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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十四幕】翼を持つ者の誇りと使命
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10

 

「まぁそう熱くならずに落ち着きなさい。今は昔と違って教会という存在がある。彼等は人間を管理する役目を神から仰せつかった。謂わば私達と同じような者達だ。そのカーミラだって、教会の勢力を掛けて打ち倒さんとしている。もう少し待って様子を見ても良いのではないかな? 」


 大人な態度で宥めてくるイズディアに、ミカイルは顰めっ面を浮かべて上げた腰を下ろす。


「それでも同じ人間、信用は出来ない」


「そもそも私達で世界を守るというけど、具体的にどうするつもりなのかしら? 」


 まだ納得のいかないミカイルにリュティスが質問する。


「我々はこの世界を守り管理する者、ならばやるべき事は決まっている。世界に、神に仇なす愚か者に裁きを下す! 」


「それは我の役目であり、貴様らではない」


 ギルが鋭い眼光をミカイルに向けるが、それを真っ向から受け止める。


「お言葉ですが、ギルディエンテ様が封印されてから千年、此方も色々と変わったのですよ。貴方様の代わりに新たな守護龍である地龍、天龍、海龍、炎龍の四体が属性神によりこの世界に誕生したのです。彼等は今眠りにつき、世界の危機と共に目覚め、敵を力でもって粉砕すると言われています」


「ほぅ? 我の代わりにその様な者が…… 」


 興味深そうに薄く笑うギルの顔は、それはもうあくどいものだった。


「まさか、あなた! 守護龍達を呼び起こすつもり? そんな事をしたらどうなるか分からない訳がないわよね? 」


「俺もそこまで短絡的ではない。だが、それも視野に入れていると言っておこう」


 ミカイルの剣呑な雰囲気が決して冗談ではないと物語っていた。


『守護龍ってのはそんなにヤバイものなんですか? 』


『私が伺った話によりますと、世界の危機に目覚め、その強大の力でもって此の世の生物を四分の一にまで減らし、文明も技術も破壊し尽くしてしまうらしいですよ? 』


 淀みなく答えるゲイリッヒの言葉を聞いて、サァーッと血の気が引いていく。そんな物騒な存在がこの世界に眠っているなんて…… ていうか、ギルの代わりだと言っていたな。本来ギルがその役目を担っていたのか。世界にとっては救いかも知れないが、俺達にとっては正に厄災である。


「さぁ、今すぐにでも人間なんかとは手を切り、我々で世界を守るのだ! 」


「どうして其処で人間と手を切らねばならんのじゃ? 」


「話を聞いていなかったのか? 奴等は何れまた裏切る。手を切るのは早い方がいい」


 その時、ギムルッドが何かを思い付いたようにニヤリと笑った。


「分かったぞ、お主…… 悔しいんじゃろ? 散々見下していた相手が自分達より豊かな暮らしをしておるのが。ようはやっかみじゃな」


「なんだと? …… 確かに、我々が人間に失望し離れた後、暮らしは苦しくなり、豊かとは言えないものにはなった。しかし! 我々は自分の種族に誇りを持ち、日夜与えられた使命に従事している。この翼に懸けて、そんな卑しい思いなど微塵も抱いていない!! その言葉、我々に対する侮辱と捉えても良いのだな? 」


「あぁ、構わぬぞ? 先にワシらを侮辱してきたのはお主らじゃ! ドワーフは恩も怨みも一生忘れぬからな」


 ギムルッドとミカイルがテーブルを挟んでお互いに睨み合う。ドワーフと有翼人との間に何があったのか知らないけど、根は深そうだ。こんなんでよく協力し合おうなんて提案出来たな。


 それからの話し合いは平行線の一途を辿る。人間を信じたいイズディア、ギムルッド、リュティスに、人間をどうしても信じられないミカイル。どちらも譲る気はなく、時間ばかりが過ぎていく。


 次第にミカイルに焦りの色が見えてくる。額には脂汗が滲み、とても苦しそうだ。


「何故、そんなに焦っているのですか? 」


 そんなミカイルの様子が気になり、思わず声を掛けてしまった。先程まで白熱した言い争いをしていた皆が一斉に顔を向けてきてちょっとびびったけど、構わず続ける。


「ミカイルさんは一刻の猶予もないと初めに言いましたよね? その根拠は? 貴方は人間と関わりを絶ったと言ったのに、カーミラの事を知っていたのは何故です? 他にまだ話していない事があるんじゃないですか? 」


 矢継ぎ早に疑問を投げ掛ける俺に、たまらず目をそらすミカイルを見て、周りも何かを察したようだった。


「有翼人の間で何かあったのか? それはカーミラが関係している事なのか? 」


 イズディアの言葉が的を得ていたのか、ミカイルは力なく椅子に座り込んだは俯いてしまった。


 あれほど煩かった室内が、今は痛いほどに静かだ。やがて意を決したように、ぽつりぽつりとミカイルが語る。


「我々は、己の種族と使命に誇りをもって暮らしていた。どんな種族より高潔で、神に愛されていると自負している。しかし、一人の人間が我が種族の者達を貶めた! あろうことか、神を否定する考えを我が同胞に植え付けたのだ! 神を信じきれなくなった者達は、その人間と共に消えていった」


 まさか、有翼人達を洗脳紛いで連れていったのは……


「その人間の名は…… カーミラ。あの女こそ、紛うことなき神の敵だ」



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