアグネーゼを苛つかせている。


 そして三日後、やっと諸々の準備を済まして有翼人が暮らしているというコウリアン山脈へと旅立つ時が来た。


「じゃあ、行ってきます」


 母さんとキッカ、シャルルに見送られて店を出た俺達は馬のルーサが引く馬車に乗り込んだ。御者台にはゲイリッヒが座っている。これも俺に仕える者として当然の役目だとか言って嬉々としていたな。


『空から行けば早く着くものを、これだから飛べぬ者は鈍間なのだ』


 魔力収納の中でミカイルが不機嫌に呟く。いや、別に飛べなくはないけど、街中でそれをすると色々と面倒な事になるんだよ。それに最近は全然ルーサを外で走らせて無かったからね。久し振りの外でルーサも嬉しそうで足取りも軽い。


 何時もの南門じゃなく、今回は西門から外へ出て進路を北へ向ける。本来ならのんびりと馬車で進みたい所だけど、ミカイルが言っているように時間が惜しい。ルーサには悪いが、人目につかない場所で馬車を降りて空から行こうと思う。後で存分に走らせてやるから我慢してくれよな。


『でもさ、飛んでるとこなんか見られたら騒ぎになるんじゃね? 』


『フン、そんなのは雲の上まで行けば見られる心配はない』


 何さらっと恐ろしい事を言ってんですかね? そんなの無理に決まってるだろ?


『雲の上って…… 高いとこが怖いライルにはちょっと厳しいかな? 』


『空が怖いだと? 何とも情けない。神から授かったスキルが泣いているぞ? 』


 怖いもんは怖いのだから仕方ないだろ? これでも少しは克服出来たとは思うけど、雲の上までは流石に無理です。


『ふむ、ならばこれを機に完全に恐怖を克服しようではないか』


『名案です、ギルディエンテ様。この情けない人間を、スキルの名に恥じないようにする訳ですね』


 おいこら! 勝手に決めるんじゃないよ! 俺は絶対にそんな高いとこまで飛ばないからな!!

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