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「馬鹿な!? あの有翼人が神を否定するなど、信じられん…… 」
声を張り上げ驚くイズディアにミカイルは自嘲する。
「俺もまだ信じられない。少数ではあるが、我が種族からそんな者達が出ようとはな。神を信じ、敬愛し、使命を全うする事こそが我等の誇りであり全てだ。それを忘れ、あまつさえ神を否定し矛を向けるなどあってはならない! 同じ有翼人として、これほど失望したことはない」
カーミラの奴、俺がサンドレアに行ってる間にそんな事をしていたのか。
「なら、貴方がこうして私達に接触してきたのは、助けを求めてですか? 」
「勘違いするな、リュティスよ。俺は人間の危険性を教えに来ただけだ。次はお前達の種族がそうなるかも知れんぞ? この千年、人間は更に愚劣で危険な種族となった。我々はもう関わるべきではないのだ」
いや、カーミラのような人間は極一部なのだが、ミカイルにとっては人間全体のイメージになってしまうのだろう。
「もうすぐ魔王が誕生し、人間はその数を大幅に減らすだろう。それは良い、問題なのはあのカーミラという人間が何を企んでいるかだ。我が同胞を甘言で誑かし、同じ人間からは神敵として追われる奴を放ってはおけない。何より、同胞のあんな姿をこれ以上晒したくないのだ」
そっか、今まで人間とは隔絶した生活をしていたからか、情報が得られなかったんだな。
俺は自分の知るカーミラの情報を此処にいる皆に話した。彼等は既に知っている事だが、ミカイルは初めて聞く内容に目をつり上げ、体を震わせていた。
「魔王を意図的に誕生させるだと? 神が定めた理すらも己の欲望の為に利用するとは、なんという浅ましさ。何処まで人間は愚かなのだ。神に与えられし使命を果たす為、我等が世界を守る為、あの人間を排除しなければ、何れ人類の殆どが我々の敵になるやも知れんな」
そんな大袈裟な、とは思うがあながち間違いではないのかも。向こうには隷属魔術もあるし、歳を取らない肉体と強大な力を与える技術もある。それ目当てで仲間になる奴等だっていてもおかしくはない。人類全てがカーミラに賛同するなんてあり得ないが、時間が経つ度に敵が増えていくのも考えられる。
「それでワシらと手を組み、一刻も早くそのカーミラと仲間連中を一網打尽にしたい訳じゃな? じゃが、お主らの族長は何と言っておる? まぁ、この場にいないのが答えになってるようじゃがの」
ギムルッドの指摘に顔を顰め、ミカイルは言いにくそうに言葉を発する。
「我が族長は、同胞の不始末は同じ種族である有翼人だけで解決すべきものであり、他者の力は不要と考えておられる。何よりも、同胞達のあんな姿を他の者に見せたくないのだそうだ」
これは我々の沽券に関わる問題だと、有翼人の族長はまともに取り合ってはくれなかったらしい。
「それで貴方が独断で動いている訳ですね? 別に私達が手を取り合うのは構いませんが、人間との関わりを断つ気はありませんよ? 」
「ワシらもじゃ! あんな旨い酒を飲めんようになるのは我慢できんからの」
「私も同じ意見だね。まぁ、私達は人間というより、ライル君を信じている訳だけど。彼がいる限り、人間達と上手くやっていけそうな気がするんだ」
そんな三人の言葉を聞き、納得しきれていないミカイルだったが、どうにか居住まいを正して続ける。
「残念だが仕方ない、これ以上は時間の無駄か…… では、我等が再び協力体制を結び、世界を脅かす者の排除に同意するで良いな? ならば早速お前達に要請する。我等の族長の説得と集落の防衛に手を貸して貰いたい」
族長の説得はまぁ分かるけど、防衛? ミカイルの話によると、カーミラ側についた有翼人が見たことのない空を飛ぶ魔物を引き連れて度々訪れては力を見せ付け、他の有翼人を連れていこうとしてくるのだそうだ。有翼人達も負けじと抵抗を試みるが皆疲弊し始め、もう限界に近いのだと言う。
「空を飛ぶ見たことのない魔物? 空を管理する貴方方でもそんな魔物がいるのですか? 」
「あぁ、我々でもあんな魔物はこれ迄見たことがない。一匹の力はそんなに大したことはないのだが、異様に固い皮膚を持ち、数も多くて苦戦を強いれられている」
リュティスの質問に答えるミカイルの表情は悔しさで歪んでいた。
有翼人も初めて見る魔物。これはもしかしてしなくてもギガンテスと同じように、カーミラが造り出した魔物だろうな。そしてその材料はいったい何なのかが非常に気になるところ。
「初めっからそれが目的じゃったか。ならこんな回りくどい事などせんでも、素直に助けを乞うてれば力を貸してやったというに」
「それでは我々が納得しない。有翼人は他者に頭を下げる訳にはいかないのだ」
ほんと、面倒な種族だね。他の三人も微妙な顔をしているのを見てると、皆同じ思いのようだ。これではこの先上手くやっていけるのか不安しかない。族長ってのはこれよりもっと酷いんだろ? ちゃんと話を聞いてくれるか心配だが、流石に種族のトップが説得する訳だから大丈夫だろう。
「それでは、有翼人の所にはライル君に行って貰いましょうか? 」
「うむ、それが良いじゃろうな」
「私も異議はないよ」
はい? なんでそうなるの?
「ちょっと待て! 何故この人間が我等の集落へと連れていかねばならない? お前達が来るのではなかったのか? 」
そうだよ、この時ばかりは俺もミカイルと同じ意見だ。
「私はこの通り、陸での活動が困難ですので旅は出来ません」
「ワシも、もう歳での。長旅は体に堪えるわい」
「私も里を長く離れる訳にはいかないからね。しかし、ライル君なら、有翼人の所に転移門を設置した後、アンネの精霊魔法ですぐに戻ってこれる。私達はその転移門を通って君達の族長に会いにいけば良い」
態々苦労しなくても、俺がいけば楽できるということらしい。確かに、有翼人達のとこにも転移門は置きたいとは思うけど、なんか腑に落ちない。
ねぇ、転移門を設置したらちゃんと来てくれるんだよね? 次いでだから族長も頼むとか言い出さないよな?